断罪

宮下里緒

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三十四話 嵐の朝

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殺人の実行日となる今日、勝生とリリは最後の打ち合わせのため強風雨吹き荒れる中、例の廃工場に集合していた。

「ヒルは今日も来ていないんだ。ところで、これはこれは一体?」

長細い机の上に置かれたひと振りの刃物、それを見ながら勝生は少し困惑げな声を上げた。

「ヒルは最後の準備中です。あと、それはダガーと言いまして。今回、殺人をするという君へのヒルからのプレゼントだそうです。つまり凶器だね。君がもうほかの獲物に決めているというのなら構いませんがせっかく用意したんです、よかったら使ってみてください」

「ダガー?」

「ええ、切るではなく刺すことに特化した、人殺し用の刃物らしいです。といっても、刃渡りはそれほどないので急所に当てなければなかなか致命傷にはなりにくいですが殺傷能力自体はかなり高いって。いかがですか」

鈍い銀色の光を放つダガーその怪しい光はまるで蜘蛛の糸のように勝生を絡めとりたちまち虜とする。

「気に入ったよ。これ、かなりいいね。即死させるなんて勿体無い。せっかくの初獲物だこれで何度も柔らかな肉を刺しぬく。くぅ~想像しただけでヨダレが止まりませんね」

「下品ですよ」

そこで勝生は急に真面目な表情になり気がかりになっていることを聞いてみた。

「けど、今日のこの天気。これなら確かに目撃者の心配はあまりないかもしれないけど、獲物の方だってこんな嵐の中じゃ外に出てこないんじゃ?」

「大丈夫ですよ。彼女は間違いなく来ます、だから安心して殺しなさい。ヒルもそれを望んでるから」

勝生の肩をしっかりと持ちニッコリと笑顔で言い聞かせてくるリリ、その大きな自信を見せられてはもう、こちらからは何も言えなくなってしまう。

そうして勝生はリリに促されるまま殺人の舞台へと足を運ぶのだった。





時刻がちょうど正午を回ったころ台風の暴風に襲われていた三丸町は台風の目にすっぽりと収まったことで一時の平穏に包まれていた。

窓の外の木々も先ほどはまるでダンスでもしているように荒れ狂っていたが、今は一枚の葉すら揺れる様子もない。

まるで再生ボタンを止めたかのような静止した世界はまるで時間すらもこのまま止めてしまうのではないかと思うほどのまったりとした雰囲気、けれどその空気はドタドタトいう騒がしい足音と共に消えてしまった。

「ママー!」

まるで、静かになった台風の代わりのように大きな声を上げ二階から階段をまるで跳ねるように駆け下りてくる娘の浅利のお転婆ぶりに母、久江は『はぁ』と小さくため息をつく。

「どうしたの、浅利ちゃん。そんなに慌てて。階段は静かに下りないと危ないでしょ。浅利ちゃんはただでさえおっちょこちょいなんだから」

「うっ!気をつけるよ」

「それで、どうしたの?そんなに慌てて」

「うん、あのさぁ。この服装変じゃないかな?」

「服装?」

少し恥ずかしそうに顔をうつむける娘、その服装は、ショートパンツにパーカーといういつも家ではジャージで過ごしている我が子にしてはやけに気合いの入った服装だった。

よく見るとその顔にはうっすらとメイクもしているようだ。

「どうしたの浅利ちゃん。こんな日にそんな格好して、まさか出かける気じゃないでしょうね」

娘の不審な行動にはらはらと不安を醸し出しながら尋ねる母、久江に娘である浅利は、ばつの悪そうな顔をしながらも『ダメ?』と懇願してきた。

「当たり前でしょ!こんな台風の日に出るなんて危ないじゃない。分かってるの?」

「分かってるけど、今は風止まってるから」

「それは一時的なものでしょ。後からまた強い風がふくのよ。分かってる?」

心配も相まっていつも温厚な母の少し強気な口調、けれど浅利は口ごもりはしたものの納得したという様子ではない。

久江もこんな娘の姿は初めて見るため動揺を隠せない。

もしかしてこれが反抗期というやつなのだろうか?

そんな考えが思い浮かぶ。

「どうしたの、浅利ちゃん。何でこんな日に限ってそんなに外に行きたいの?」

純粋なまでの疑問、けれどそれを聞かれた途端浅利の顔はまるでゆでだこのように真っ赤になる。

「そ、それは。そのう・・・と、友達が」

「友達?」

「うん、そのね。今日会うって約束を」

「今日ってこんな日に?その友達も次の機会にしようっていうわよ」

「それが、もう出かけたってさっきその友達の友達から連絡があって。だから、私も行かないと!」

今にも飛び出そうとする娘を必死で止める母はその浅利の力強さに自らの子の成長を感じていた。

ああ、この子もいつの間にかこんなに成長したんだと。

そんな思いにふけっているすきに浅利は久江の脇をすり抜け玄関の方まで行ってしまう。

「ごめんママ!ほんとすぐに戻ってくるから。風吹き始めるまでには戻るから」

それだけ謝ると浅利は玄関のドアを開け木漏れ日が差し込む外の世界へと飛び出していくのだった。



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