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連載
誕生
しおりを挟む光の柱が消え、極彩色の空間から色が消える。
薄暗くなった空に何処かからざわめきが聞こえたような気がしたが……同時に何処かから起こった歓声は、どこかで何かの決着がついた証だろうか?
とにかく光の柱のあった場所には立ち尽くすヴェルムドールと、それに抱きついたままの魔神の姿があり……イチカ達が駆け寄るその前に、壊れた天井の上から巨大な何かが舞い降りようとしてくる。
「よう、こっちは終わったんか!?」
黒い巨体のドラゴン……ラクターは背中に三人の女を乗せているが、降りられる先にヴェルムドールがいると見るや否や、背中の上の女達に何やらボソボソと呟き……その竜形態を一瞬で解除して魔人形態になる。
「ちょ、うわあああ!」
「ひゃあああ!?」
「くっ……!?」
三者三様の声をあげて落下しようとする三人はセイラ、シャロン、ルーティ達だが……ラクターはその三人を空中で手早くキャッチすると丸太でも抱えるようにして乱雑に持ちながら適当な床へと着地する。
いつもどおり衝撃波でも撒き散らす派手な着地かと思いきや予想外に静かな着地で……しかしポイと投げ捨てられた女達は恨みがましい目でラクターを睨みつける。
「ちょ、ちょっと! もう少し気を使ってよ!?」
「使っただろうが。置いてってもよかったんだぜ?」
どうでもよさそうに耳をほじっているラクターだが……此処に来ているという事は、空のアルヴァは駆逐してしまったということだろう。
そのついでにこっちに向かってきていたルーティ達を拾ってきたというのが実際のところだろうか?
「で、今どういう状況だ?」
「見ての通りさ」
ラクターの問いかけに答えたのはイチカでもフィリアでもなく、ヴェルムドールに抱きついていた魔神。
「ヴェルムドールは今、自分の中身を把握するのに忙しい。一気に変化したからね……まあ、見切り発車で暴走されても困……僕は困らないか」
そんな物騒なことを言いながら魔神はヴェルムドールの顔を見上げ、どこかぼうっとしている表情を覗き込む。
「とはいえ、この場の主役がいつまでも観客を放りっぱなしというのもよろしくない。どれ、手伝ってやるとしようか」
呟いた魔神が踵でタンッと床を叩くと床が段のように少し盛り上がり、少しだけ魔神の立ち位置が上へと上がる。
そうすると魔神はイクスラースとイチカの方へと顔を向け、にんまりとした……ヴェルムドールに先ほど向けたものとは違う、実に「いやらしい」笑みを浮かべてヴェルムドールの頬を両の手で挟みこむ。
「ちょ、貴方何を」
イクスラースが問う前に、魔神はヴェルムドールの顔を引き寄せて唇に自分の唇を重ね合わせる。
それはひょっとせずとも表現を考慮せずとも「口づけ」であり、たっぷり2、3秒ほど経過した後に唇を離した魔神は妖艶なものに笑みを変えて自分の唇を人差し指でトン、と叩く。
「まあ、ちょっとした魔力のナビゲーションみたいなものだが……御伽噺風に言えば「目覚めのキス」ってやつさ。あれって意外と合理的なんだぜ、知ってた?」
「し、知らないわよ! それより、そんな事を勝手に」
貴方もなんか言いなさいよ! と隣のイチカを揺すっているイクスラースに魔神は首をかしげ、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。
「おや、別にヴェルムドールは君の所有物ではないだろう? それにヴェルムドールのことだ。君達とキスの100や200くらい……してるわけないか。そういう本能が化石になったかってくらいの堅物だもんね!」
大笑いしながらヴェルムドールをバシバシと叩いていた魔神の頭が軽く掴まれ、魔神は「お?」と呟いて顔を上へと向ける。
そこには不機嫌そうなヴェルムドールの顔があり……ぺろっと舌を出してみせる魔神の顔をぐいっと下へと向けさせる。
「コレの戯言は気にするな。反応が面白いと思ったら飽きるまで弄りにくるぞ」
「彼女はいいキャラしてるね!」
「黙ってろ」
魔神の頭を押さえつけたヴェルムドールは溜息をつくと、「キャラってなによ……」と呟いているイクスラースのほうへと歩いて、隣にいるイチカの頭とイクスラースの頭にポンと手を載せる。
身長差の大きい二人故に同時に手を載せているのは中々に奇妙な構図だが、ヴェルムドールは二人の頭を軽く撫でる。
「ヴェルムドール様……?」
「な、なによ」
「いや、特に意味はない」
そう答えてヴェルムドールは二人の頭から手を離すと、くるりと背を向けて歩き出し……今度はフィリアの目の前へと歩いていく。
「成功したようですね」
「ああ。賭けの側面も強かったが……のってくれたことには感謝しよう」
フィリアはそれにすぐには答えず、ヴェルムドールに再び引っ付いている魔神へと視線を向ける。
そう、確かに賭けだった。だが……それでもその「賭け」にフィリアがのったのは。
「感謝される謂れはありません。私はただ、「信じて」みただけ。とうの昔に捨てたソレを取り戻すための、練習にすぎません」
「たいした練習もあったものだ。ならば、此処から俺達がやるべきことも分かっているな?」
「……貴方こそ、自分の仕事を忘れないよう」
ヴェルムドールの問いにフィリアが答え、その手に輝く杖を出現させる。
「では、この戦いの幕を下ろすとしましょう。どうやら丁度良い頃合です」
フィリアの杖が輝き、次元の狭間に新たな魔力が満ちていく。
同時にバキンという何かが割れるような音が響き……驚愕の声が遠く消えていく。
次にイチカ達の足元が割れ、その姿が消えた後……場にはフィリアと魔神、そしてヴェルムドールだけが残る。
「……一応聞きますが、貴方もついてくる気ですか?」
「のけものは許さないぜ?」
そんな事を言う魔神にフィリアは溜息をつくと、杖を振るい……三人の姿もまた、次元の狭間から消失した。
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