最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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聖戦の終わり編

104話「終わりと始まり」(第1部完結)

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 最強の創造神ガデルズ撃破にアルガスト大陸は歓喜に沸いた。1年以上の時間を費やして聖戦を支援してきた国々もこれには反乱軍に功績を与えるべきだと騒ぐ国も多かった。
 しかし、真実を知っているアルスとハルトはその言葉に隠されている想いを知らない訳じゃない。神々の統治がない今の世界で支配をして世界を手中に収める事を叶える事が出来る事に野望を抱く者達がいない訳ではないのだ。
 しかし、アルスもハルトもそうさせない為の方法を考えなくてはならない立場にある。聖戦を終わらせた英雄として2人は世界中に認知されたからだ。

「これは本国に戻ったら慌ただしいね。聖戦の功績を勲章として与える国々も多く出てくるだろう」
「ハンターのギルドも俺やハルトに最高ランクのランクを与えてくれるだろうな。まぁ、そんなの俺には相応しくねぇけれどさ」
「ガルガルも大忙しだろうね。僕やアルス君の事はサポートしてきた者達が多いし、竜騎士部隊を指示していたのは間違いなくアルス君だ。認められるだろう」
「ハルト、アルス、あまり嬉しそうじゃない、どうして?」
「俺達はこの世界に認められてもいつかは死んじまう。人材を育てていく事を考えたら今の内しか楽に生きれねぇんだよ」
「僕もアルスもこの後の世界を見届ける役目がある。それはどんなに酷い世界になったとしても僕達が解放した世界として受け入れていく必要がある。僕達は神々からこの世界を取り返した英雄であり、神々を殺した神殺しの罪人だって事、覚えてないといけないんだよ」

 アルスとハルトの言葉にコルもベリオもアルシェードも黙り込む、ティドールも静かにその言葉の重さを痛感しているのだろう黙っている。そして、そこに聖女として同行し神に転生したエテルナが入ってくる。
 女神として転生した今、聖女としては国に留まる事は許されないのだが国々の争いを懸念したルーディス神が暫く人間達と生活する事を望んだ事でこのアルバーン国を中心に、神としてはなく神に近い者として人々に聖戦の苛烈さを伝え聞かせる語り部として生活する事にした。アルバーンはルーディス神を守護神として信仰する事にした為にルーディス神を城に招き国々の方向性を決める為の意見を出し合っている状態である。
 アルスとハルトの言葉を黙って聞いていたエテルナは静かに2人の傍に近寄ると頭を下げてくる。それは自分の無力さ故に2人に役目を負わせた事による謝罪であった。

「アルス様やハルト様のお話しからこの世界は本当の意味で創造主から解放されたばかり。その世界で私やルーディスは神として君臨する事をしないで済んでいるのはお2人が国々に中立国家を築き、世界の安泰を担っていく役目を与えようとしているから。私やルーディスがこうして心穏やかに過ごせる事は何より私やルーディスにはありがたい事なのです。でも、本当ならお2人がそのお役目に就かないでいい様に手配しなくてはならない筈ですのに……」
「エテルナさん、僕達は託された想いをまだ持ち続けているだけ。この身体が朽ちて土に還る時まで僕達はこの想いを果たし続けていくと決めただけなんです。貴女がそこまで背負い込む必要もない。僕達は共に激戦を勝ち抜いてきた仲間じゃないですか」

 ハルトはそう言ってアルバーンの国で軍師に与えられる服装に身を包んでいる姿で微笑む。アルスはガルガル支部から支給された「覇王」の称号服に身を包んで笑っていた。
 アルシェード達はそんな2人の姿に自分達に負担が行かない様にしてくれている事を知ってて甘えている部分があった。甘えているというが実際はアルシェード達はアルスとハルトが動けない分、自由に各国に向かい揉め事を解決する為の自由軍として動ける様にしてもらっているので2人より楽にしているだけだが。
 アルスとハルトはメンバーに行ってくる、と伝えてアルバーンの城に向かう。まだ聖戦が終わって1週間も経過していない今のアルガスト大陸は不安定過ぎていて、誰かが土台を作らないといけないのは明白であった。
 アルスもハルトも創造主から与えられた本を時折眺めていたが思う事は1つ。自分達が土台として礎になって未来を切り開いて行く導になる事。

「お待ちしておりました」
「今日はお招きありがとうございます。ルーディス神様の元にご案内願います」
「あっちぃ~……風吹かねぇかなぁ……」
「こちらにお越しください」
「アルス、行くよ」
「おー」

 城に入って行く2人はルーディス神が待つ部屋に案内される。今回2人はこのアルガスト大陸を支配とまではいかないが中立を貫くべき国としてアルバーンを象徴として、アルガスト大陸の調和と秩序を保つ意味合いを決める為に呼ばれたのである。
 案内された部屋にはルーディス神とティドール、ガルロ、ランドル、ルル、ルカ、ルート、見慣れない男性が1人揃っていた。アルスとハルトの到着にメンバーは笑顔で出迎え全員が揃った事で会議の体裁が整う。
 ルーディス神とティドールが円卓に座った面々に挨拶をして会議は始まる。まずは中立国としての定義としての話し合いが始まる。

「それで考えられているのは一定の武力を持って他国の問題を仲裁し、何処の国にも属しないのが大前提として挙げられています」
「その上で信仰についても色々と意見が出たが、何処の国も今は私の信仰をしているのを考えると私の存在を徐々に薄くして無信仰の国を生み出すのがいいだろうと考えられている」
「神々の信仰を持てばまた宗教の面で揉め事が起きる可能性がある以上打倒だとは思います。ガルガルやギルドの様に溢れた人々の想いを受け止める受け皿の強化を提案します」
「後、竜騎士の存在で他国に抑制力もあると思うから、その竜騎士達を特別扱いするんじゃなくて平等に扱う中心国があった方がいいと思うぜ?」

 アルスの言葉にルル達も頷く、竜騎士は最強のジョブではあるもののなれる者は年々少なくなりつつある。それを踏まえた上で他のジョブと公平化を考えれば特別扱いを廃止するのは現竜騎士達は賛成するのは分かっていた事だ。
 アルバーンを中心国として動き出すのであればルーディス神とエテルナはこの地から離れる事を考えなくてはならない。神として君臨するのを考えるのはしない2人には静かな生活を送って欲しいと願っている者達がアルバーンにはかなり存在しているのを、アルスとハルトは知っている。
 会議は静かに進んで纏められた事案を書いていた男性がトントンと資料を整えれば立ち上がると頭を下げて出て行く、ルートと共に。アルスはその光景を見て両親に視線を向ければ頷かれてあの男性がルートの想い人だったのか、と考えてしまった。

「シン!」
「ルート、君のお兄さんは素晴らしいね。本当なら竜騎士は認められて特別扱いされてもいいだけの功績を持つジョブなのに、それを廃止させる方向に持って行くなんて普通に考えて提案出来る事じゃない」
「兄様は本当に未来を考えているんだと思う。ねぇ、シンは兄様や父様達をまだ受け入れる事は出来そうにない……?」
「それは前にも話しただろう? 私もいつかは受け入れたい、でも心はそう簡単に受け入れれる程に癒されている訳じゃないと」
「うん……」
「大丈夫、、私は君やご家族の事をいつかは受け入れるつもりだ。それだけの想いを君は私に向けてくれているのだと知っているから」
「シン……」

 銀髪の長い髪を揺らしながら王の間に向かうシンと隣り合って歩くルートの瞳には希望が刻まれている。神々が支配していた頃にはきっと叶う事のない想いだろうと諦めていたルートも、聖戦に赴いた家族の事を思って自分も駆け付けようと思った。
 でも死ぬかも知れない、その恐怖よりもシンを1人にするかも知れない。その恐怖に負けて聖戦には参戦出来なかった。
 だが、それでいいと父親であるランドルは伝えている。愛する者と共に未来を生きる事も戦いである事をランドルはルートに話していた。
 ルートとシンが王の間に向かって歩いていた頃、ティドールはハルトとアルスに喜ばしい報告をしてきた。ハルトが前に神聖の瞳を使って視た未来が実現したという。

「ガルロが時期を見て結婚すると言ってくれてね。相手の女性はガルロの事を心から信頼し、愛してくれている方で私との同居も考えてくれているそうなんだよ」
「良かったですねティドールさん。これで新しい家族が増えますね。本当に良かった……」
「ハルト君にも新しい家族が間もなく誕生するんじゃないかい?」
「えぇ、お義母さんも臨月らしいのでそろそろかと思います」
「ハルト君とアルス君の子供か。どんな素敵な子供に育つんだろうね」
「頑張って親業こなして育児にも気合い入れます」
「ふふっ、子供は本当に愛おしい。君の事を実の子供の様に愛したアレスの気持ちを君が理解する日が楽しみだよ」

 ティドールはそう言って鎧の隙間からリングを通したチェーンを取り出す。ティドールはまだアレスの事を想い続けているのがハルトには嬉しいと思えた。
 2人がいたからハルトは曲がった性格にならないで、こうして世界を救った英雄にまで成長したと言っていいだろう。だからこそ、ハルトはティドールから自立する道を選ぶ。
 アルバーンで軍師としての地位を授かったが、ハルトはこれを返納。そして、世界を飛び回って調律するハンターの軍師としての生活を選ぶ。
 アルスと2人で部屋の中でこの判断について色々と話す事になったが、アルスはハルトの意志を優先してくれた。それでもありがたいのにアルスはハルトにこう告げる。

「ガルーダでのんびり暮らそうぜ。ガルーダから行ける範囲の事をすりゃいい。俺達だけの世界じゃないんだ。背負い込み過ぎもよろしくないだろ?」

 ハルトの心を知っているからこそ出来る提案だと思った。だからハルトもランドル達と共にアルバーンを出てガルーダに戻る事にしたのはそんなバックストーリーがあったからだ。
 ガルーダに戻ればガルディアが産気付いて子供を出産したとルーシュから聞かされてランドルと共にアルスと一緒に部屋に向かう。部屋には元気な鳴き声が響いており元気な子供が産まれたと気付く。

「アルス、ハルトさん。抱いてあげて? 貴方達の子供よ」
「うっわぁ……ちいせぇ……」
「可愛い……僕とアルスの子供……」
「アルス、ハルト君。これからは親としても成長していかないといけないが、困ったらいつでも頼りなさい。2人の未来を私達も応援したい」
「サンキュ、お袋、親父」
「ありがとうございます……お義母さん、お義父さん」
「さぁ、名前を付けてあげて? 貴方達を親として認識するにも呼ぶ為に」
「どんな名前がいいかね……ハルトは何か考えている?」
「実は付けたい名前があって。……ライルってどうだろ?」
「ライル? いいじゃん。由来は?」
「風の様に自由に、真実を追い求める使者って意味」
「いいわね。素敵な名前だわ」
「ライル、いい子に育てていきなさい」

 腕の中でキャッキャッと笑うライルを愛おし気に見つめるアルスとハルトはこの小さな命を守り通していこうと誓う。まだ未来は不確定だけれども産まれてくる子供達の未来を守る為にも戦いを終えてもまだやるべき事は沢山ある。
 それだけの問題が山積みではあるが、それでも2人なら一緒に乗り越えていけるだろう。2人は最強竜騎士と狩人なのだから――――。



                                  第一部  完
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