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五十七話 事件考察 ヒルについて
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「話はすんだな。なら、そろそろ帰るか」
話すべきことはこれで終わったのだろうか?
しばらくの沈黙の後、おじさんが呟いた。
「そうですね。時間も遅いですしこれ以上ここに居たら風邪をひいてしまいそうだ」
千晃も同意する、どうやら今日はここでお開きとなるみたいだ。
今まで話に夢中になっていたから意識はしていなかったけど、言われれば指先なんて痛いくらいに冷え切ってしまっている。
すぐ戻るつもりだったので薄着で出てしまったのが失敗だった、時計を見れば時刻は二十三時十三分、かれこれもう二時間近く外に出ていた。
「うん、それに賛成。私もこれ以上ここにいるのは無理。早く帰ろ、千晃」
そう促す私に千晃は申し訳なさそうに頭をかく。
「うん。そのことなんだけど近衛君、君恵子を家まで送ってあげてくれないかな?」
「はぁ?何で俺が?お前でやればいいだろう。お前んちにお前の彼女だ俺が出る幕じゃないだろう」
「まぁ、そうなんだけど。僕はもう少し岸野さんと話が合ってね。悪いけどたのむよ」
可愛らしく手を合わせお願いをする千晃に大志はしかめっ面を崩さないでいる。
もちろん私としても本来は千晃と一緒に居たいのだけど。
「りょーかい!分かったよ。先に帰って待ってる。だから、あんまり遅くならないでね」
「うん」
その返事を受け取ると私は大志の手を引き無理やり歩き出す。
「オイ、恵子」
後ろで抗議の声が聞こえたけど今はあえて無視することにした。
千晃がああやって理由を語らず私を遠ざけるときはいくら私がお願いしても絶対に聞き入ってもらえない時だ。
それを不満だと思うのは毎度のことだけどでもそれが私のことを思ってだってことも分かっている、できれば一人で抱え込まずに話してほしいけどこれ以上彼の思には背負わせたくないので無理強いは出来るだけしないようにする。
それに、今回は色々話してくれたし。
大志には悪いけど少しの間私に付き合ってもらうことにしたのだ。
恵子と近衛君二人が立ち去ると辺りはより静けさを増した気がした。
やっぱりあんな暗い話の中でも恵子がいると安らぎを覚えてしまうのは一人の女に惚れた男の性なのだろうか?
本当はもちろん近衛くんの言うように一緒に帰ってあげたかったけど、今は隣にいるこのおじさんの為にもそんなわがままは言ってられない。
僕にも多大な責任があるわけだし。
「良かったのか?二人に、奴らのことはなさんで?」
再びタバコに火をつけながら岸野さんが尋ねる。
「いいんです。彼らのことはまだ謎が多いですし、無駄に不安を増やすことは無いでしょう。それにとてつもなく危険な気がしますし」
「まぁ、な」
ふーと煙を吐く岸野さんは遠い目で空を仰ぐ。
「オイ、お前も今回は手を引きな。澄乃の件はお前のせいじゃない、あれは澄乃はが言い出してことだし同意した俺の責任だ、お前はただ言われるままにしただけ何の咎もない。あの、近衛ってガキは友達の響司のこともあって止まらねぇだろうから俺が根回しして事件から遠ざけるが、お前は自分の意志で立ち止まれるだろう、これ以上彼女に心配かけんなよ」
「どうしたんです?今までそんなこと言わなかったのに今回はどうしてまた?」
僕はそんな分かり切った質問をわざと返す。
「そんなこと、言わせんなよ。お前だってわかっているんだろ?今回の事件、その犯人がどれだけ異常なのか、そんなもんに関わらせれるか、これでも警官だしな」
相変わらずけだろうそうにする岸野さんだがその決意はずいぶんと固そうに見えた、やはり昔と変わらず正義感は人一倍強いようだ。
「それは、僕達市民の危険を減らすためですか?たとえ事件解決に有益なことでも市民の安全の方が大事だということですか?」
「当たり前だ。俺は事件を解くためならお前のようなガキの手でもそれにより皆の安全が保障されるなら喜んで使うさ。けどな、それはあくまで安全確保が大前提での話だ。それによって新たな被害が出るなんて話にならない。今回の事件はお前らが係るには危険すぎる。人類浄化の会に潜入していた近衛大志の仲間も殺され、例の二人を追っていた澄乃も殺された。わかるか?もちろんこの二人には個人的かかわりはない、共通するのは事件の真相を追っていたということ。つまりだ、お前も例外なく殺される可能性があるというわけだ。だからも関わるな、それがお前の為だ」
話ばかりで全然吸えていなかったタバコの火はいつの間にか手の付近まで来ていて、岸野さんは少し驚くようにそれを投げ捨てた。
「岸野さん、背負い込み過ぎです。そんなんじゃ事件解決の前にあなたがつぶれちゃいます。それに澄乃さんのことは気にするなってそんなのは無理でしょう。彼を後押ししたのはほかならぬ僕だ、責任がないなんて思えない。岸野さんの市民を巻き込みたくないその思いと使命感は尊敬に値しますがそれでも僕にも譲れないものがあります。このまま見ているだけなんてできません、それは近衛君も同じはずです」
「勝手な奴らだ。あのお嬢ちゃんにはかかわるなと言っておきながら自分たちはどうだ」
その意見はもっともすぎて笑えてくる。
「そうですね。僕らは勝手です。自分の都合だけしか考えていない勝手な奴らです。だからこそ、そんな僕の発言で死んでしまった澄乃さんの死にきちんと向き合うにはこの勝手を最後まで貫くしかないと思うんです。たぶんそれは近衛君も同じだと思います」
「殺されたチームの奴の為か」
コクリと僕は頷く。
「口には出さないですけど。不器用なんで彼も。・・・あと、この申し出はなにも岸野さんに損ということもないと思うんですよ。だって岸野さんがなんと言おうと僕たちは独自に事件にかかわるつもりですよ、ならそんな僕らはほっといた方が岸野さんの負担も減ります。それに警察がうまく動けない以上、人手は多い方がいいと思いますよ。」
「本当に勝手な言い分だな。それに生意気だ、お前そんなんじゃ人から嫌われるぞ」
「岸野さん、絶対に迷惑はかけません。だから最後までこの事件の行く末を見させてください」
深々と下げる頭、この頭を下げるという行為にいったいどれだけの価値があるのかは僕にははからないけどそれでも誠意を伝えるにはこれしかない、ただ感情を行動につなげるしかないと思い行った。
そんな僕の後頭部に岸野さんの視線は沈黙のままそそがれた。
そして。
「迷惑ならかけられてる。お前たちが関わるってこと自体が俺にとっては迷惑そのものなんだからな。まぁ、けどそれもお互い様か。最初に事件の要請をかけたのはこっちだしな突き合せた以上最後まで面倒は見るべきか。癪だが」
岸野さんは半分諦めたかのような面持ちでそう僕らが事件に関わることを認めてくれたのだった。
「ありがとうございます」
「別に何も感謝されることはしてないさ。事件はまだ続いてるんだしな。率直に聞くがお前はこの事件の犯人は近衛大志の言うように響司だと思うか?」
あえての確認ということだろうか?
その結論は少し前に出したはずなのだけど。
「そうですね、断罪事件その始まりになった人物という意味では僕も近衛君の意見を支持します。理由としては近衛君の語る響司の言動と今回の事件の類似性、そしてこの事件の首謀組織として認識されている人類浄化の会その長に君臨しているという事実から見ても間違いはないと思います。ただ、この事件を起こしたのが彼かと聞かれれば僕は疑問を感じずにはいれません」
というか疑問しかないというのが事実なのだけど。
「というと?」
「まず先ほど言ったようにあんな異常な組織を作り上げるのはそれこそがまず至難の業、それでいて断罪事件をまるで感染爆発のようにこの三丸町から日本へそして世界へと広げていくほどの異常な影響力そんなものをあの少年がいや誰であろうと持ち得るなんて考えられない」
「だが組織総意のよるものとも考えられないぞ。確かに組織の力ってのは絶大だがそれはそれを率いるだけの器をもったものが頂点に立ってはじめて機能するもの、あれだけの一つに統率された意志、みなの話し合いの末に作られたんのとは思えないな。それは絶対に誰か一個人による支配の上で成り立っているものだ」
人のものとは思えないほどの世間への影響力、しかしその誰かがいなければありえない事件の動向。
なら、ここはそれはあり得たものとして納得するしかないのだろう。
「先ほど、岸野さんは神様なんて言葉をだしたけど僕にはそれが単なる冗談とは思えないんです。あれだけの人間を操る統外力、事件を世界へと広める影響力、警察に捜査をさせないという妨害力をもちながら捜査や推理が可能のほどの手がかりだけは毎回残している。
弄ばれているそんな感じがします。真相のかけらを見せれて近づいていけばまた遠ざけられて。なんだか誰もが誰かの手のひらの上で踊らされているそんな気がするんです」
「ならそれは一体誰だと思う?お前の口ぶりだと響司がそうだとは思っていないのだろう」
当然の質問が返ってきた。
多分その人物は岸野さんも見当がついているとは思うけど。
「僕は、最初の事件でビデオレターに登場していた人物、秋瀬勝生を殺害した人物、ヒルがそうなのだと思います」
ふん、と頷く岸野さんは納得したように笑みを漏らす。
どうやら岸野さんも同じ考えだったようだ。
「ならき聞くがどうしてお前はあのヒルと名乗る人物が怪しいと思ったんだ?」
そう言われても困る、僕の推理なんてほとんど直感と言ってもいいものだから、そんなこと岸野さんも知っているのに。
それとも何らかの理由付けをさせることで僕を試しているのだろうか?
「とはいっても判断材料はあのビデオしかないわけなんで決め手なんてものはないんですけど。それでもいうならそれらしい雰囲気ってやつかな」
「雰囲気?」
「ええ。あのビデオの人物ヒルは姿を見せずに声だけしかもその声も大きく加工されていて性別も年齢の予測もできませんでしたけど、あの殺人ビデオを見ているとなんだかとても心を鷲掴みにされるいや握りつぶされるかのような妙なプレッシャー」
「殺人の映像だ、精神的に負担が来るのは仕方がない」
「そうじゃないんです。いえ、もちろんあの映像にも衝撃は受けましただけど、僕が何よりも恐怖を感じたのはあの声の主のそのあまりにも不自然なほどの自然さにでした」
恐怖、そのときつい出た言葉だったけどそこで初めて自覚できた僕があのビデオを岸野さんから見せられて以来感じていたヒルという人物に対する胸のざわつきが恐怖心だという事実に。
僕はこういった殺人事件に関わるのはこれが初めてというわけではない規模自体は小さくてもこの断罪事件よりも恐ろしい事件を見たこともある。
けれど、その時でさえ怒りや不快感はあれどこんな心を握りつぶされるかのような恐怖感はなかったのに。
「不自然なほどの自然さか。妙な言い方だがなかなか的を射ってると思うぞ。俺もあのビデオを見たとき体に蛇が這うような気味悪さを感じたよ。人を殺した直後だというのにあの落ち着き様、そして喋りの中でかんじたあの無感情さ、まるで機械が喋っているようにオレには感じたさ」
ああ、とその言い分に納得する。
確かにあの画面越しの声からは人間めいた感情が感じられなかった、それは声が加工されているからとかじゃなくてその言葉の節々から虚無的な無機質さがあったからだった。
「それと気になるところがあるんです」
「それは、なんだ?」
「ヒルはあのメッセージの中で『罪には罰をとのことなので清く正しく生きてください』と答えていましたが、これヒル自身の言葉としては少しニュアンスがおかしくありませんか?」
「自分自身の言葉としてはやけに他人事っぽいって点か?」
まさにその通りだった。
「ええ。あの言葉から察するにこの断罪事件の趣旨でもある『罪には罰』という行動原理がヒルにはないことがうかがえます。自分の意志で言っているなら『とのこと』なんて言い回ししないですもんね。ですがあれだけの行動を起こしている人物です、事件の中心人物と考えていいでしょう」
「その理論でいくと確かに響司は主犯格ではあるが真の犯人じゃないといことになるな」
大きく反論をしないところを見ると岸野さんもこの意見にはおおむね賛成なのだろう。
まぁ、賛成されようが反論されようが決定的な証拠など何もないから僕からいえることはさほどないのだけど。
けれど、否定されないことで僕の推論にも少しだけ自身がわいてきたのもまた事実だった。
「あともう一つ気になる点としては、最初のヒルが起こした事件とこれまでの事件が似てるんですよ」
「うん?そんなことは無いだろう。今までの事件同じ断罪事件と言っても殺害のされ方も何もかもが違う共通点はただ一つあのドクロマークだけだ。それ以外に同じ個所なんて」
「いえ、僕が言いたいのは殺害方法ではなくてですね、事件を二つに分けた場合の共通点です」
「二つに分ける?」
眉をひそめ僕の言葉を繰り返す岸野さん、どうやらまだ真意の方は伝わっていないようだ。
といっても僕もこれからの説明にさほど自身があるわけじゃないのでうまく伝えられるか不安ではあるのだけど。
「そうです。この考え方の場合事件の主犯はヒルあくまでこの前提で考えることになるので間違った推測になる可能性は大きくあるのだあくまで一つの事例ということで聞いてほしいのですが」
僕は地面に落ちている手頃な石を二つ掴み上げるとそれを左右の手に一つづつ持ち岸野さんの前にかざした。
「いいですか、まず考えとして最初のビデオレターが送られた秋瀬勝生殺し、そしてそのあとにおきた三件の殺人事件みんなはこれらを一つ一つのものとして見ていますがそうではなく最初の事件はあくまで一つの事件として考え続く三件はまとめて一つの事件として考えるんです」
「三つを一つに考えるだと?だがなぜその三つをまとめるんだ何か共通点があるのか?」
「この三つにはありませんけれど最初の事件だけが明らかに異質なんです。ほかの三件は例のマークを除いて犯人からの主張らしい主張は見つからず謎解きのカギになりそうな証拠もあまり見つかりませんでした。まぁ、それでも犯人が人類浄化の会と関連があると思わせるくらいのヒントはあったのですが。最初の事件はそれとは比べ物にならないほど犯人からの主張がありました」
「それで、事件を二つに分けたってことか」
「最初はただの偶然だと思ってました。一番最初の事件だから派手にやったのだろうと。けれど先日の事件、あのお寺で見つかった肉塊の話を聞いて考え方を変えたんです」
手に持っていた小石を目の前の壁へと投げつける。
壁に当たり地面に転がった石は暗闇に溶け込みあっけなく見えなくなってしまった。
なんだかそれを見ていると今自分たちの現状を見せつけられているようで少しむなしい気持ちになる。
「ああ、あれは確かに今までで一番派手な事件だったからな犯人にたどりつけそうな品もだいぶん見つかったし」
そういう割には岸野さんの声は浮かない、やはり第一の事件の時と同様に証拠になりそうなものはあれど全て犯人にはたどり着けないようにされてあるのだろう。
「つまり、第二から第四までの事件はヒルではない別人が第一と第五の事件はヒルが起こしたというわけか」
「いいえ。僕は全ての事件、ヒルが関わっていると思います。ヒルこそがこの断罪事件の実行犯だと思っているんです」
「オイオイそれじゃおかしいだろ矛盾するじゃないか。お前は最初の事件と次の事件で犯行のうまさが違うことに違和感を感じたんだろう、なのに犯人が一緒っておかしな話だろうが」
あんのじょう僕に食ってかかる岸野さん、この反応は想定内のことだったので僕もあわてず彼をなだめる。
「いや、確かに別人が起こしたかのように見える事件ですが三つの事件をまとめてみると犯人の犯行のうまさは実はさほど変わらないことがわかるんですよ」
こうして、もの分からない人に自身の理論を説明するのは存外気分のいいもので僕の弁はだんだんと熱がこもり自然と口調は早口なものへと変わっていくのであった。
「いいですか。先ほども言いましたが最初の事件はあれ程の証拠物がありながら犯人のめどが全く立ちませんでした。続く三つの事件は証拠らしい証拠はありませんでしたがそれでも必死の調べの結果、犯人たちが人類浄化の会だということが憶測できるようになりました。しかしそれでも証拠はなくあくまで机上の推論だけです。僕はこれ全部犯人がわざとやっているんじゃないかと思ったんです」
「わざと?」
「はい。最初は多くの証拠をわざと残して事件は早期に解決できると思わせといて、いざ調べてみるとそれらは決して足がつかないようにし、続く事件は証拠らしい証拠は見せないでけれど探せばヒントになるようなものを残し僕らをわざと真相に近づけて、それでいてやっぱり決定打は絶対につかませない。この周到さと意地の悪さそして多くの人間を手玉に取る狡猾さ、こんな微妙なさじ加減、僕はどうしても同一の犯人だと思ってしまうんです」
それこそ檻の中にいる獣に餌をちらつかせて楽しむかのような嗜虐性。
こんな犯人自身も危険になるようなまねどうしてするのかなんて皆目見当はつかないけどやっぱりこの犯人はとことんいかれていると思わずには入られない。
「同一犯か。これだけのこと一人ではできないそう考えるのが普通だがもうこれだけ普通じゃないことが起きてんだ、今更か。なら聞こう。お前はこの事件の犯人、こんな理解不能の行動を繰り返している化け物ヒルは一体誰なんだと思う?」
誰?
岸野さんは聞いてきた。
それは、どんな人物だと思うとか曖昧なものではなく的確に人物をあげろというもの。
つまり、岸野さんも誰か明確な犯人像をとらえているということなのだろう。
それが誰なのかはわからないけど、だけどこの少ない情報網の中では答えはかなり絞られているはずだ。
僕も、確信はないまでも目をつむれば犯人の姿がおぼろげながらも見えてくる。
ただ、そうすると同時に自覚してしまった恐怖もまた湧いてくる。
僕はその恐怖を抑え込みながら震える口で話しを続ける。
「澄乃さん。あの人が殺され方。あれも今までの犯行のように多くの証拠がわざと残されているように感じました」
「ああ、そうだな」
「ですから、僕は澄乃さんを殺した犯人が今までの犯人だと考えています。そして状況的にもっとも怪しいのは澄乃さんが死ぬ直前まで調べていた例の二人」
「そうだな。なら、あの二人が犯人だと思うか?」
「それはなんとも。だけど、ヒルは複数人の人物ではなく一人だと思います」
「なら、あの二人だと仮定したらどちらだと思う?」
「それは分かりません。コレばっつかりは本当にわからない」
「そうか。俺はまだあの二人がガキの頃だが直に奴らと会ったことがある。どちらも、印象深いガキだったが、当時と今を比べると気になることが一つある」
気になることというのはもはや色々ありすぎて分からないけれど、ガキの頃にあったことがあるというセリフが気になる。
そんなことをわざわざ持ち出すということは子供の頃の彼らを見ていないと気付けない事柄なのだろう。
けれど岸野さんが彼らといた時間なんてそう長いもののはずがない、それで気づけるなんて容姿くらいのものだろうか?
けど、容姿なんて成長すれば変わっていくものだしそれに、なんで岸野さんだけがそれに気づける?
「違うんだよガキの頃と姿が。ありゃ一体なんなんだ」
「そりゃ違って当たり前じゃないですか?誰だって成長するんだし」
やっぱり、予想通りの文句に僕は少し落胆しつつそう答える、けれど岸野さんの険しい表情はさらに深まるばかりだ。
一体なにがそんなに腑に落ちないのだろうか?
「成長なんだろうか?俺にはとてもそうは思えない。あれはもう、変貌と言った方がしっくりくるような」
「・・・そうだとしてもそれを不思議に思うのが岸野さんだけっていうのはおかしくないですか?仮に整形をしていたとしてもそんなの恵子たちの方が真っ先に気付くはずですよ」
「そこだ一番おかしいのは。なぜ、俺が気づけてアイツらは気付かない?」
正直、疑問を疑問で返されても困るのだが。
「勘違いということはないんですか?」
「ありえない」
そう呟いたっきり岸野さんは黙り込んでしまった。
さて、どうしてものだろう。
謎はいまだ晴れずどれだけ考えようと答は何も見えない。
こうして話し合えば幾分か気分も晴れるかと思ったけどそんなことは無く不気味な現実だけがぽかりと残る。
なんだか怖い、なにがなんだかわからないこの不理解さが僕は恐ろしい。
『近いうちに起こる。とても大きなことが』
僕の直感が耳の内でそうささやいてくる。
頭を振り声をかき消そうとするもささやきは止まらない。
僕はその囁きに問い返す。
「いったい何が起きるんだ」
当然、答えは返っては来ず岸野さんが何事かとこちらを見るだけだ。
ただしきりに繰り返されるささやきはまるで僕に何も考えずにとにかくここから逃げろと警告しているようにも思えた。
話すべきことはこれで終わったのだろうか?
しばらくの沈黙の後、おじさんが呟いた。
「そうですね。時間も遅いですしこれ以上ここに居たら風邪をひいてしまいそうだ」
千晃も同意する、どうやら今日はここでお開きとなるみたいだ。
今まで話に夢中になっていたから意識はしていなかったけど、言われれば指先なんて痛いくらいに冷え切ってしまっている。
すぐ戻るつもりだったので薄着で出てしまったのが失敗だった、時計を見れば時刻は二十三時十三分、かれこれもう二時間近く外に出ていた。
「うん、それに賛成。私もこれ以上ここにいるのは無理。早く帰ろ、千晃」
そう促す私に千晃は申し訳なさそうに頭をかく。
「うん。そのことなんだけど近衛君、君恵子を家まで送ってあげてくれないかな?」
「はぁ?何で俺が?お前でやればいいだろう。お前んちにお前の彼女だ俺が出る幕じゃないだろう」
「まぁ、そうなんだけど。僕はもう少し岸野さんと話が合ってね。悪いけどたのむよ」
可愛らしく手を合わせお願いをする千晃に大志はしかめっ面を崩さないでいる。
もちろん私としても本来は千晃と一緒に居たいのだけど。
「りょーかい!分かったよ。先に帰って待ってる。だから、あんまり遅くならないでね」
「うん」
その返事を受け取ると私は大志の手を引き無理やり歩き出す。
「オイ、恵子」
後ろで抗議の声が聞こえたけど今はあえて無視することにした。
千晃がああやって理由を語らず私を遠ざけるときはいくら私がお願いしても絶対に聞き入ってもらえない時だ。
それを不満だと思うのは毎度のことだけどでもそれが私のことを思ってだってことも分かっている、できれば一人で抱え込まずに話してほしいけどこれ以上彼の思には背負わせたくないので無理強いは出来るだけしないようにする。
それに、今回は色々話してくれたし。
大志には悪いけど少しの間私に付き合ってもらうことにしたのだ。
恵子と近衛君二人が立ち去ると辺りはより静けさを増した気がした。
やっぱりあんな暗い話の中でも恵子がいると安らぎを覚えてしまうのは一人の女に惚れた男の性なのだろうか?
本当はもちろん近衛くんの言うように一緒に帰ってあげたかったけど、今は隣にいるこのおじさんの為にもそんなわがままは言ってられない。
僕にも多大な責任があるわけだし。
「良かったのか?二人に、奴らのことはなさんで?」
再びタバコに火をつけながら岸野さんが尋ねる。
「いいんです。彼らのことはまだ謎が多いですし、無駄に不安を増やすことは無いでしょう。それにとてつもなく危険な気がしますし」
「まぁ、な」
ふーと煙を吐く岸野さんは遠い目で空を仰ぐ。
「オイ、お前も今回は手を引きな。澄乃の件はお前のせいじゃない、あれは澄乃はが言い出してことだし同意した俺の責任だ、お前はただ言われるままにしただけ何の咎もない。あの、近衛ってガキは友達の響司のこともあって止まらねぇだろうから俺が根回しして事件から遠ざけるが、お前は自分の意志で立ち止まれるだろう、これ以上彼女に心配かけんなよ」
「どうしたんです?今までそんなこと言わなかったのに今回はどうしてまた?」
僕はそんな分かり切った質問をわざと返す。
「そんなこと、言わせんなよ。お前だってわかっているんだろ?今回の事件、その犯人がどれだけ異常なのか、そんなもんに関わらせれるか、これでも警官だしな」
相変わらずけだろうそうにする岸野さんだがその決意はずいぶんと固そうに見えた、やはり昔と変わらず正義感は人一倍強いようだ。
「それは、僕達市民の危険を減らすためですか?たとえ事件解決に有益なことでも市民の安全の方が大事だということですか?」
「当たり前だ。俺は事件を解くためならお前のようなガキの手でもそれにより皆の安全が保障されるなら喜んで使うさ。けどな、それはあくまで安全確保が大前提での話だ。それによって新たな被害が出るなんて話にならない。今回の事件はお前らが係るには危険すぎる。人類浄化の会に潜入していた近衛大志の仲間も殺され、例の二人を追っていた澄乃も殺された。わかるか?もちろんこの二人には個人的かかわりはない、共通するのは事件の真相を追っていたということ。つまりだ、お前も例外なく殺される可能性があるというわけだ。だからも関わるな、それがお前の為だ」
話ばかりで全然吸えていなかったタバコの火はいつの間にか手の付近まで来ていて、岸野さんは少し驚くようにそれを投げ捨てた。
「岸野さん、背負い込み過ぎです。そんなんじゃ事件解決の前にあなたがつぶれちゃいます。それに澄乃さんのことは気にするなってそんなのは無理でしょう。彼を後押ししたのはほかならぬ僕だ、責任がないなんて思えない。岸野さんの市民を巻き込みたくないその思いと使命感は尊敬に値しますがそれでも僕にも譲れないものがあります。このまま見ているだけなんてできません、それは近衛君も同じはずです」
「勝手な奴らだ。あのお嬢ちゃんにはかかわるなと言っておきながら自分たちはどうだ」
その意見はもっともすぎて笑えてくる。
「そうですね。僕らは勝手です。自分の都合だけしか考えていない勝手な奴らです。だからこそ、そんな僕の発言で死んでしまった澄乃さんの死にきちんと向き合うにはこの勝手を最後まで貫くしかないと思うんです。たぶんそれは近衛君も同じだと思います」
「殺されたチームの奴の為か」
コクリと僕は頷く。
「口には出さないですけど。不器用なんで彼も。・・・あと、この申し出はなにも岸野さんに損ということもないと思うんですよ。だって岸野さんがなんと言おうと僕たちは独自に事件にかかわるつもりですよ、ならそんな僕らはほっといた方が岸野さんの負担も減ります。それに警察がうまく動けない以上、人手は多い方がいいと思いますよ。」
「本当に勝手な言い分だな。それに生意気だ、お前そんなんじゃ人から嫌われるぞ」
「岸野さん、絶対に迷惑はかけません。だから最後までこの事件の行く末を見させてください」
深々と下げる頭、この頭を下げるという行為にいったいどれだけの価値があるのかは僕にははからないけどそれでも誠意を伝えるにはこれしかない、ただ感情を行動につなげるしかないと思い行った。
そんな僕の後頭部に岸野さんの視線は沈黙のままそそがれた。
そして。
「迷惑ならかけられてる。お前たちが関わるってこと自体が俺にとっては迷惑そのものなんだからな。まぁ、けどそれもお互い様か。最初に事件の要請をかけたのはこっちだしな突き合せた以上最後まで面倒は見るべきか。癪だが」
岸野さんは半分諦めたかのような面持ちでそう僕らが事件に関わることを認めてくれたのだった。
「ありがとうございます」
「別に何も感謝されることはしてないさ。事件はまだ続いてるんだしな。率直に聞くがお前はこの事件の犯人は近衛大志の言うように響司だと思うか?」
あえての確認ということだろうか?
その結論は少し前に出したはずなのだけど。
「そうですね、断罪事件その始まりになった人物という意味では僕も近衛君の意見を支持します。理由としては近衛君の語る響司の言動と今回の事件の類似性、そしてこの事件の首謀組織として認識されている人類浄化の会その長に君臨しているという事実から見ても間違いはないと思います。ただ、この事件を起こしたのが彼かと聞かれれば僕は疑問を感じずにはいれません」
というか疑問しかないというのが事実なのだけど。
「というと?」
「まず先ほど言ったようにあんな異常な組織を作り上げるのはそれこそがまず至難の業、それでいて断罪事件をまるで感染爆発のようにこの三丸町から日本へそして世界へと広げていくほどの異常な影響力そんなものをあの少年がいや誰であろうと持ち得るなんて考えられない」
「だが組織総意のよるものとも考えられないぞ。確かに組織の力ってのは絶大だがそれはそれを率いるだけの器をもったものが頂点に立ってはじめて機能するもの、あれだけの一つに統率された意志、みなの話し合いの末に作られたんのとは思えないな。それは絶対に誰か一個人による支配の上で成り立っているものだ」
人のものとは思えないほどの世間への影響力、しかしその誰かがいなければありえない事件の動向。
なら、ここはそれはあり得たものとして納得するしかないのだろう。
「先ほど、岸野さんは神様なんて言葉をだしたけど僕にはそれが単なる冗談とは思えないんです。あれだけの人間を操る統外力、事件を世界へと広める影響力、警察に捜査をさせないという妨害力をもちながら捜査や推理が可能のほどの手がかりだけは毎回残している。
弄ばれているそんな感じがします。真相のかけらを見せれて近づいていけばまた遠ざけられて。なんだか誰もが誰かの手のひらの上で踊らされているそんな気がするんです」
「ならそれは一体誰だと思う?お前の口ぶりだと響司がそうだとは思っていないのだろう」
当然の質問が返ってきた。
多分その人物は岸野さんも見当がついているとは思うけど。
「僕は、最初の事件でビデオレターに登場していた人物、秋瀬勝生を殺害した人物、ヒルがそうなのだと思います」
ふん、と頷く岸野さんは納得したように笑みを漏らす。
どうやら岸野さんも同じ考えだったようだ。
「ならき聞くがどうしてお前はあのヒルと名乗る人物が怪しいと思ったんだ?」
そう言われても困る、僕の推理なんてほとんど直感と言ってもいいものだから、そんなこと岸野さんも知っているのに。
それとも何らかの理由付けをさせることで僕を試しているのだろうか?
「とはいっても判断材料はあのビデオしかないわけなんで決め手なんてものはないんですけど。それでもいうならそれらしい雰囲気ってやつかな」
「雰囲気?」
「ええ。あのビデオの人物ヒルは姿を見せずに声だけしかもその声も大きく加工されていて性別も年齢の予測もできませんでしたけど、あの殺人ビデオを見ているとなんだかとても心を鷲掴みにされるいや握りつぶされるかのような妙なプレッシャー」
「殺人の映像だ、精神的に負担が来るのは仕方がない」
「そうじゃないんです。いえ、もちろんあの映像にも衝撃は受けましただけど、僕が何よりも恐怖を感じたのはあの声の主のそのあまりにも不自然なほどの自然さにでした」
恐怖、そのときつい出た言葉だったけどそこで初めて自覚できた僕があのビデオを岸野さんから見せられて以来感じていたヒルという人物に対する胸のざわつきが恐怖心だという事実に。
僕はこういった殺人事件に関わるのはこれが初めてというわけではない規模自体は小さくてもこの断罪事件よりも恐ろしい事件を見たこともある。
けれど、その時でさえ怒りや不快感はあれどこんな心を握りつぶされるかのような恐怖感はなかったのに。
「不自然なほどの自然さか。妙な言い方だがなかなか的を射ってると思うぞ。俺もあのビデオを見たとき体に蛇が這うような気味悪さを感じたよ。人を殺した直後だというのにあの落ち着き様、そして喋りの中でかんじたあの無感情さ、まるで機械が喋っているようにオレには感じたさ」
ああ、とその言い分に納得する。
確かにあの画面越しの声からは人間めいた感情が感じられなかった、それは声が加工されているからとかじゃなくてその言葉の節々から虚無的な無機質さがあったからだった。
「それと気になるところがあるんです」
「それは、なんだ?」
「ヒルはあのメッセージの中で『罪には罰をとのことなので清く正しく生きてください』と答えていましたが、これヒル自身の言葉としては少しニュアンスがおかしくありませんか?」
「自分自身の言葉としてはやけに他人事っぽいって点か?」
まさにその通りだった。
「ええ。あの言葉から察するにこの断罪事件の趣旨でもある『罪には罰』という行動原理がヒルにはないことがうかがえます。自分の意志で言っているなら『とのこと』なんて言い回ししないですもんね。ですがあれだけの行動を起こしている人物です、事件の中心人物と考えていいでしょう」
「その理論でいくと確かに響司は主犯格ではあるが真の犯人じゃないといことになるな」
大きく反論をしないところを見ると岸野さんもこの意見にはおおむね賛成なのだろう。
まぁ、賛成されようが反論されようが決定的な証拠など何もないから僕からいえることはさほどないのだけど。
けれど、否定されないことで僕の推論にも少しだけ自身がわいてきたのもまた事実だった。
「あともう一つ気になる点としては、最初のヒルが起こした事件とこれまでの事件が似てるんですよ」
「うん?そんなことは無いだろう。今までの事件同じ断罪事件と言っても殺害のされ方も何もかもが違う共通点はただ一つあのドクロマークだけだ。それ以外に同じ個所なんて」
「いえ、僕が言いたいのは殺害方法ではなくてですね、事件を二つに分けた場合の共通点です」
「二つに分ける?」
眉をひそめ僕の言葉を繰り返す岸野さん、どうやらまだ真意の方は伝わっていないようだ。
といっても僕もこれからの説明にさほど自身があるわけじゃないのでうまく伝えられるか不安ではあるのだけど。
「そうです。この考え方の場合事件の主犯はヒルあくまでこの前提で考えることになるので間違った推測になる可能性は大きくあるのだあくまで一つの事例ということで聞いてほしいのですが」
僕は地面に落ちている手頃な石を二つ掴み上げるとそれを左右の手に一つづつ持ち岸野さんの前にかざした。
「いいですか、まず考えとして最初のビデオレターが送られた秋瀬勝生殺し、そしてそのあとにおきた三件の殺人事件みんなはこれらを一つ一つのものとして見ていますがそうではなく最初の事件はあくまで一つの事件として考え続く三件はまとめて一つの事件として考えるんです」
「三つを一つに考えるだと?だがなぜその三つをまとめるんだ何か共通点があるのか?」
「この三つにはありませんけれど最初の事件だけが明らかに異質なんです。ほかの三件は例のマークを除いて犯人からの主張らしい主張は見つからず謎解きのカギになりそうな証拠もあまり見つかりませんでした。まぁ、それでも犯人が人類浄化の会と関連があると思わせるくらいのヒントはあったのですが。最初の事件はそれとは比べ物にならないほど犯人からの主張がありました」
「それで、事件を二つに分けたってことか」
「最初はただの偶然だと思ってました。一番最初の事件だから派手にやったのだろうと。けれど先日の事件、あのお寺で見つかった肉塊の話を聞いて考え方を変えたんです」
手に持っていた小石を目の前の壁へと投げつける。
壁に当たり地面に転がった石は暗闇に溶け込みあっけなく見えなくなってしまった。
なんだかそれを見ていると今自分たちの現状を見せつけられているようで少しむなしい気持ちになる。
「ああ、あれは確かに今までで一番派手な事件だったからな犯人にたどりつけそうな品もだいぶん見つかったし」
そういう割には岸野さんの声は浮かない、やはり第一の事件の時と同様に証拠になりそうなものはあれど全て犯人にはたどり着けないようにされてあるのだろう。
「つまり、第二から第四までの事件はヒルではない別人が第一と第五の事件はヒルが起こしたというわけか」
「いいえ。僕は全ての事件、ヒルが関わっていると思います。ヒルこそがこの断罪事件の実行犯だと思っているんです」
「オイオイそれじゃおかしいだろ矛盾するじゃないか。お前は最初の事件と次の事件で犯行のうまさが違うことに違和感を感じたんだろう、なのに犯人が一緒っておかしな話だろうが」
あんのじょう僕に食ってかかる岸野さん、この反応は想定内のことだったので僕もあわてず彼をなだめる。
「いや、確かに別人が起こしたかのように見える事件ですが三つの事件をまとめてみると犯人の犯行のうまさは実はさほど変わらないことがわかるんですよ」
こうして、もの分からない人に自身の理論を説明するのは存外気分のいいもので僕の弁はだんだんと熱がこもり自然と口調は早口なものへと変わっていくのであった。
「いいですか。先ほども言いましたが最初の事件はあれ程の証拠物がありながら犯人のめどが全く立ちませんでした。続く三つの事件は証拠らしい証拠はありませんでしたがそれでも必死の調べの結果、犯人たちが人類浄化の会だということが憶測できるようになりました。しかしそれでも証拠はなくあくまで机上の推論だけです。僕はこれ全部犯人がわざとやっているんじゃないかと思ったんです」
「わざと?」
「はい。最初は多くの証拠をわざと残して事件は早期に解決できると思わせといて、いざ調べてみるとそれらは決して足がつかないようにし、続く事件は証拠らしい証拠は見せないでけれど探せばヒントになるようなものを残し僕らをわざと真相に近づけて、それでいてやっぱり決定打は絶対につかませない。この周到さと意地の悪さそして多くの人間を手玉に取る狡猾さ、こんな微妙なさじ加減、僕はどうしても同一の犯人だと思ってしまうんです」
それこそ檻の中にいる獣に餌をちらつかせて楽しむかのような嗜虐性。
こんな犯人自身も危険になるようなまねどうしてするのかなんて皆目見当はつかないけどやっぱりこの犯人はとことんいかれていると思わずには入られない。
「同一犯か。これだけのこと一人ではできないそう考えるのが普通だがもうこれだけ普通じゃないことが起きてんだ、今更か。なら聞こう。お前はこの事件の犯人、こんな理解不能の行動を繰り返している化け物ヒルは一体誰なんだと思う?」
誰?
岸野さんは聞いてきた。
それは、どんな人物だと思うとか曖昧なものではなく的確に人物をあげろというもの。
つまり、岸野さんも誰か明確な犯人像をとらえているということなのだろう。
それが誰なのかはわからないけど、だけどこの少ない情報網の中では答えはかなり絞られているはずだ。
僕も、確信はないまでも目をつむれば犯人の姿がおぼろげながらも見えてくる。
ただ、そうすると同時に自覚してしまった恐怖もまた湧いてくる。
僕はその恐怖を抑え込みながら震える口で話しを続ける。
「澄乃さん。あの人が殺され方。あれも今までの犯行のように多くの証拠がわざと残されているように感じました」
「ああ、そうだな」
「ですから、僕は澄乃さんを殺した犯人が今までの犯人だと考えています。そして状況的にもっとも怪しいのは澄乃さんが死ぬ直前まで調べていた例の二人」
「そうだな。なら、あの二人が犯人だと思うか?」
「それはなんとも。だけど、ヒルは複数人の人物ではなく一人だと思います」
「なら、あの二人だと仮定したらどちらだと思う?」
「それは分かりません。コレばっつかりは本当にわからない」
「そうか。俺はまだあの二人がガキの頃だが直に奴らと会ったことがある。どちらも、印象深いガキだったが、当時と今を比べると気になることが一つある」
気になることというのはもはや色々ありすぎて分からないけれど、ガキの頃にあったことがあるというセリフが気になる。
そんなことをわざわざ持ち出すということは子供の頃の彼らを見ていないと気付けない事柄なのだろう。
けれど岸野さんが彼らといた時間なんてそう長いもののはずがない、それで気づけるなんて容姿くらいのものだろうか?
けど、容姿なんて成長すれば変わっていくものだしそれに、なんで岸野さんだけがそれに気づける?
「違うんだよガキの頃と姿が。ありゃ一体なんなんだ」
「そりゃ違って当たり前じゃないですか?誰だって成長するんだし」
やっぱり、予想通りの文句に僕は少し落胆しつつそう答える、けれど岸野さんの険しい表情はさらに深まるばかりだ。
一体なにがそんなに腑に落ちないのだろうか?
「成長なんだろうか?俺にはとてもそうは思えない。あれはもう、変貌と言った方がしっくりくるような」
「・・・そうだとしてもそれを不思議に思うのが岸野さんだけっていうのはおかしくないですか?仮に整形をしていたとしてもそんなの恵子たちの方が真っ先に気付くはずですよ」
「そこだ一番おかしいのは。なぜ、俺が気づけてアイツらは気付かない?」
正直、疑問を疑問で返されても困るのだが。
「勘違いということはないんですか?」
「ありえない」
そう呟いたっきり岸野さんは黙り込んでしまった。
さて、どうしてものだろう。
謎はいまだ晴れずどれだけ考えようと答は何も見えない。
こうして話し合えば幾分か気分も晴れるかと思ったけどそんなことは無く不気味な現実だけがぽかりと残る。
なんだか怖い、なにがなんだかわからないこの不理解さが僕は恐ろしい。
『近いうちに起こる。とても大きなことが』
僕の直感が耳の内でそうささやいてくる。
頭を振り声をかき消そうとするもささやきは止まらない。
僕はその囁きに問い返す。
「いったい何が起きるんだ」
当然、答えは返っては来ず岸野さんが何事かとこちらを見るだけだ。
ただしきりに繰り返されるささやきはまるで僕に何も考えずにとにかくここから逃げろと警告しているようにも思えた。
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