風紀委員長は××が苦手

高校最後の夏休み

二十五話

『薫と連絡が取れた。神社の本殿の辺りにいるようだ。迷惑をかけてごめん。』
そんなメッセージが庄司から入ってきたのは、薫を探し出して30分が経った頃だった。
三田はそのメッセージを見てホッとする。それと同時に今自分がいる位置から本殿が近いことに気がついた。
『俺が近くにいるから行ってみるわ。』
三田はそうメッセージを打つと、直ぐに本殿の方へ向かった。
本殿に着くと、会場よりは人は少ないものの、本部も兼ねていることもあり、腕に腕章のようなものをつけた人たちが忙しそうに動き回っていた。
三田はその中から薫を探したが、そのような人物は見当たらなかった。
「あれっ？本殿ってここで合ってるよな？」
自分の知識が心配になり、そう独り言を言いながら、本殿の後ろ側に回ってみる。
すると、途端に人の気配がなくなり辺りは真っ暗に近かった。
三田が目を凝らしながら、その辺りをよく見ると壁に背を預け、膝を抱えて座っている人物を発見した。
よく見ると、服装などが今日見た薫と一致していた。
「薫くん？」
三田が声を掛けるとバッと薫が顔を上げた。
そして、急いで立ち上がるとそのまま、また何処かへ駆けていこうとした。
「ちょっと待って！」
三田は慌てて薫に駆け寄ると、その腕を掴んだ。
「は、離してください！僕は兄貴に連絡したのに、何であんたが来るんだよ。」
薫は目を逸らしたまま、必死に三田の腕を解こうとした。
「ちょっと落ち着いて。一緒に庄司の所に戻ろう。庄司も心配してたよ。」
その言葉を聞くと、薫がキッと三田を睨んだ。
「嘘だ。ここに迎えにだって来ないじゃないか！兄貴は僕の事なんか心配してない。お前達と楽しそうにして、僕なんて邪魔だって思ってたに決まってる。」
余りに偏った薫の言葉に三田は唖然とする。その後も興奮しているのか一度タガが外れた薫はそのまま思いをぶち撒ける。
「兄貴だって、僕しか居なかった筈なんだ。仲のいい友達なんて今まで居た事なかったのに。3年になって兄貴の様子が変わった。電話でもお前達の話ばっかり･･･今日だってあんな楽しそうな顔･･･僕だって見た事ないのに。」
「えっ？なんでそれが悲しい事なの？庄司に友達が出来たなんて寧ろいいことじゃん。」
薫の気持ちが全く理解できない三田は、思ったことをそのまま口にする。
「はっ？僕には兄貴しかいないのに、兄貴だけ友達ができるなんて嫌に決まってるだろ。」
「だったら薫くんも友達作ればいいじゃん。」
薫の言葉に対して、三田が当然のことのように反論する。その言葉に薫はカーッと顔を赤くして怒った。
「そんな簡単な話じゃない！信頼できる奴なんて僕の周りにはいない。汚くて打算的で、嫌らしい奴ばかりだ！」
「世の中、そんなに悪い奴ばっかじゃないけどな。」
三田の言葉に薫が呆れる。
「お前みたいな単細胞な奴はいいよな。でもその内騙されて、裏切られて泣くことになるよ。」
とても高校一年生で発する事じゃない言葉の数々に、三田も薫の過去に何かあったのだと察する事が出来た。
「確かに付き合ってたら、嫌な奴も居るけどさ。誰とも付き合わなきゃいい奴にも出会えないだろ？薫くんがこれまでどんな酷い奴らと関わって来たか、俺には分からない。でもだからって庄司が親しくしてる人間まで否定しないでほしいだ。少なくともあいつらは本当にいい奴らだよ。」
優しい声音で言い聞かせるように三田が言う。これまで庄司の事しか信じられないくらい辛い経験をして来たのだろうと思うと三田の胸も痛んだ。
「あんた、やばいくらいのお人好しだな。こんな奴初めて見た。」
そんな薫の言葉に三田が頭を掻いた。
「そう？ありがとう。でもそれが俺の良いところでもあり、ダメな所でもあるんだけどね。誰彼構わず人を信じちゃうからさ。でもなぁ、最初は皆いい人に見えるんだよな。」
「いや、褒めてないからね。」
薫が胡乱な瞳で三田を見る。
「えっ？そうなの？」
惚けたような三田の姿に薫が脱力する。
「はぁ、もういいです。あんたを見てたら、こうやってムキになるのもバカらしくなる。兄貴の所に帰るから、案内してください。」
思わぬ薫の言葉に三田が目を見開く。
「えっ？そう？それは嬉しいなぁ。」
屈託なく笑う三田を見て、薫が気まずそうに顔を逸らした。
こんな笑顔を自分に向ける人を薫は知らなかった。
「じゃあ行こう。」
さり気なく薫の手を掴み、歩き出す三田に薫は思わず驚く。いつもだったら庄司以外に触られるのは絶対に耐えられないのに、何故か三田だと嫌な感情も湧かなかった。
只々温かいその三田の手を薫は振り解くことか出来なかった。