最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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ヘリオス国編

42話「ヘリオス国の異常さ」

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 アルファを救いにガレガールから離れたアルスとハルト、目的の場所である古いびた古城がある森の中をルーピンの背に乗って進んでいると違和感を感じる。それはアルスによって説明されて納得するのだが。

「なんか、違和感が……」
「違和感?」
「アルス、何かした?」
「何か……髪を切ったとかか?」
「えっ!? 切っちゃったの!?」
「ハルト達の部屋に入るのに魔力高める必要あったから媒体として髪を一房切ったけれど……」
「そんな……アルスの髪を切るまでに強かったの吸血鬼、だっけ? アルファを連れ去ったの。許せない……」
「落ち着けって。アルファがしたんだと思うぞ。そうでもしないとハルトの意識が戻らなかった可能性だってあるんだから」
「だからって! アルスの長い髪の毛は綺麗なのに! 僕のせいで切るなんて許せないよ!!」
「は、ハルト!?」
『ギオュオ!?』

 ルーピンの背に乗っているとは言えアルスがいるとは言え、ハルトは怒りに任せて自分の内腿を思い切り叩く。その振動でルーピンが驚いてしまうし、アルスも驚きで振り向く。
 そこまでアルスの身体を大事にしているのは珍しくないだろうが、そこまで気にする必要はないんじゃないか? と考えるアルスであった。ハルトの方に聞こえない程度にルーピンに話し掛けるアルスもヒヤヒヤしている。

「ハルトには隠していような?」
『キュオ』
「何を隠しているの?」
「何もない!」
『ギュオン!』
「アルスー? ルーピンー?」
「見えてきた! 構えろよ? このまま突っ込むぞ!」
『グォォン!』
「えっ? ちょっと! うわぁぁぁ!?」

 ルーピンのブレスが炸裂して古城の壁を破壊するとそのまま城内へと突っ込んでいく。あまりの突撃方法にアルスは慣れているがハルトは煙に涙を浮かべて身体を維持するだけで精一杯である。
 暫くして煙から飛び出たルーピンの翼が大きく上下に揺れて古城内部の通路に降り立つと、赤い瞳を持っている存在達が怯えているのに気付いてアルスが先に飛び降りた。ハルトはルーピンの身体が通路に降りてから自分も降りてアルスの背後に立つ。
 赤い瞳の存在、吸血鬼達は身を寄せ合ってルーピンに怯えている様だったが、奥からアルファが可愛らしい服装になって飛んでくるのをハルトが受け止める。ハルトの腕に抱き留められたアルファはスリスリとハルトの香りを自分に付ける様に身体を擦り付けているが。

『ハルト! ハルトー!!』
「アルファ! 大丈夫? この恰好は……?」
『私の神獣ちゃんを返してー!!』
「あん? 誰の神獣だって?」
『やはり奪い返しに来たか。そう簡単にその神獣を返す訳にはいかんのだ!』
「無理矢理奪うのはどうかなって思いますけれど? アルファは僕達の大事な家族です!」
『その子は私の! キルディちゃんの弟なのー!! 返してー!!』
『キルディを泣かせる人間には我々吸血鬼の力を思い知らせるべきだな。死ね人間!』
「本当に俺達に喧嘩打っていいんだな? 覇空竜騎士の俺相手に」
『!?』
『はくーうりゅーきしがなによー!! おとーさまの方がつよーんだから!! おとーさま! 神獣ちゃんをとりかーえしてー!』
「困ったなぁ……。アルス、どうしよう?」
「父親の方は戦意喪失しているようだけれどな。ガキに構っている場合じゃないんだよ俺達は」

 金髪のツインテールをしている幼女がしきりに父親であろう吸血鬼のマントを引っ張っているが、アルスが覇空竜騎士だと名乗れば青白い顔が余計に青白くなって幼女を奥の通路に逃がそうとしている。アルスは渋々イヤになりそうではあるが父親に睨みを利かせると父親は幼女を守る為に前に出てきた。
 ハルトは幼女が父親と呼んでいる男とは似てないのに気付き、もしかしてと城内を見回すと他にも怯えていはいるものの彼の姿とは似て似つかない子供達が溢れているのに気付く。アルスも気付いたのか子供達を見てから吸血鬼の男に視線を向けて問い掛けた。

「このガキ達、人間だな?」
『っ、そ、それがどうした!』
「貴方、この子達を守ろうとしているのでは? それならどうしてアルファを奪って行ったのか話してくれませんか? 無駄な戦闘は避けたいんです」
『……この子達は皆ヘリオス国の捨て子だ』
「「!!」」
『ヘリオス国の王政がいよいよ我々でも分る程までに危険な方向性を掲げ始めて、この子達は親を徴兵されて戻らなくなった子達だ。私はこの子達を育てて平和な国に連れて行くのが役目だと思って守っている……私の大事な家族ではあるのだ……』
『お父様……』
『とーさまをいじめないで!』
『いじめないでー!』

 子供達は全員吸血鬼の男の前に立ってアルス達から守ろうとしている、その姿は種族を越えた家族愛を感じさせる。アルスも毒気が抜かれたのか戦闘モードの雰囲気を解除して男に視線を向けたまま溜め息を吐き出す。
 
「だからって人様の家族を奪っていいとは限らねぇだろ」
『分かっているのだ! だが、神獣を手に入れれば神々があの国を、ヘリオス国の異常さを捌いてくれる指針となるのではないか?! そう考えて無理矢理……すまない、大事な家族を奪われる悲しみを知っている筈の私が君達の家族を奪うのはおかしい事だとは分かっているのだが……』
「そこまでヘリオス国の異常さが目立つんですか? 元々あの国の王様はハンターでしょう? ギルドに進言すればどうにかなるのでは?」
『ギルドも頼ってみたがあの国のギルドは既に王政の手中、どう進言しても「陛下のお御心に感謝なさい」としか言わないのだ。この子達の事も兵士として育てようと探し回っている連中もいて……私が神獣と共にヘリオス国を裁こうと思っていたのだ……』
「その役目、俺が貰い受けてもいいか?」
『しかし、覇空竜騎士ともなれば簡単に国に対しての攻撃が許される訳ではないのだろう? その役目に相応しい汚れ役は私の様な異種族の方がいいのでは……?』
「子供の親はお前なんだ。汚れ役上等。俺の大事な存在達を犠牲にしてまで永らえる国なんて滅ぼしてやる。竜騎士を蔑ろにする国なんて必要ねぇよ。ハルト、あとで俺の話、聞いてくれるか?」
「うん、分かった」

 ハルトの腕に収まっているアルファを羨ましそうに見つめているキルディを抱き締める吸血鬼の男は、ハルトとアルスに謝罪として頭を下げてくるが、2人は子供の為にと国を思う気持ちから起こした事だと大目に見る事にした。その心の優しさをアルファはしっかりと受け止めている。
 2人がヘリオス国の事を受け持つ事で同意した吸血鬼の家族は2人にアルファを返して見送りまでしてくれた。アルファは着せられていた服を脱がしてもらいハルトの腰に纏わり付くようにして甘えている。
 ルーピンに乗って古城を出た2人はガレガールへと戻る為に飛び、少し気まずい雰囲気であるのをハルトは感じていた。アルスも同じ様に感じているだろう事は伺える。

「アルス……?」
「……何?」
「怒っている……?」
「なんで?」
「雰囲気が……その、怒っている様に感じれて……」
「あー、ハルトに怒っているじゃねぇよ。ヘリオス国に怒りは持っている」
「ヘリオス国に?」
「子供達の兵隊なんて未来を奪うしかないじゃん。俺やハルトの様に夢を持って育った人間と違って絶望しかない未来なんて楽しくねぇ。そんな未来を与えようとしている国があるのが俺は嫌なんだよ」
「……優しいね、アルスは」
「ハルトのが優しいと思うけれど?」
「ううん、アルスの優しさに比べたら僕の優しさは小石程度だよ」

 ハルトの頭がアルスの背中に当たると小さく震えている。それはアルスが国を滅ぼす役目を持っているのに自分は何も出来ない無力から来る悔しさに滲む涙を我慢している為。
 ハルトだって充分に優しい、それはアルスだけじゃなくてアルファやルーピンにも感じている事であった。ガレガールに戻ってきた2人はルーピンにアルファを任せて2人で宿屋に泊まる事に。
 そして、ハルトに向き合うアルスの瞳には少しだけ迷いが宿っていた。こうする事が正しいのかはアルスにも分からない。
 でも、2人は向き合わないといけないと考えてお互いの顔を見つめ合うとアルスは伏せる様に瞳を隠した。そして、その伏せられた瞳が再度開かれた時、アルスは非情なる決断を下す事に決めるのであった。
 
「俺が国を滅ぼす、それがどんな意味を、罪を背負うか……知ってほしい」
「僕はこれだけは言えるよ。アルスの最後の瞬間まで最愛の存在として、愛する人の味方である事を」

 2人の手が重なり合い、握り締められていく。そして同時に2人は心を重ねる。
 愛する者の背負う罪を、業を共に背負っていく為の覚悟を共に刻んでいく。その優しい心を傷付ける刃があるのであれば自分の手で相手を守る、その意志を刻んで。
 守護者としての役目を持ちながら国を滅ぼすとはどんな意味を持つのか? そして、どんな罪を背負うのか? それを知る為にアルスは語る。過去の覇空の竜騎士達が行ってきた”正義”という名の行為の事を。
 ハルトはアルスを支えていけるのだろうか? そして、ハルトの中で出される答えとは。
2人の絆が今まさに試される――――。
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