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連載
傷痕12
しおりを挟む「……で、説明はしてくれるんだろうな? どういうつもりだ」
クロのお勧めだという喫茶店……というよりは定食屋に近い店で、ヴェルムドールはテーブルをコツコツと叩きそう告げる。
結局あの場ではヴェルムドールが女たらしだという疑惑は晴らせなかったわけだが……それもこれも、あの場でトドメとばかりにレイナが現れたからである。
すでに手遅れ感もあったが、レイナが現れなければまだどうにかなった可能性も高いのである。
しかしまあ……あまり出歩くことも無い場所だ。そんな噂の一つや二つ、どうということもない……が、やはり文句は言いたくなる。
「どうと言われましても、別にタイミングを計ったわけではありませんし」
「それはそうだろうが……」
レイナならば空気を読んでその辺りをどうにか出来たのではないか、と思わないでもない。
まあ、勝手なヴェルムドールの期待に過ぎないのでそんな事はいえないが。
「使者を送るでもなく、お前が直接来たんだ。それなりの用事なんだろう?」
そう、何よりそこが重要だ。
ヴェルムドールに用があるならば、使者を送って然るべき場所にヴェルムドール達を招待するのが普通だ。
それが外交というものの礼儀だが……それがないということは公的ではなく私的な用事、それも雑談じみたものか……あるいはそうした場所では話せない内容であると考えられる。
レイナは運ばれてきたハーブ茶のカップのふちを指でなぞると「そうですね……」と呟く。
「実を言うと、たいした用事ではありません」
「そうか。なら何の」
頷き続きを促そうとするヴェルムドールの口に魔神が小さな貝の形に焼かれたクッキーを放り込み、強制的にヴェルムドールは無言になる。
「どうだい、味は?」
「……まあまあといったところだな」
「そうかい。貝の形なんかに焼いてるから貝の味でもするのかと思ったけど」
流石にそんなはずもない……が、確かに貝の形というのも珍しいだろうか。
普通クッキーといえば丸か四角で、こういう特殊な形のものはあまりない。
それは丸や四角が一番美味しく焼ける完成された形だからなのだろうとヴェルムドールは思っていたが……これもまた職人のこだわりということだろうか。
「ニノのもあげる」
「いや、どうせ同じ大皿だろう」
「あげる」
有無を言わさず口元にクッキーを押し付けるニノに根負けしたヴェルムドールがそのクッキーを頬張り、助けを求めるようにクロとレイナを見るが……クロのほうは黙ってクッキーをサクサクと食べているし、レイナは微笑を浮かべながら見ているだけだ。
「おいしい?」
「そうだな。それで、話の続きだが……何の用だ?」
「はい、おかわり」
再びニノの差し出したクッキーで話が中断されてしまったが、ニノに妙な対抗心を抱かせた魔神はニヤニヤするばかりだ。
だがまあ、このままでは話が進まないとレイナも思ったのだろう……レイナはヴェルムドールを正面から見据えると、「今後の話です」と切り出した。
「今後の話?」
「はい、おかわり」
再びクッキーを差し出してくるニノの手からヴェルムドールはクッキーを取り、ニノの口元に押し付ける。
「俺ばかりではなく、お前も食うといい」
「ん」
ニノがクッキーに食いついた瞬間にヴェルムドールは手を離し、再びレイナへと向き直る。
「今後の話というと……アクリアのことか?」
「ええ、それもあります。タイミングを逃し続けていましたが……貴方が望むならば、いつでも道を繋ぐことができます。といっても、今となっては然程意味のあるものでもないかもしれませんが」
「そうだな。慌てずとも神々は地上に戻る。それに……お前の言うとおり、今となってはあまり意味のあるものでもない」
神々に会う理由としては「聖剣」の完成という理由があったが、ソレも急ぐ必要はなくなった。
勇者カインも勇者トールもヴェルムドールを滅ぼそうとする敵ではなくなり、命の神フィリアもまた同様だ。
完成させるにしてもヴェルムドールの言ったとおり神々が地上に戻ってからでも良い事で、急ぐ理由は何一つない。
「そうですか」
「ああ」
「ヴェルムドール、僕にもさっきのやってくれよ」
「勝手に食え」
魔神の要求を適当に断ったヴェルムドールの手に魔神がクッキーを握らせようとして、仕方なしにヴェルムドールは魔神の口元にもクッキーを運んでいく。
それを魔神が楽しそうに食べているのを見て、クロが「楽しそうだな」などと呟く。
別にそんなことはないし、楽しいどころか非常に疲れるのだが……わざわざそんな事を言う必要も無い。
「……それで、用事はそれだけか?」
「そうですね……これは話しておかねばならない事ですが、私は近いうちにこの国を離れます」
「ほう? お前はこの国に居つくものと思っていたが」
「いいえ。すでに私がこの国にいる理由は無くなりつつあります。そうなれば私の存在は騒乱の種にしかならない」
……確かにレイナの存在は大きすぎるだろうとヴェルムドールも思う。
その正体が何であるかという事をさておいても「伝説のメイドナイト」だというだけで利用したがる者は多過ぎる。
現在は復興協力にザダーク王国という存在があるからそういうことはないが、もし居なければ「復興協力」を餌にレイナに何らかの協力をさせようとする国だって出てきていたはずだ。
それは復興が終わってからも決して変わるものではなく……キャナル王国の今後を考えれば、健全な状態といえないのは確かだろう。
「ならば、この国を離れて何処に行く?」
「ええ、まずは貴方の国にでも行ってみようかと。しばらくほとぼりを冷ますには丁度良いですしね」
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