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第六話 突然の訪問1
しおりを挟む6/25~
今日までで一つわかったことがある。
虹色の炎は、相手を褒めるときや、相手に感謝するときなどの、相手を喜ばすようなポジティブの言葉を発すると強くなる。けれど、だいたい燃えている人は、気まずそうな表情のことが多い。燃える前に、会話がワンテンポ遅れたり、または止まってしまったり。
ここ十日忙しくてあまり、観察ができなくて分かったのはこれっぽち。もっと知らなければ……。
そのうえ、頭痛はどんどん酷くなっていく。たまに、くらりと倒れてしまいそうになるほど。目のあたりに触れようとすると、痛みはすこしだけ落ち着く。一体なんなのだろう、この眼と関係しているのか、ただ病気なのか。まだ酷くなるなら、病院にいくべきかもしれない。
私は一応日記を付けておこうと、引き出しから日記帳を取りだす。その瞬間、ドンドンと玄関のドアのたたく音が聞こえた。
「こんな時間に……?誰かしら」
急いで入口近くにむかうと、女性が一人そこに立っていた。
「ああディーナ! ねえお願い。今晩だけでいいの、泊めてくれない?」
深夜に突然訪ねてきた女性は、学園に居た頃から親友だった、ミヤだった。麻でつくられたフードを被って、質素な服を着ている。従者も付けず、女性がこんな時間に出歩くなんて、危険だわ。多分彼女もわかっているから、この格好で来たのだろうけれど。
フードを取った彼女の顔は、何かに怯えていて、少し身体が震えていた。私は執事に彼女の為の毛布をもってこさせ、客間に案内した。
「で……どうしたの」
「私の、旦那の話はしたことあったっけ」
「優しくて落ち着いてる、と、貴女から聞いたのはそれだけよ」
「……そっか。私ね、当たり前だけど政略結婚なの。第一印象は、さっき言ったみたいに優しくて落ち着いた人だったんだけど、実は彼すっごく酒癖が悪かったの。でも一年に四回とか、飲む回数は少なくて、嫌だったけれどそこまで大事には思ってなかった。最近、ビールとは違うお酒が流行ってるの知ってる? 外国産の、"サレバド" ってものなんだけど。私達の領地では、ビールの原料を育てて収入を得ているから、サレバドのせいで全くうまくいかなくなってきてて、領民が飢え始めてるの。それせいか彼……突然領主の仕事を放棄してそのお酒に手を出し始めてね。毎日よ、毎日。私に向かって瓶を投げたり、殴ったり、壁や物をこわしたり。使用人たちもほとんど出て行ってしまって、彼を抑える人が、誰もいなくなってしまったの。もう、逃げ場がなくって……」
彼女の喋りは、だんだん早まっていく。ミヤのほうがそんなに大変なことになっているなんて。彼の旦那は話したことも見たこともなかったけれど、まさか妻に暴力をふるうほど酒癖が悪いとは。……でもミヤは、突然お酒に手をだした、と言っていた。もしも、彼がサレバドに対してライバル心があったとしたら、そんなお酒口にはしたくないんじゃないだろうか。……変に考えるのはよそう。
何か、力になれないだろうか……
私は取り合えず、自室にミヤを案内した。
「そのサレバドっていうのは、彼はいつ手に入れたの?」
「わからない。夫はその酒や、情報を領地にいれないように、制限していたの。けれど、いつの間にか彼はその酒にハマってて。サレバドは安い上に中毒性が高いみたいだから、いま家には沢山あるよ」
「……」
どこか不気味だ。やっぱり彼は酒を飲まないようにしていたんだ。
「こ、こんな話ばっかりしてたら不安になって眠れなくなっちゃうね。なにか明るい話しよう」
ミヤは上に着ていたフードを脱ぐ。私は彼女に薄いワンピース型の寝巻を手渡しする。
「そういえば、愛犬は元気? ほら学園で拾った」
「あ、う……うん、元気――だよ」
彼女が俯き、そう言葉を発したとたん、――紺色の炎がぶわっと私の目の前で勢いよく燃え始めた。
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