風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

十一話

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正木は未だ混乱していた。姫川は歳明治でもトップクラスのグループ会社の社長の息子だと思っていたのに、まさかこんな所に住んでいたなんて。
まさか苗字が同じなだけなのか?実際はあのHIMEKAWAとは何の関係もない?いや、そんな筈はない。
正木がそんな事を悩んでいると、
「あら、歩とまだ一緒だったんですか?」
と、後ろから突然声がした。振り向くと、そこには昼間にあった姫川の幼馴染が立っていた。
「あぁ、えーっと。」
名前が思い出せず、正木が困っていると、
「戸崎沙羅です。」
と沙羅がすかさず助け舟を出す。
「あぁ、そうそう沙羅ちゃんだったね。姫川と幼馴染の。」
人好きのする顔で正木が笑顔を向けると、沙羅も笑顔を見せた。
「あの、どうしてここに?歩の家に入らないんですか?」
沙羅の言葉に正木が困った顔を見せた。
「いや、なんかおばあさんに俺が来たことを伝えてくるって。ってか、ここは本当に姫川の家なんですか?あいつ、でっかい会社の御令息じゃないんですか?」
姫川はあまり自分の事を話そうとしないので、今感じている疑問を正木は沙羅にぶつける。
「なるほど。正木さんは歩がどうしてあの学校に入ったか知らないんですね。」
そう言うと沙羅は少し悩むような姿を見せた。しかし直ぐに正木の方を向くと口を開いた。
「あの、これからする話は私たちの秘密にしてもらえますか?私が話したって知ったら、歩が怒ると思うし。」
言いにくそうにしながらも何かを伝えてくれようとしている沙羅に正木が慎重に頷く。すると沙羅はポツポツと話し出した。
「私達が物心ついた頃から、歩はずっとここで暮らしていました。歩のお母さんとおばあちゃんとの3人暮らしです。でも歩が中学生の頃、お母さんが病気で亡くなったんです。そして、歩が中学3年になった頃、父親と名乗る男がここにやってきました。その人物が姫川です。歩のおばあちゃんは田中っていう性なんですけど、お母さんと歩は姫川性を名乗っていました。おそらく姫川の愛人だったと思います。」
沙羅の衝撃の告白に正木の頭はなかなかついていかなかった。尚も沙羅は話を続ける。
「歩のお母さんは、姫川に借金があったらしく歩に借金返済の代わりにあの学園に入学することを提案しました。あの学園で10位以内に入り、姫川の下で働く。それが父親が提示した条件です。それができたら今まで通りの生活を約束すると父親は言っていたそうです。」
姫川の過酷な現状を知った正木は直ぐには口を開くことが出来なかった。それと同時に自分が姫川に今までぶつけてきた感情がいかに自分勝手なものかを知った。一般家庭で育ったことにコンプレックスを抱き、姫川に嫉妬していたことも。見下されていると勘違いして冷たい態度をとってきたこともだ。その事実に正木は打ちのめされた。
正木は暫く呆然とその場に立ち尽くしていた。その間沙羅は特に口出しする事なくひたすら、正木の反応を待っていた。
「どうしてその話を俺に?」
呟くようにやっと正木が言った。
「うーん。なんでだろ?でも、正木さんすごく歩の事を大切に思ってくれているみたいだったし。私はあの学園で歩を守ってあげられるわけじゃないから。その役目を正木さんに託したかったのかも。」
「俺はそんな資格はないのかもしれない。姫川の生い立ちも知らず、今まで散々酷い事を言ってしまった。」
後悔を隠そうともせず、正木が苦しそうな顔で沙羅に言った。
「それは、歩が話してなかったんだから仕方ないよ。私、さっきの2人の様子を見て凄く嬉しかったんだ。多分今までは、話せる人もあんまりいなくて、1人でずっと頑張ってきたと思うの。だから、そんな歩に正木さんみたいな友達が出来て良かったと思ってる。だからどうかこれからも歩といい関係でいてあげてください。きっとあいつなりに不安な時もあると思うから、そんな時はどうか側で支えてあげてください。」
そう言うと、沙羅は深々と正木に頭を下げた。
「あの、顔をあげてください。言われなくてもそんな簡単にあいつの側を離れるつもりはありませんから。まぁ、俺はお友達以上の関係を俺は望んでいるんだけどね。」
正木は沙羅の肩に優しく手を置くと笑顔を見せた。
「どんな関係であろうと、歩が幸せなら私は応援します。」
正木の言葉に安心したのか、沙羅もここにきて初めて可愛らしい笑顔を正木に向けた。
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