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第16話入院中の食事

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原病院の食事は美味しくなかったわけではない。確かに最初の1~2年は「美味い、美味い」といって食べていた。ただ、それが4年目、5年目となると仕舞いには飽きてしまい食べられなくなってしまう。
何しろ問題点はほぼ同じメニューが10日に1度のヘビーローテーションで出ることだった。7年目には毎日吐き出したり下痢をしたりしていた。
看護師や栄養課には何度も苦情や改善を申し入れたが、頑として聞き入れられることはなかった。食い物の恨みは恐ろしいというのは本当だ。
原病院には「意見箱」という患者の意見を書いて入れる箱があった。豪志は毎日のように理路整然とした日本語、英語でさまざまな提案をしていた。字もキレイであったと自負している。
特に、栄養課への提案が多く。料理雑誌などを参考にすれば予算460円の範囲でも十分日替わりで美味しい食事が作れること。レシピまで書いた。イタリア料理、スペイン料理、南米、韓国、その他世界中の郷土料理を参考にすれば簡単に安価で美味しい食事が作れること。すべて料理雑誌に載っている。僅かな工夫と勇気があれば誰でも作れる。

原病院入院初期の頃、まだ外泊が認められていた時代。病院の正面玄関からふらっと理事長の原富男先生が入ってきた。
「おーう」
「これは御大」受付の男性がうやうやしく出迎える。
「隆は元気かい?」メモ用紙に電話番号を書き出す原富男先生。
「もう長くないと思います」
「どこか悪いのか?」
「もうトシです」
「隆が寿命なら俺もそろそろかな」
原富男先生は、豪志に自分の携帯電話の番号を教えてくれた。
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