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アルヴァ戦役34
しおりを挟む呼ばれた。
そう、魔神は誰かにそう呼ばれたのだ。
ヴェルムドールは当初これを、この世界の誰かにそう呼ばれていたものだと思っていた。
だからこそ、気付かなかった。
だからこそ、ダグラスの語った過去の話で気付いたのだ。
魔神はかつて、フィリアにこう言ったのだ。
遥か昔、どっかの誰かに魔神、とか呼ばれた事もあったかな……と。
だが、誰にそう呼ばれたというのか。
いつ、そう呼ばれたというのか。
かつての世界が混乱に陥る前に?
いや、それはない。
単純に現れるだけならばイチカに気付かれなかったような何かしらの方法で可能だろう。
魔力も気配も息遣いも全て気付かせないような、そんな化け物を超えた化け物じみた事を実施すれば可能だ。
だが「魔神と呼ばれる」となれば、そうはいかない。
少なくとも神と呼称されるような何かをしたことは確実であり……当時の神々の元に人が集まる文明の中で、そんなことが魔力を隠したままで出来たとは思えない。
では、それは「いつ」で「どこ」なのか?
だが、それを考える前に一つの大きな問題を考えねばならない。
これは前述の問題を考える上でも重要な欠片だが……「期間」についてである。
魔王グラムフィアが滅ぼされ魔王ヴェルムドールが誕生するまで、およそ120年。
魔族の時間間隔を考えれば短い期間だが、通常の人類的感覚で考えれば世代交代も充分にされている期間である。
魔王が空席になったから送り込んでいるという割には時間をかけすぎだし……そもそも異世界の死者の魂を引っ張り込んで魔王に造りなおせる魔神に、それだけの時間をのんびりと待つ理由が何処にあったというのか。
忙しかった? 否。飽いていると、退屈だと過去に魔神はフィリアに語ったという。
それが今になって急に変わっているとも思えない。
いや、変わっていない。変わっているならば、ヴェルムドールが会った時にそれを感じ取れていたはずだ。
ならば、何故。何故それ程飽いているのに120年程も放置をしていたのか?
「……答えは一つだ。アレが手を出している世界は、此処だけではない」
そう、そもそも別世界に手を伸ばせる魔神がレムフィリアという一つの世界のみに固執する理由が何処にあるというのか?
むしろ、飽いているならば手を出さない理由がない。
……いや、あるいは……この世界こそが。
「つまり、アレは此処ではない何処かで魔神と呼ばれるような……そんな存在であるという事だ」
「その魔神が魔力の神様だとかっていうのは、結局どこで予想をつけたのよ。魔力の扱いが上手ければ神様だなんて、そんなアホな話は無いわよ?」
「当然だ。それを証明する一つの証拠が魔属性の存在だ」
イクスラースの指摘にヴェルムドールは頷き、フィリアへと視線を向けなおす。
「聖剣とは、神々の力……つまり純粋で強力な属性の魔力を一つに集め完成する、強大な魔力を秘めた剣……だが。同様のものを魔属性と呼ぶ事もある」
そう言うとヴェルムドールは鞘にしまっていた魔剣を床に突き刺し、魔力を込める。
黒い魔力を纏い始める魔剣をフィリアは見つめ、小さく「確かに全属性が混ざっていますね」と頷く。
「そうだ。だが……此処で興味深いモノがある。今も外で暴れまわっているドラゴンだが……魔竜というドラゴンであり、魔属性のブレスを吐く。まあ、一つ属性が足りないんだがな」
魔のドラゴンブレス。命属性以外の全ての属性の含まれたドラゴンブレスだが……これもまた、魔属性なのである。
全ての属性を合わせれば「聖」になり、「魔」にもなる。
明らかに魔力の色が違うにも関わらず、この二つは同じ行程を辿って完成する……が。「魔」は属性が足りずとも完成する。
この二つの差は一体何処にあるのか?
「恐らくは純度の問題だ。鉱石から目的の金属を精製するように、「魔」からは「聖」が精製できるのだろう。一属性足りずとも「魔」が出来るのは、そうした曖昧な……いや、混ざり合った状態こそが「魔」であるからだと俺は推測する」
そして、これと似たものは自然界に……いや、もっと身近に言えば空気中にも身体の中にも存在していることは魔法の使用行程を考えれば明らかだ。
魔法とは、簡単なものならば自分の体内の魔力を目的の属性に変換し放つ。
大魔法であれば自分の魔力に周辺自然の魔力を合わせ、目的の属性に変換し放つ。
この変換される「前」の魔力はたとえば空気中にあれば純粋な「風」というわけではなく、他の属性も多少ながら含んでいる。
これは前述した「魔」属性と似通っており、むしろ一つの属性が強過ぎて「魔」としての特徴が出ていない魔属性であるとも言えるだろう。
「つまり極端なものでなければ魔属性は身近と言えるし、魔法には必須のもの……その根底にあるものが「魔属性の力」であるならば、魔力とはその略称であるとすら言えるだろう」
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