妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子

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 数日後の夜——。
 エリオットとともに倉庫へと忍び込んだ。彼が持っている鍵と知識のおかげで、入り口の厳重な警備も問題なく突破することができた。
 倉庫の扉を開けた瞬間、息をのむ。
 中には夥しい量の高級服がずらりと並んでいた。ブランドのタグがついたままの新品ばかりで、絹やベルベット、カシミアなど最高級の素材がふんだんに使われている。光を受けて煌めくそれらは、まるで一つの美術館のようだった。
 「これは……」
 私は思わず手を伸ばし、一着のドレスをそっと撫でた。
 だが、違和感が胸をよぎる。
 ジェシカの趣味が高級品を集めることなのは知っていた。だが、ここにあるもののいくつかは、彼女の資金だけでは到底手に入らないような超高級品だった。
 「……おかしいわね」
 私はふと最近の実家の状況を思い出す。ここ数年、私の家はビジネス相手との競争に勝てなくなってきていた。契約を逃し、利益が減少し、かつての余裕が失われつつある。
 なのに——ジェシカはこれほどの贅沢を続けている。
 まさか……。
 「ジェシカが、情報を漏らしている……?」
 この倉庫にある品々は、ただの買い物ではない。もし彼女が、我が家の企業秘密を競争相手に売り渡し、その見返りとして資金援助を受けているのだとしたら——?
 「お前、何を考えてる?」
 思考に沈んでいた私の肩に、突然温かい手が置かれた。
 「エリオット……」
 彼は私の背後に立ち、そっと抱きしめてきた。
 「いいだろ?」
 彼の低く囁く声が耳元で震える。
 夜の倉庫、甘い囁き、謎めいたジェシカの影——。
 私はゆっくりと瞳を閉じた。
 エリオットの囁きに導かれるように、私は彼の唇にそっと口づけた。彼もすぐに応じ、唇が重なり、熱がじんわりと広がっていく。
 だが——。
 「……!」
 背筋を冷たいものが走った。
 誰かの視線を感じる。
 「やっぱり今は駄目」
 私は素早く彼から離れ、倉庫の影に身を潜めた。エリオットも状況を察し、私の手を引いて別の倉庫へと移動する。
 倉庫の隙間から様子を窺うと、ジェシカが護衛を引き連れて現れるのが見えた。
 「……ジェシカ……?」
 彼女は何か指示を出している。身振りからして、護衛に命令を下しているようだった。
 「何をしているの……?」
 私は囁くように言ったが、隣にいたエリオットが突然目を見開いた。
 「……待て。あの護衛……」
 エリオットの視線が鋭くなる。
 「……あれは、モロヘイヤ商会お抱えの傭兵だ」
 私は息を呑んだ。
 ジェシカが雇った護衛が、まさか商売敵の傭兵だったとは——。
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