37 / 48
第八章
騎士アレフとウサギの友達 (5)
しおりを挟む
闘技場の対岸に行くため、騎士用の地下通路を経由した。
道中、ショーが素振りしていたり、ワッカやワット、ベネットと名前は知らないが、三人によく似た男女と会話している姿を見かけたりした。
そんな彼らを傍目に、目的地である来賓席への登り階段を見つけた。
だが、そこには二名の強面な男が、腕を組んでパイプ椅子に座っていた。
腰には鞘に入れた剣と携えており、左手にはアーティファクトをはめ込んだグローブを装着していた。
アレフたちは観客席への登り階段の陰に隠れ、男たちの様子をうかがっていた。
「騎士だね。ちゃんとアーティファクトを装備してるや」
「さすがに話をしても通してくれないよね」
マクレインは過去に騎士団を率いていたから入れたのであろう。
来賓室には他にもお偉方たちがいるに違いない。
そんな中にアレフたちが入れるわけがなかった。
「……戻るか。手紙でマクレイン先生のこと見つけたって書こう」
「そうね。残念だけど」
アレフとエトナが悲しそうに呟くと、エトナの背中を誰かが叩いた。
エトナは思わず悲鳴を上げ、その声にアレフは後ろを振り返った。
「すみません。なんだか困っているようだったので、脅かすつもりはなかったんです」
アレフが見上げるような高さに顔があり、その顔は甘栗色の毛並みをしたウサギの顔をしていた。
「あ、あなたは先ほど道案内してくれた……」
「ええ、テスタロッサの守衛騎士です。名はラビー・フット。愛称を込めて、ラビーちゃんで構いません。アレフ・クロウリー様」
目を細めて髭を震わせながら、ラビーは笑顔を作って挨拶をした。
「えっと、アレフ・クロウリーです。こっちは、エトナで……。って名前を知ってるんですね」
「ええ。先ほどの戦いを見させて頂きましたから、すぐに素性を調べましたよ。実に良い戦いでした、クロウリー様。是非とも、卒業後は私たちの騎士団。テスタロッサ騎士団にお入りください。歓迎いたしますよ」
「あはは、ありがとうございます。それと、僕は呼び捨てで構いません」
アレフは頭を掻きながら応えた。
ラビーが今度はエトナの方を向くと、一礼をした。
「エトナ・クロウリー様。あなたのお噂はかねがね。して、どのようなお困りごとが」
エトナはアレフの後ろに隠れるように移動すると、「来賓席に用があるんです。
私たちの育ての親がいるので、会いに行きたいんです」と話した。
「なるほど、来賓席ですか。そうですね、さすがにお二人は通れませんし」
ラビーは考える素振りを見せると、何か思いついたのか「そうだ」と呟いた。
「来賓席に行くための抜け道があるのです。どうぞ、付いて来て下さい」
ラビーはそう言うと、観客席の登り階段から出て、男たちの方へ向かっていった。
アレフたちは訳が分からぬまま、ラビーに付いて行った。
アレフたちはラビーの後ろにピッタリ付いて行き、男たちの前を通り過ぎた。
その際、男たちは目を離さぬようにこちらを凝視しており、アレフたちが一つ先の観客席の登り階段まで行くと目を離した。
ラビーは観客席の登り階段まで進むと、階段の途中で立ち止まった。ラビーは後ろを振り返り、アレフたちの方を見る。
「さて、お二方。目を閉じてください。ちょっとした魔法を使うので、見て欲しくないのです」
「魔法?」
「比喩です。魔法なんてものは、遠い昔に無くなりましたから。さあ、目を閉じて」
アレフたちは言われるがまま目を閉じた。
ラビーはアレフたちが目を閉じていることを確認すると、来賓席側の壁を叩き始めた。
アレフたちが「もう目を開けていいですよ」と言われるまで十秒も掛からなかったが、アレフたちの目の前には、人一人が通れるほどの石造りの通路が出来ていた。
アレフたちが驚いていると、ラビーが「元々は避難用通路なんですけどね」と話した。
アレフたちはラビーに連れられ、避難用通路を歩いて行くと、すぐに階段が現れた。
その階段を登ろうとするが、頭上には石造りの天井が広がっており、道なんてものはなかった。
ラビーが天井を見上げ、石の天井を二回ノックする。
ギギギ、と石の引きずる音と、歯車の噛み合う音が聞こえ、天井が横に移動する。
アレフたちの頭に砂埃が降りそそぎ、それを払い終わった頃には、青空が叩いた場所から覗かせていた。
「さあ、ここを登って下さい。そうすれば来賓席です。ですが、すぐ戻って来てください。特にアレフ君は見つかって、出場停止にはなってほしくありませんから」
ラビーが階段から降り、アレフたちに道を譲る。
アレフとエトナは、ラビーに対してありがとう、と言うと、階段を勢いよく登っていった。
アレフとエトナが階段を登った先は、来賓席の一番上にあたる部分で、幸いにも、誰の目にも止まらない場所であった。
「えっと、マクレイン先生は……。あっちの方。目の前の階段を降りてすぐだよ」
エトナは指を差しながら、闘技場の中心に向かって、目の前の階段を降りていった。
アレフもそれに続いて、階段を降りていった。
マクレインに会うことに、二人は懐かしさを感じていた。
嬉しさや、至高の幸福よりも異なった感覚。
心を揺りかごのように揺する感覚。
何処からか聞こえる鐘の音色と、雨上がりの土のにおいが記憶の中で呼び起こされ、想像するだけであの孤児院に戻ってきたような安心がアレフたちの心を包んだ。
「マクレイン先生!」
アレフとエトナが同時に名前を口にした。
名指しされた本人はさぞ驚いただろう。
声の方へ振り返り、目を真ん丸にしていた。
「アレフ! エトナ! 元気そうで何よりだわ!」
マクレインのハリのある頬に笑みを浮かべた。
隣にいるローレンスも驚きはしたが、マクレインやアレフたちの様子を見て、表情は微笑みへと変わった。
マクレインは少し膝を曲げ、アレフたちと同じ目線までしゃがむと、寄ってきたアレフとエトナを優しく抱き寄せた。
「んー、二人ともいい顔をしているわ。手紙は貰っていたけど、やはり直接会わないと分からないことがあるものね」
マクレインは抱擁を止め、二人の目を見た。
マクレインは笑顔でアレフとエトナの肩を叩き、アレフたちも笑顔でマクレインの顔を見た。
「二人とも立派になって……。アレフはガタイが良くなったわね。さっきの試合も見ていたわ。あなたらしい戦い方だと思ったもの」
「ありがとう先生。先生も元気そうで何よりだよ」
「エトナも。ローレンス騎士団総長から聞いたわ。友達の為にロストフォレストに行ったんですってね。あなたの勇気で人を救えるなんて、私はとても誇らしいわ」
「ありがとう先生。私は自分のするべきことをしただけだよ」
アレフたちが感動の再開を傍目で見ていたローレンスは「もう少し、休みの日を増やすべきかのう……」と口ひげを触りながら呟いた。
「会えてうれしいけど、ここは来賓席よ。どうやって入ってきたは聞かないでおくけど、あんまり長居はしては駄目よ」
マクレインは心配そうな顔をし、二人を見つめた。
「分かってる。だから、これだけは言わせて」
アレフはマクレインの目を真っ直ぐ見つめていた。
「絶対、次の試合も活躍するから」
そう言って、アレフとエトナはその場を去った。
勢いよく階段を登っていく後ろ姿を見て、マクレインはどこか安心したように息を吐いた。
「半年ぶりの再開はどうでしたかな?」
ローレンスもマクレインと同じく、アレフとエトナの背中を見つめていた。
「正直、驚きと安心で頭の中が一杯です。この後、私自ら探しに行くつもりでしたが。先を越されてしまいました」
「ふぉふぉふぉ。彼らの行動力には、私も驚かされている。ロストフォレストの件といい、禁書庫の侵入といい。まったく、エルトナムの学院長をしてて良かった」
ローレンスの言葉にマクレインは耳を疑った。
「禁書庫へ侵入ですって?」
しまった、と言わんばかりに、ローレンスは口元を手で隠した。
「禁書庫で一体何を見たんです?」
マクレインは先ほどの朗らかな表情とは打って変わって、真剣な表情でローレンスを見つめた。
「なに、透明の剣についての文献じゃ。ケテル先生が書いたあれじゃな。近々、図書室の本棚に戻すつもりであったから、あえて彼らには、禁書庫に侵入したことを咎めていないが。そういえば、ケテル先生も来ていたはずじゃが……」
ローレンスは辺りを見渡した。
「透明な剣ですか……。他には何も見てないですか? 例えば〝銀の門〟や自然公園の件や……。もし仮に、〝銀の門〟のことを知ったら、きっとアレフは探し求めるでしょうね」
思いつめた様にマクレインは顎に手を乗せ、考え始めた。それを見たローレンスは、ふむと口髭を触った。
「そうなるやもしれんが、そうならないやもしれん。あの子は私と同じく、セシリアの花を受け取った。そんな人間が道を誤るとは思わん。〝銀の門〟。死した人間でさえ呼び戻す、幽世の門。しかし、誰も見たことはない。昔の人間の狂言かもしれない。そんなものを追い求めるほど、アレフは馬鹿ではあるまい」
「……」
マクレインは思い出していた。
アレフとエトナを孤児院で育てることになって、一年経ったころ、アレフが突然、自分の両親を探しに行くと言い出したのだ。
孤児院のみんなが、一度は両親に対して、疑問に思う課題にアレフも直面し、そして誰の静止も聞かず、家出をした。
仲の良いエトナを置いて、特に荷物を持たず、二週間の家出だった。
警察にも連絡をし、孤児院のみんなで探して、そして見つかった場所は事件のあった自然公園だった。
見つかったアレフは頬骨が浮き彫りとなり、泥のような体をしていて、生きているのが不思議なくらいとまで言われるほどの見た目をしていた。
だが、マクレインはアレフが見つかった安堵よりも、アレフの目を見て恐怖を抱いた。
アレフの目はまるで獲物を狩る獣のような目をしていた。
絶対に探し出すという目、体がボロボロになってもなお、諦めないという目をアレフはしていた。
何かに憑依されたように、六歳の子どもと思えないほど、執着心がアレフの体から滲み出ていた。
そんな出来事を知っているからこそ、マクレインはアレフの底知れぬ執着心を心配していた。
普段大人しいアレフがもし、両親を蘇らせると決めたのなら、死んでも探すだろうと、マクレインは人知れず畏怖していたのだった。
道中、ショーが素振りしていたり、ワッカやワット、ベネットと名前は知らないが、三人によく似た男女と会話している姿を見かけたりした。
そんな彼らを傍目に、目的地である来賓席への登り階段を見つけた。
だが、そこには二名の強面な男が、腕を組んでパイプ椅子に座っていた。
腰には鞘に入れた剣と携えており、左手にはアーティファクトをはめ込んだグローブを装着していた。
アレフたちは観客席への登り階段の陰に隠れ、男たちの様子をうかがっていた。
「騎士だね。ちゃんとアーティファクトを装備してるや」
「さすがに話をしても通してくれないよね」
マクレインは過去に騎士団を率いていたから入れたのであろう。
来賓室には他にもお偉方たちがいるに違いない。
そんな中にアレフたちが入れるわけがなかった。
「……戻るか。手紙でマクレイン先生のこと見つけたって書こう」
「そうね。残念だけど」
アレフとエトナが悲しそうに呟くと、エトナの背中を誰かが叩いた。
エトナは思わず悲鳴を上げ、その声にアレフは後ろを振り返った。
「すみません。なんだか困っているようだったので、脅かすつもりはなかったんです」
アレフが見上げるような高さに顔があり、その顔は甘栗色の毛並みをしたウサギの顔をしていた。
「あ、あなたは先ほど道案内してくれた……」
「ええ、テスタロッサの守衛騎士です。名はラビー・フット。愛称を込めて、ラビーちゃんで構いません。アレフ・クロウリー様」
目を細めて髭を震わせながら、ラビーは笑顔を作って挨拶をした。
「えっと、アレフ・クロウリーです。こっちは、エトナで……。って名前を知ってるんですね」
「ええ。先ほどの戦いを見させて頂きましたから、すぐに素性を調べましたよ。実に良い戦いでした、クロウリー様。是非とも、卒業後は私たちの騎士団。テスタロッサ騎士団にお入りください。歓迎いたしますよ」
「あはは、ありがとうございます。それと、僕は呼び捨てで構いません」
アレフは頭を掻きながら応えた。
ラビーが今度はエトナの方を向くと、一礼をした。
「エトナ・クロウリー様。あなたのお噂はかねがね。して、どのようなお困りごとが」
エトナはアレフの後ろに隠れるように移動すると、「来賓席に用があるんです。
私たちの育ての親がいるので、会いに行きたいんです」と話した。
「なるほど、来賓席ですか。そうですね、さすがにお二人は通れませんし」
ラビーは考える素振りを見せると、何か思いついたのか「そうだ」と呟いた。
「来賓席に行くための抜け道があるのです。どうぞ、付いて来て下さい」
ラビーはそう言うと、観客席の登り階段から出て、男たちの方へ向かっていった。
アレフたちは訳が分からぬまま、ラビーに付いて行った。
アレフたちはラビーの後ろにピッタリ付いて行き、男たちの前を通り過ぎた。
その際、男たちは目を離さぬようにこちらを凝視しており、アレフたちが一つ先の観客席の登り階段まで行くと目を離した。
ラビーは観客席の登り階段まで進むと、階段の途中で立ち止まった。ラビーは後ろを振り返り、アレフたちの方を見る。
「さて、お二方。目を閉じてください。ちょっとした魔法を使うので、見て欲しくないのです」
「魔法?」
「比喩です。魔法なんてものは、遠い昔に無くなりましたから。さあ、目を閉じて」
アレフたちは言われるがまま目を閉じた。
ラビーはアレフたちが目を閉じていることを確認すると、来賓席側の壁を叩き始めた。
アレフたちが「もう目を開けていいですよ」と言われるまで十秒も掛からなかったが、アレフたちの目の前には、人一人が通れるほどの石造りの通路が出来ていた。
アレフたちが驚いていると、ラビーが「元々は避難用通路なんですけどね」と話した。
アレフたちはラビーに連れられ、避難用通路を歩いて行くと、すぐに階段が現れた。
その階段を登ろうとするが、頭上には石造りの天井が広がっており、道なんてものはなかった。
ラビーが天井を見上げ、石の天井を二回ノックする。
ギギギ、と石の引きずる音と、歯車の噛み合う音が聞こえ、天井が横に移動する。
アレフたちの頭に砂埃が降りそそぎ、それを払い終わった頃には、青空が叩いた場所から覗かせていた。
「さあ、ここを登って下さい。そうすれば来賓席です。ですが、すぐ戻って来てください。特にアレフ君は見つかって、出場停止にはなってほしくありませんから」
ラビーが階段から降り、アレフたちに道を譲る。
アレフとエトナは、ラビーに対してありがとう、と言うと、階段を勢いよく登っていった。
アレフとエトナが階段を登った先は、来賓席の一番上にあたる部分で、幸いにも、誰の目にも止まらない場所であった。
「えっと、マクレイン先生は……。あっちの方。目の前の階段を降りてすぐだよ」
エトナは指を差しながら、闘技場の中心に向かって、目の前の階段を降りていった。
アレフもそれに続いて、階段を降りていった。
マクレインに会うことに、二人は懐かしさを感じていた。
嬉しさや、至高の幸福よりも異なった感覚。
心を揺りかごのように揺する感覚。
何処からか聞こえる鐘の音色と、雨上がりの土のにおいが記憶の中で呼び起こされ、想像するだけであの孤児院に戻ってきたような安心がアレフたちの心を包んだ。
「マクレイン先生!」
アレフとエトナが同時に名前を口にした。
名指しされた本人はさぞ驚いただろう。
声の方へ振り返り、目を真ん丸にしていた。
「アレフ! エトナ! 元気そうで何よりだわ!」
マクレインのハリのある頬に笑みを浮かべた。
隣にいるローレンスも驚きはしたが、マクレインやアレフたちの様子を見て、表情は微笑みへと変わった。
マクレインは少し膝を曲げ、アレフたちと同じ目線までしゃがむと、寄ってきたアレフとエトナを優しく抱き寄せた。
「んー、二人ともいい顔をしているわ。手紙は貰っていたけど、やはり直接会わないと分からないことがあるものね」
マクレインは抱擁を止め、二人の目を見た。
マクレインは笑顔でアレフとエトナの肩を叩き、アレフたちも笑顔でマクレインの顔を見た。
「二人とも立派になって……。アレフはガタイが良くなったわね。さっきの試合も見ていたわ。あなたらしい戦い方だと思ったもの」
「ありがとう先生。先生も元気そうで何よりだよ」
「エトナも。ローレンス騎士団総長から聞いたわ。友達の為にロストフォレストに行ったんですってね。あなたの勇気で人を救えるなんて、私はとても誇らしいわ」
「ありがとう先生。私は自分のするべきことをしただけだよ」
アレフたちが感動の再開を傍目で見ていたローレンスは「もう少し、休みの日を増やすべきかのう……」と口ひげを触りながら呟いた。
「会えてうれしいけど、ここは来賓席よ。どうやって入ってきたは聞かないでおくけど、あんまり長居はしては駄目よ」
マクレインは心配そうな顔をし、二人を見つめた。
「分かってる。だから、これだけは言わせて」
アレフはマクレインの目を真っ直ぐ見つめていた。
「絶対、次の試合も活躍するから」
そう言って、アレフとエトナはその場を去った。
勢いよく階段を登っていく後ろ姿を見て、マクレインはどこか安心したように息を吐いた。
「半年ぶりの再開はどうでしたかな?」
ローレンスもマクレインと同じく、アレフとエトナの背中を見つめていた。
「正直、驚きと安心で頭の中が一杯です。この後、私自ら探しに行くつもりでしたが。先を越されてしまいました」
「ふぉふぉふぉ。彼らの行動力には、私も驚かされている。ロストフォレストの件といい、禁書庫の侵入といい。まったく、エルトナムの学院長をしてて良かった」
ローレンスの言葉にマクレインは耳を疑った。
「禁書庫へ侵入ですって?」
しまった、と言わんばかりに、ローレンスは口元を手で隠した。
「禁書庫で一体何を見たんです?」
マクレインは先ほどの朗らかな表情とは打って変わって、真剣な表情でローレンスを見つめた。
「なに、透明の剣についての文献じゃ。ケテル先生が書いたあれじゃな。近々、図書室の本棚に戻すつもりであったから、あえて彼らには、禁書庫に侵入したことを咎めていないが。そういえば、ケテル先生も来ていたはずじゃが……」
ローレンスは辺りを見渡した。
「透明な剣ですか……。他には何も見てないですか? 例えば〝銀の門〟や自然公園の件や……。もし仮に、〝銀の門〟のことを知ったら、きっとアレフは探し求めるでしょうね」
思いつめた様にマクレインは顎に手を乗せ、考え始めた。それを見たローレンスは、ふむと口髭を触った。
「そうなるやもしれんが、そうならないやもしれん。あの子は私と同じく、セシリアの花を受け取った。そんな人間が道を誤るとは思わん。〝銀の門〟。死した人間でさえ呼び戻す、幽世の門。しかし、誰も見たことはない。昔の人間の狂言かもしれない。そんなものを追い求めるほど、アレフは馬鹿ではあるまい」
「……」
マクレインは思い出していた。
アレフとエトナを孤児院で育てることになって、一年経ったころ、アレフが突然、自分の両親を探しに行くと言い出したのだ。
孤児院のみんなが、一度は両親に対して、疑問に思う課題にアレフも直面し、そして誰の静止も聞かず、家出をした。
仲の良いエトナを置いて、特に荷物を持たず、二週間の家出だった。
警察にも連絡をし、孤児院のみんなで探して、そして見つかった場所は事件のあった自然公園だった。
見つかったアレフは頬骨が浮き彫りとなり、泥のような体をしていて、生きているのが不思議なくらいとまで言われるほどの見た目をしていた。
だが、マクレインはアレフが見つかった安堵よりも、アレフの目を見て恐怖を抱いた。
アレフの目はまるで獲物を狩る獣のような目をしていた。
絶対に探し出すという目、体がボロボロになってもなお、諦めないという目をアレフはしていた。
何かに憑依されたように、六歳の子どもと思えないほど、執着心がアレフの体から滲み出ていた。
そんな出来事を知っているからこそ、マクレインはアレフの底知れぬ執着心を心配していた。
普段大人しいアレフがもし、両親を蘇らせると決めたのなら、死んでも探すだろうと、マクレインは人知れず畏怖していたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる