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本編
157:早速置いてけぼり
しおりを挟む────────どす黒くドロッとした何かが溢れている。
何処から溢れているのだろうと観察すると、こんもりと盛り上がった見上げるほどには大きい“何か”から、止めどなく流れてきている。
不意に、その何かが身じろぎをし、こちらを“見つめ”────。
…………
………………
……………………
…………………………。
『……うぅん』
周囲の騒がしさに意識が浮上する。体を起こそうとするがどうも上手くいかない身体感覚の違和感に、そういえば今ここはゲームの中で、イベント中で、ついでに僕はフクロウに《変化》中であることを思い出す。
どことなく調子が悪くて、寝させてもらっていたんだった。
徐々に寝ぼけ状態から覚醒してきたので、とりあえず自分の状態を確認してみる。
うん、しっかりと休んだおかげか、普段通りくらいにはなっている、と思う。
……眠っている間に何か“夢”のようなものを見た気もするが……過去にあった似たようなことで言うと、シルヴァが封印されていた空間へ意識だけ転移させられたことだが、今回はより現実の『夢を見る』状態に近かった気がする。
そして、夢の内容はよく覚えていない。
「起きたか」
どうにか思い出せないかと首を捻っていると、囁くような低い声が上から降ってくる。
身じろぎなどから気づいたのだろう、バラムが鎧の隙間にいる僕を覗き込む。
『ああ……って、何か疲れた顔をしてないか?』
よく顔を見てみると、おそらく人離れした……もう種族的にも人ではない体力を有しているはずのバラムがまあまあ疲れた顔をしていた。
体力的に、ということは無いと思うので、精神的なものかもしれない。
バラムの顔越しに見える空は、夕暮れを過ぎて薄暮といった具合だ。
……僕の感覚としては半日経過しただけだが、もしかしてもう何日か経っていて、イベントのあれやこれが進んでしまったのだろうか……?
「まぁ……色々あってな。ちなみにまだ1日目だ」
『そうなのか』
何故か僕の考えてることを読み取られ、一応1日目の内だと教えてくれた後、顔を僕の羽毛に埋め、吸ったり食んだりし始める。……精神的な負荷があった時にフクロウ……というか僕?を吸うのが癖になってしまったのだろうか。
確か、バラムには僕がとても良い匂いに感じているというようなことを何かにつけて言っていたので、自分で言うのもなんだがリラックス効果でもあるのだろうか。
「……まぁ、とりあえず顔出してみろ」
『うん? 分かった』
ある程度満足したのか、顔を離したバラムが顎をしゃくって僕に周囲を見てみるように促す。
促されるまま顔だけ鎧から出してみるとそこには────。
僕達の足元には謎の豹のような斑点模様の猫が大量にたむろし、さらにその周囲をデレッとした顔をして猫を眺めるプレイヤー達がおり、さらにその向こうでは大きな焚き火に照らされた、トラックくらいのサイズはありそうなエビ……とタコ……に見える何かが鎮座していた。
エビを取り囲むプレイヤーの動きから察するに、捌く……というよりは最早解体のような作業をしているようだ。
その他にも何か岩のようなものが山積みにされているところに検証野郎Zと数人のプレイヤーがいる。
………………いや。
『どういう状況なんだ?』
何がどうして半日程度でこんな混沌とした状態になっているのかさっぱり分からない。
ちなみに今いる場所も明らかに海岸ではなく、ジャングルの中の開けた場所といった風なので、移動もしているようだ。
「まずここはあいつらの探索の結果見つけた拠点だ。猫を追いかけていたらここに辿り着いたんだと」
『なるほど』
あぬ丸達の探索の成果がこの拠点設営地の発見のようだ。
「向こうにはお誂え向きに広めの洞窟もあって、休む時はそこで休める」
『ほぅ』
バラムの視線の先を見ると、確かに鬱蒼とした茂みに囲まれた中にポッカリと穴が空いている場所があるのが分かった。
「それで浜にいた奴らとここに合流してきたら、この猫共が何処からともなく現れてこの状態だ」
そう言うと、苦い顔で周囲を取り囲む斑点模様の猫を見回す。
《解析》情報によると『オンキラ』という動物のようで、このジャングルを棲家としている以外の情報はとくに記載されていない。
……いつもの《解析》より分かる情報が大分あっさりしている気がする。
『ほぅ……何か惹かれるものでもあるんだろうか』
「……お前じゃねぇか?」
『……僕? それは……』
確かに転生前は何やら色々な存在にとって“美味しい”存在らしいが、転生後は種族自体が一部の、おそらく闇属性寄りの住民以外にはあまり好かれる要素は無くなったはずだ。
……ん? ということは。
『この猫……オンキラ達は闇属性寄りの住民ということか?』
「そこまでは分からねぇが……こいつらの意識は俺じゃなくてお前に向いてるのは確かだ」
『ふぅむ、まぁ、バラムがそう感じるならそうなのかもしれないが……』
ここはイベントの為に用意された舞台でこのオンキラ達もその一部なのだろうと思うので、あまり僕の特殊性が効く場面は無いだろうと思っていたのだが、そうでもないのだろうか?
……まぁ、それは後々イベントを進めていけば分かるか。
あとはオンキラ達を取り囲んで締まりのない顔をしているプレイヤー達は……まぁ、猫の魅力にやられてしまっているのだろう。
それはさておき。
『奥の巨大海産物は一体どういう……?』
「あれは……」
『む、主殿、起きたであるか!』
「「「「ニャア」」」」
「「「ヒャアァァァ!!」」」
『ん?』
次はトラックサイズのエビとタコについての経緯を聞こうとしたら、シルヴァの声と共に色んな鳴き声?が聞こえてきた。
僕達を取り囲むオンキラ達の中から1匹の真っ黒な猫が進み出てくる。目が黄色だし、首に盟友の証がついているしで、この真っ黒なので斑点模様が見えなくなっている、ただのデカい黒猫はシルヴァだろう。……少し転生の儀の時に出て来た黒猫を思い出す。
「ちょうど良い、そこのエビとタコの話はこいつから聞け」
『む? ああ、主殿は休んでいたから状況が分からないのであるな! うむ、ここからは我が説明するである!』
そう言うと、シルヴァがバラムの肩に飛び乗り、僕との距離を近づける。そこでまた鳴き声……ではなくプレイヤーの歓声が上がった。……シルヴァのことだから分かっていてやっているのだろう。
「ちょっと! よく見たら鎧の隙間にちっちゃなフクロウがいない?」
「え? きゃあっ、ホントだ、かわゆいーーー」
「鉄銹お兄さんだけモフモフパラダイスで羨ましい……」
というようなプレイヤーの声が聞こえたが、まぁ……もうキリが無いのでスルーしよう。そう言えば、この集団の中にあぬ丸もいそうなものだが……と注意深く辺りを見回すと…………いた。
見たことも無いほどデレッとした締まりのない顔をしているが、他のプレイヤーと違って茂みに身を潜め、ほぼ完璧に気配を消して観察している。
手元の動き的にメモなどもとっているようだ。
流石は動物行者はひと味違う、といったところだろうか。
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