風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

十二話

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2人が話している所へ姫川が戻ってきた。沙羅がその場にいることに驚きつつも、祖母から了解を得たらしく、正木を家へと案内する。
「お前もついて来るのか?」
嬉しそうに後をついてくる沙羅に姫川が呆れたような声を出す。
「うん!あんまり正木さんとも話せてないし。折角だったら、歩の学校での様子や2人の出会いについて聞こうかなぁと思って。」
「出会いって、馴れ初めみたいに言うな。」
沙羅の言葉に姫川が嫌そうに抗議する。
「いいよ。俺たちの関係を沙羅ちゃんには特別に色々教えちゃう。俺たちがどんなコミュニケーションをとっているのか沙羅ちゃんも気になるだろ?」
そう言って姫川の肩に正木が手を置くと、みるみる姫川の顔が赤くなる。
「本当にやめろって言ってんだろ!」
「もう、歩は本当に照れ屋さんなんだから。」
「姫川は本当に奥手なんだから。」
会ったばかりだというのに、妙に気が合う沙羅と正木に姫川はガクッと肩を落とした。そして2人が連むと碌なことがないということを知った。
家に入ると、正木が興味深そうに駄菓子屋の中をキョロキョロと見回す。
「俺がこんな家に住んでいて驚いたか?」
「いや、駄菓子が懐かしいなと思って。ってか俺はお前が豪邸に住んでると思ってたんだけど。こういうことは前もってちゃんと教えろよ。」
家を知られて、正木がどんな反応をするのか少し不安だった姫川だが、返ってきた反応の中に引いた様子も、同情も特感じられないことに安堵する。
「別に聞かれなかったしな。それに正木をこの家に来させる事があるなんて思いもしなかったから。」
そんな話をしながら、姫川はさっさと駄菓子屋の奥にある住居スペースに足を踏み入れようとする。
沙羅は2人の会話を静かに聞きながら、後についていく。
その時、住居へと続く入り口の暖簾が上がり、姫川の祖母が顔を出した。
「こんにちは。」
顔をクシャッと崩して正木に笑顔を見せる。
「まぁ、すごい色男だね。歩が高校のお友達を連れて来るなんて初めてで、私もとても嬉しいわ。良かったら今日はゆっくりしていってね。」
優しそうな姫川の祖母を見て、正木も笑顔になると、一歩前に出て頭を下げた。
「正木恭治といいます。姫川くんにはいつも学校で助けられています。今日は、ここに来られて本当に嬉しいです。ありがとうございます。」
正木の丁寧な挨拶に祖母は目を丸くする。
「まぁまぁ、素敵な友達ができたね。沙羅ちゃんも来たのかい?さぁ上がって上がって。」
祖母は正木の事が気に入ったのか、嬉しそうに家に招き入れる。
沙羅といい、祖母といい、どんどん自分の近しい人の心を掴んでいく正木に姫川軽く驚きを覚える。
正木がこんなにも人とコミュニケーションを取るのが上手いとは知らなかった。
いつも余裕があって、堂々としている印象しかない正木の新たな一面を知って、姫川は密かに正木を見直すのだった。



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