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本編
59:旅立ち
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『転生』────攻略サイトで検索してみても、記載されたページは見つからなかった。
ただまぁ、メタ的な推測はある程度出来る。
他のゲームやラノベ設定を調べてみた結果、候補は2つある。1つは、転生することで今まで積み重ねたステータスがリセットされるが、ステータスの限界値や成長率が増幅するパターン。ビルドの組み直しも出来ることがあるようだ。もう1つは、魔物で言う『進化』のように種族が変化し、その種族に合わせてステータスやスキル・魔法などの能力、姿などが変化するパターンだ。
“選択肢分岐”という言い方から、後者を指しているような気もするが。
もしくは、この2つの候補の合わせ技ということもあるかもしれない。
「……まぁ、今考えても仕方無いし……その時に望むプレイが出来そうな選択をすればいいか」
もしくは、他のプレイヤーが転生方法を見つけて検証結果がある程度出揃ってから考えるでも良いだろう。
自分のアバターの確認が一段落したところで、見計らったように現実世界から着信が入った。
〈応答〉コマンドを選ぶと、宙にウィンドウが出現し、ボサボサ髪に分厚いメガネをかけた中年の男性が表示される。
「やあ! 嗣治、すっかりゲームを楽しんでいるみたいだね! ハマっちゃったかー?」
「まぁ……」
ゲームを開始してから、連続ログイン制限解消時間と睡眠時間以外のほとんどをアルストプレイにあてているので「ハマって」いるのは確かだろう。
「いやぁ、まさか読書にしか興味が無かった嗣治が廃人レベルでゲームをするなんてなぁ!」
廃人……そこまででは無い、と思いつつ、時間が有り余っている為にプレイ時間だけは多いのは確かだしな……と何とも言えない気持ちになる。
「その話は良いから……バイトの依頼なら早く送ってきてよ」
「ありゃ、お見通しかー! ちょっと……研究資料を清書する時間が無くて、締切も迫っててなー……バイト代弾むからよろしくー!」
「はいはい」
直後、その研究資料とやらのデータが届く。相変わらず研究内容は専門用語が多すぎてよく分からないが、清書したり出典をまとめて記載したりすればいいだけだ。何年か前からお小遣い稼ぎのアルバイトとして、時々似たような作業をしているので慣れたものである。
…………バイトは結構久しぶりのはずだが、この作業自体はあまり久しぶりに感じないな……と、少し遠い目になる。
「今日出来るところまでで良いからー! 落ち着いたらまたそっちでお茶でもしよう! じゃあな!」
「分かった。叔父さんも仕事はほどほどに」
「うっ……善処しよう!」
叔父さんがあからさまに目を逸らしたところで、通話が終了する。
さて、逆にこっちではいくら集中しようが、満腹度を考えなくて良いし、睡眠も強制的にとらされるので、サクッとバイトを終わらせて余った時間はドゥトワ前のボス戦を調べたり、こっちの本でも読むとしよう。
そして、明日からまたアルストをプレイしていこう。
*
宿屋のベッドで目を覚ます。
この大分慣れてきた……気に入っている光景とも今日でしばしのお別れだ。
机の上の木彫りの置物をインベントリにしまい、逆にムートンのマントを取り出して装備する。最後に部屋を見回す。
よし。
《感知》によると扉の前で待っている住民マーカーがある為、その人物が痺れを切らす前に部屋を出る。扉を開けると、いつものフル装備……から兜だけが無いバラムがいた。
「待たせたか」
「3日な」
「……」
「冗談だ」
……その割には目が本気な気がしたんだが。
バラムの後について、食堂へ向かうとローザと旦那さんがおり、バラムがいつも座る席には湯気がたっている食事が用意されていた。
「おはよう! 腕によりをかけて作ったから、まずは召し上がれ!」
「ああ、今日も美味しそうだ」
席に着いて「いただきます」と言って食事に手をつける。うん、温かくて美味しい。
「ちょっと……何て顔してんだい、まぁ、これから頑張んな! ほら、アンタも冷めない内に食うんだよ」
「……っせぇな」
後ろで何やらローザとバラムの声が聞こえるが、今はこの温かな食事に集中するとしよう。
「じゃあ、これお弁当。今回はアンタ達2人分用意しといたからねぇ。気をつけて行くんだよ!」
「ああ、戻ったらまたよろしく頼む」
ローザから僕とバラムの2人分の弁当を受け取って挨拶をする。厨房にいる旦那さんとも目礼をして宿を出た。
「職業ギルドにも寄って行きたいな」
「通り道だ。好きにしろ」
「ああ。……兜は被らないのか?」
「歪んじまったからな」
「新しい物を用意しなかったのか?」
「とくに必要ってわけじゃない」
「……そうだろうか?」
あの兜のおかげであの魔物の攻撃から頭を守れたのでは無いだろうか。まぁ、戦いのプロであるバラムが必要無いというならそうなの、か?
いつも通り、裏口からギルド内へと入る。今は朝方だが、カーラはいるだろうか? なんとなく夜勤をしているイメージがある。
「あっ、トウノさん! もしかして今日発たれるんですか?」
「ああ、カーラにも随分世話になったから挨拶をと思って」
「ふふ、ありがとうございます! またいつでも立ち寄ってくださいね」
「ああ……ギルは?」
「ギルさんは、今仮眠中で……」
「そうか」
防衛戦が終わっても相変わらず忙しいようだ。ゆっくり休んで欲しい。あと、ギルへの差し入れとして、強壮の飴玉をいくつかカーラに渡した。
「あ、それとユヌとドゥトワの間にある東の平原で、最近異人さん同士の襲撃や戦闘が報告されてるので気をつけてくださいね……大剣使いさんがいれば大丈夫だとは思いますが」
「そうなのか。忠告ありがとう、気をつける」
と、言っても僕に抵抗する力など無いに等しいが。それにしても異人同士の襲撃……PKというやつか。ううん、余ったランキング報酬アイテムをバラムに渡した方が良いか……? まぁ、バラムにも僕にもあまり必要じゃなかったから余ってるのだし……その時はその時か。
ユニーク装備は僕以外装備出来ない上にほとんどのプレイヤーには何の魅力も無い性能だしな。その他の物も僕にとっては思い入れがあるが、他のプレイヤーから見れば奪うまでもない些末な物ばかりだろう。
「じゃあ、ドゥトワに行ってくる」
「はい! 気を付けてくださいね」
笑顔のカーラに見送られて、ギルドを出る。
「終わったか」
「ああ、待たせた」
「こっちだ」
「……」
てっきり、手を繋がれるのかと思ったが、バラムはそのまま歩き出す。……何を待っているんだ、僕は。
「ああ、そうだった」
「っ!」
丈夫な革の感触が手を覆う。
「馬で行くから、門までの間な」
「べ、つに……」
ううん、顔に熱が集まってる気がするな、と考えていると、ふと視界に影が差した……と認識した時には口に何かの感触があった。
「兜が無きゃ、こういうことも出来るしな」
と言ってバラムはニヤリと笑う。思わず半目になってしまう。
「……キザだな」
そんなことを言うタイプだっただろうか……?
「は、お前からそんな感想を引き出せたなら上々だな」
「何が……」
「良いから、行くぞ」
と、少し強めに手を引かれて歩き出す。そして向かってる方向に違和感を覚える。
「東門に行かないのか?」
「あんな目立つところから出る必要無ぇだろ。ただでさえ異人殺しがいるってのに」
「なるほど」
“異人殺し”……バラムなりのPKへの呼び方だろう。
確かに、平原に出てしまえば遮蔽物が無い為、どうあっても目についてしまうが、用心するに越したことは無いか。バラムだけなら問題にならないが、僕は足手まといもいいところなのだし。
どうやら進む方角的に北門の方に向かっているようだ。人通りのほとんど無い道を抜けると、最低限の大きさの門の前に2頭の馬が用意されていた。
その内の1頭に見覚えがある。あの栗毛はもしかして……。
「ブルル」
「ん、僕の事覚えてるのか?」
「ヒヒン」
近づくと、馬の方から僕に鼻先を寄せてくれた。どうやら遺跡調査の時と同じ馬のようだ。
「はは、兄ちゃん、随分とアンバーに気に入られてんだなぁ」
「この馬はアンバーと言うのか」
「ああ、気立てが良くて賢い牝馬よ」
もう1頭の手綱を引いてきた男性がそう教えてくれた。
「アンバー、今回はドゥトワまでよろしく」
「ブルル」
「ふ、今回も頼りにしている」
「ブルヒン」
言葉など分かるはずも無いが、都合良く返事と受け取って《騎乗》する。
「これからドゥトワに向かう」
「あいよ。ギルドに伝えておこう」
バラムも既に《騎乗》しており、馬を引いてきた男性にドゥトワへ向けて発つことを伝えていた。
「行くぞ」
「ああ」
またいつかのように、バラムの後について、門をくぐってフィールドへと出た。
前と違うのは、今回は先へ進む道のりだということだ。
……それにしても、PK云々はもしかして“フラグ”というやつだろうか?
ただまぁ、メタ的な推測はある程度出来る。
他のゲームやラノベ設定を調べてみた結果、候補は2つある。1つは、転生することで今まで積み重ねたステータスがリセットされるが、ステータスの限界値や成長率が増幅するパターン。ビルドの組み直しも出来ることがあるようだ。もう1つは、魔物で言う『進化』のように種族が変化し、その種族に合わせてステータスやスキル・魔法などの能力、姿などが変化するパターンだ。
“選択肢分岐”という言い方から、後者を指しているような気もするが。
もしくは、この2つの候補の合わせ技ということもあるかもしれない。
「……まぁ、今考えても仕方無いし……その時に望むプレイが出来そうな選択をすればいいか」
もしくは、他のプレイヤーが転生方法を見つけて検証結果がある程度出揃ってから考えるでも良いだろう。
自分のアバターの確認が一段落したところで、見計らったように現実世界から着信が入った。
〈応答〉コマンドを選ぶと、宙にウィンドウが出現し、ボサボサ髪に分厚いメガネをかけた中年の男性が表示される。
「やあ! 嗣治、すっかりゲームを楽しんでいるみたいだね! ハマっちゃったかー?」
「まぁ……」
ゲームを開始してから、連続ログイン制限解消時間と睡眠時間以外のほとんどをアルストプレイにあてているので「ハマって」いるのは確かだろう。
「いやぁ、まさか読書にしか興味が無かった嗣治が廃人レベルでゲームをするなんてなぁ!」
廃人……そこまででは無い、と思いつつ、時間が有り余っている為にプレイ時間だけは多いのは確かだしな……と何とも言えない気持ちになる。
「その話は良いから……バイトの依頼なら早く送ってきてよ」
「ありゃ、お見通しかー! ちょっと……研究資料を清書する時間が無くて、締切も迫っててなー……バイト代弾むからよろしくー!」
「はいはい」
直後、その研究資料とやらのデータが届く。相変わらず研究内容は専門用語が多すぎてよく分からないが、清書したり出典をまとめて記載したりすればいいだけだ。何年か前からお小遣い稼ぎのアルバイトとして、時々似たような作業をしているので慣れたものである。
…………バイトは結構久しぶりのはずだが、この作業自体はあまり久しぶりに感じないな……と、少し遠い目になる。
「今日出来るところまでで良いからー! 落ち着いたらまたそっちでお茶でもしよう! じゃあな!」
「分かった。叔父さんも仕事はほどほどに」
「うっ……善処しよう!」
叔父さんがあからさまに目を逸らしたところで、通話が終了する。
さて、逆にこっちではいくら集中しようが、満腹度を考えなくて良いし、睡眠も強制的にとらされるので、サクッとバイトを終わらせて余った時間はドゥトワ前のボス戦を調べたり、こっちの本でも読むとしよう。
そして、明日からまたアルストをプレイしていこう。
*
宿屋のベッドで目を覚ます。
この大分慣れてきた……気に入っている光景とも今日でしばしのお別れだ。
机の上の木彫りの置物をインベントリにしまい、逆にムートンのマントを取り出して装備する。最後に部屋を見回す。
よし。
《感知》によると扉の前で待っている住民マーカーがある為、その人物が痺れを切らす前に部屋を出る。扉を開けると、いつものフル装備……から兜だけが無いバラムがいた。
「待たせたか」
「3日な」
「……」
「冗談だ」
……その割には目が本気な気がしたんだが。
バラムの後について、食堂へ向かうとローザと旦那さんがおり、バラムがいつも座る席には湯気がたっている食事が用意されていた。
「おはよう! 腕によりをかけて作ったから、まずは召し上がれ!」
「ああ、今日も美味しそうだ」
席に着いて「いただきます」と言って食事に手をつける。うん、温かくて美味しい。
「ちょっと……何て顔してんだい、まぁ、これから頑張んな! ほら、アンタも冷めない内に食うんだよ」
「……っせぇな」
後ろで何やらローザとバラムの声が聞こえるが、今はこの温かな食事に集中するとしよう。
「じゃあ、これお弁当。今回はアンタ達2人分用意しといたからねぇ。気をつけて行くんだよ!」
「ああ、戻ったらまたよろしく頼む」
ローザから僕とバラムの2人分の弁当を受け取って挨拶をする。厨房にいる旦那さんとも目礼をして宿を出た。
「職業ギルドにも寄って行きたいな」
「通り道だ。好きにしろ」
「ああ。……兜は被らないのか?」
「歪んじまったからな」
「新しい物を用意しなかったのか?」
「とくに必要ってわけじゃない」
「……そうだろうか?」
あの兜のおかげであの魔物の攻撃から頭を守れたのでは無いだろうか。まぁ、戦いのプロであるバラムが必要無いというならそうなの、か?
いつも通り、裏口からギルド内へと入る。今は朝方だが、カーラはいるだろうか? なんとなく夜勤をしているイメージがある。
「あっ、トウノさん! もしかして今日発たれるんですか?」
「ああ、カーラにも随分世話になったから挨拶をと思って」
「ふふ、ありがとうございます! またいつでも立ち寄ってくださいね」
「ああ……ギルは?」
「ギルさんは、今仮眠中で……」
「そうか」
防衛戦が終わっても相変わらず忙しいようだ。ゆっくり休んで欲しい。あと、ギルへの差し入れとして、強壮の飴玉をいくつかカーラに渡した。
「あ、それとユヌとドゥトワの間にある東の平原で、最近異人さん同士の襲撃や戦闘が報告されてるので気をつけてくださいね……大剣使いさんがいれば大丈夫だとは思いますが」
「そうなのか。忠告ありがとう、気をつける」
と、言っても僕に抵抗する力など無いに等しいが。それにしても異人同士の襲撃……PKというやつか。ううん、余ったランキング報酬アイテムをバラムに渡した方が良いか……? まぁ、バラムにも僕にもあまり必要じゃなかったから余ってるのだし……その時はその時か。
ユニーク装備は僕以外装備出来ない上にほとんどのプレイヤーには何の魅力も無い性能だしな。その他の物も僕にとっては思い入れがあるが、他のプレイヤーから見れば奪うまでもない些末な物ばかりだろう。
「じゃあ、ドゥトワに行ってくる」
「はい! 気を付けてくださいね」
笑顔のカーラに見送られて、ギルドを出る。
「終わったか」
「ああ、待たせた」
「こっちだ」
「……」
てっきり、手を繋がれるのかと思ったが、バラムはそのまま歩き出す。……何を待っているんだ、僕は。
「ああ、そうだった」
「っ!」
丈夫な革の感触が手を覆う。
「馬で行くから、門までの間な」
「べ、つに……」
ううん、顔に熱が集まってる気がするな、と考えていると、ふと視界に影が差した……と認識した時には口に何かの感触があった。
「兜が無きゃ、こういうことも出来るしな」
と言ってバラムはニヤリと笑う。思わず半目になってしまう。
「……キザだな」
そんなことを言うタイプだっただろうか……?
「は、お前からそんな感想を引き出せたなら上々だな」
「何が……」
「良いから、行くぞ」
と、少し強めに手を引かれて歩き出す。そして向かってる方向に違和感を覚える。
「東門に行かないのか?」
「あんな目立つところから出る必要無ぇだろ。ただでさえ異人殺しがいるってのに」
「なるほど」
“異人殺し”……バラムなりのPKへの呼び方だろう。
確かに、平原に出てしまえば遮蔽物が無い為、どうあっても目についてしまうが、用心するに越したことは無いか。バラムだけなら問題にならないが、僕は足手まといもいいところなのだし。
どうやら進む方角的に北門の方に向かっているようだ。人通りのほとんど無い道を抜けると、最低限の大きさの門の前に2頭の馬が用意されていた。
その内の1頭に見覚えがある。あの栗毛はもしかして……。
「ブルル」
「ん、僕の事覚えてるのか?」
「ヒヒン」
近づくと、馬の方から僕に鼻先を寄せてくれた。どうやら遺跡調査の時と同じ馬のようだ。
「はは、兄ちゃん、随分とアンバーに気に入られてんだなぁ」
「この馬はアンバーと言うのか」
「ああ、気立てが良くて賢い牝馬よ」
もう1頭の手綱を引いてきた男性がそう教えてくれた。
「アンバー、今回はドゥトワまでよろしく」
「ブルル」
「ふ、今回も頼りにしている」
「ブルヒン」
言葉など分かるはずも無いが、都合良く返事と受け取って《騎乗》する。
「これからドゥトワに向かう」
「あいよ。ギルドに伝えておこう」
バラムも既に《騎乗》しており、馬を引いてきた男性にドゥトワへ向けて発つことを伝えていた。
「行くぞ」
「ああ」
またいつかのように、バラムの後について、門をくぐってフィールドへと出た。
前と違うのは、今回は先へ進む道のりだということだ。
……それにしても、PK云々はもしかして“フラグ”というやつだろうか?
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