最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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魔界編

17話「魔界進軍」

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 魔界へ到着すると周囲は明らか様に異様なる光景に変わり果てていた、木々など全く生えておらず存在しているのは岩や血のような色をしている小川のみ、生物の気配も感じ取る事は出来ない。まるで死んだ人間達が訪れる地獄、そんな風貌が呈していると言っても過言ではないだろう。
 アルスがいる竜騎士の部隊はすぐに魔界で空の覇権を得る為に愛竜達に乗り上げて、空へと舞い上がって行った。アルスもルーピンと共に空に上がり周辺を見回すと魔界の環境をありありと知る事が出来た。
 魔界全体が強い瘴気というか闇の力で覆われているので、光など差し込む事がないのだと知る。それと同時に魔界に生きるものは闇の力によって姿や能力が変化している事も分かっているが、魔界はそれがかなり多く見受けられる。

「闇の力ってこんなに強いのか、魔界は」
「アルス君」
「アルスェード、どうした?」
「お父上からご伝言だ。「先に進軍方面の敵を殲滅してくる、本隊の守りを任せる」との事だ」
「親父達が先手を打ったのか。それじゃ俺達の出番無くね?」
「君が魔海龍の血を求めているのは聞いている。本隊は僕達に任せて魔海龍の血を探しに行ってくれ。少しでも最愛の人を助けたい想いは僕も同じだからね」
「……そう言えばお前のパートナーは」
「魔界の闇に食われて死んだよ。だからって魔界を恨んでいるつもりはない。彼女の存在が当時の僕には必要だったのにそれを蔑ろにした結果が失う結果に繋がったんだよ。君にはそんな過ちをしてほしくはない。君は竜騎士の希望でもあるんだから」
「希望、ねぇ……。守護者なだけだぜ俺は?」
「それでも歴戦の竜騎士達が望んでもなれなかったのに、君があっさりとなってしまったから希望を持たせてくれたんだ。僕達の希望として君の存在は大きいんだ」

 アルスェードは茶色の髪を魔界の風に靡かせながら遠い進軍方向の仲間達を見つめている。その横顔にアルスは静かに焦りを覚えている自分に気付く、ハルトにこんな顔をさせるつもりで魔界に来ている訳じゃない。
 アルスの焦りを感じ取ったアルシェードは小さな微笑みを浮かべて手を挙げて移動を開始させる。アルスにとってアルシェードの言葉は大きく胸を抉る事になるのは当然の事だったのであった。
 ランドル達は先発隊の主力として襲い掛かってくる魔族達の使い魔を切り伏せていく為に空の上で戦闘を行っていた。ランドル達に襲い掛かってきている使い魔たちは見境なくに人間達を襲い掛かっている羽根を持っているタイプの使い魔たちであった。

「本隊に近付けさせるな! ここである程度仕留めていくぞ!」
「ランドル様! 援軍に来ました!」
「アルシェード! アルスには?」
「お伝えしております。彼なら大丈夫かと。私達は目の前の敵を倒していきましょう!」
「すまない。それでは背後を頼むぞ!」
「はいっ!」

 アルシェードの援護を受けながらランドルは使い魔たちを1体ずつ倒していく。アルシェードの竜達もブレスを吐きながら使い魔たちはみるみる焼き落とされて周囲の視界が開けていった。
 本隊には随時報告が入って来るとアルスは空の上から戦況を見極めていたが、そこに王家直属の騎士である男性が声を掛けてきた。アルスはその騎士の男性を振り返って確認するとルーピンを地上にまで下ろす。

「私はガレイオン、王国直属の騎士として今回この進軍に従軍している。君の参加理由は聞いているので君にこれを渡しておこうと思ってな」
「これは……?」
「魔界の地図だ。魔界を調査している調査人達が作り上げた地図だから質はいいと思う。君の目的が果たせれる様に願っている」
「サンキュ。それじゃ俺は離れる。後は任せるぜ」
「君にダラズ神の加護があります様に」

 ガレイオンの手から魔界の地図を受け取ったアルスはルーピンと共に本隊部隊を離れていく。上空に上がって地図を確認して海側に繋がっている場所にルーピンに指示を出すとルーピンは素直に従ってくれて羽搏いて移動し始める。
 暫く魔界の上空を飛んで行くと血の色をした水で支配されている水平線を見付ける事が出来たが、アルスは気付かなかった。水平線に沿って作られた村の様なものから攻撃を受けてルーピンの羽根が怪我をして落下していくので気付いた。

「なんだ!?」
『キュオ!?』
「ルーピン! とりあえずあの場所に降りろ!」
『グォン!』

 ルーピンの翼に刺さる矢を見て舌打ちしたアルスはルーピンから降り立って地上に降りると、すぐに翼の様子を確認する為に近寄るとアルスの視界には強い鱗で覆われている竜の身体に突き刺さる矢は鋭利過ぎて迂闊に触れない。ルーピンの痛みを理解しているアルスは痛み止めに効く薬をルーピンに飲ませて矢を引き抜く。
 ルーピンの肉から引き抜かれた矢から血が流れ出ている状態で鱗を染め上げていく、それが痛々しく見えるが止血の為に持ち物から止血剤として使えそうな薬草を取り出すと塗り込む。痛みに暴れるルーピンを宥めつつ周囲を警戒する様に見回すが気配を感じて構える。
 竜にこれだけのダメージを与える事が出来ているのを考えれば、魔界の武器も侮れないと考えていいだろうとアルスは判断していた。そこに声が聞こえてくる、魔界の言語ではないので驚きで瞳を見開くと近付いてくる影に視線を向ける。

「貴様、人間か?」
「そうだ。だが、俺達を攻撃したのはお前達か?」
「我々を攻撃している人間達を攻撃して何が悪い? 故郷を攻撃してる者達に報復して間違いないだろう!」
「俺達だって好きで進軍している訳じゃねぇ! お前達が俺達人間に呪いを掛けたりしたから解呪する為に来てるんだぞ!? 俺達だって別に魔界を領土にしたいんじゃねぇよ!」
「そんなのは人間達の勝手ではないか! 我々はただ静かに暮らしていければいいだけの存在だと言うのに、力を求めているのは人間達の方ではないか! 皆の者、この人間を捕らえよ! 竜は放置して人間だけ村に運べ!」
「くっ、ルーピンは逃げろ! 行け!」
『キュオンオー!!』

 アルスの身体に不思議な糸が巻き付き聖槍アーノルドを使う事も出来ない状態になると、ルーピンを逃がす為に捕らわれたアルスは近くの漁村に連れて行かれた。ルーピンを放置した村人達はアルスを高い位置にある磔に固定するとフルへイムを取り外して現れた素顔に、全員が息を飲んだ。
 アルスは村人達、主に男だと思われる者達を睨み付けて未だに抵抗をしている。だが、男達はそんなアルスを舌なめずりしながら周囲を囲み魔界語で何かを話し込んでいるが、アルスにはその内容は理解出来なかった。
 こんな目に遭う前に自分には大事な目的がある、その為にも今はこの状態から逃げ出す必要があるとアルスはどうにか脱出方法を考えているが、男達は見張りを立てて逃がすつもりはないらしい。どうするか、右手の拘束は若干だが緩くなっている……このまま力づくで引き破る事も出来るが、ルーピンの事も気になる。
 そんな時だった、男達が一同に頭を下げて誰かを迎え入れたのに気付く。村の入口に立っていたのはアルシェードの姿、どうして彼がここに? そんな疑問はすぐに解消される。

「やっと動きを封じれた様だね。アルス君、無事かな?」
「アルシェード……お前が影の当事者か」
「ご名答。まさか君や他の守護者達も同行するとは思わなかったが、これで戦力は削られる。いい具合になったよ」
「一体何が目的だ!!」
「魔界の進軍は壊滅的失敗でガルーダ国の主力はほぼほぼ戦死。そして、唯一の生存者達は魔界の恐ろしさをガルーダに持ち帰りガルーダの王家は滅びを辿る。凄い素敵なシナリオじゃないかい? 君なら理解出来るだろう?」
「つまり、ガルーダ王家の滅亡を望む反王家の人間だった訳か。馬鹿らしい、俺はそんな連中の為に来ているんじゃねぇよ」
「君もいずれは分かる。愛する者が王家の人間に殺されでもするならば王家を憎む、僕の心が理解出来る筈だ。君の愛するパートナーに呪いを掛けたのは王族だよ」
「なっ……、そんなのどうして分かんだよ!?」
「君の記憶にも新しく刻まれるだろう、ガルーダ王家が行ってきた悪逆非道な王政を支持してきた者達の末路が」

 アルシェードの言葉にアルスは冷や汗を浮かべる、それは自分の身内である父親のランドルの事を示す事に繋がっているのを瞬時に察したからだ。ランドルの援軍に行っていたアルシェードの姿がここにあるならランドルは……。
 アルスの中に煮え滾る怒りが沸き起こる。それは守護者の力を暴走させ兼ねない力でもあったが、アルシェードの行動が一足先に早く動く。
 アルスの頭を掴み耳元で小さな声で囁く、それはアルシェードの本当の目的でもあり同時にアルスの怒りを沈静化させるだけの効力のある言葉。アルスの耳元で囁かれる言葉は一体。

「君の目的の物はこの漁村で手に入る。僕に合わせるんだ」
「っ!? お前……」

 アルシェードの本当の目的とは、そして、アルシェードの言葉に冷静さを取り戻すアルスは、この2人が一体魔界で何をしようと言うのか。魔界の小さな漁村で行われる駆け引きの行方は――――。
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