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アルヴァ戦役35
しおりを挟むさて、ではこの「魔属性」だが、これを司っている神はレムフィリアには存在していない。
全ての属性の元とも言えるこの力だが、もしこれを司る者こそが「魔神」であるとしたらどうだろう?
魔神が全ての属性に関する力を使えるのも納得であるし、その魔神の作った「神の卵」たるヴェルムドールが同じようなことを出来るのも納得では無いだろうか?
そう、つまり。
ヴェルムドールはこう予測しているのだ。
魔神とは、魔属性を……魔力を司る神である、と。
「そしてそう考えれば、ある程度の事象に全て説明がつく」
フィリアはヴェルムドールの言葉を反芻し考え込むように黙り込む。
今のところ否定する材料が見つからないのだろう。
そうして少し長めの沈黙の後、フィリアはようやく口を開く。
「……貴方の予想が正しいとすれば、魔神に対抗できる者は居ないようにも思えますね?」
「そうだな」
「しかし、そうではない事も貴方は想像がついている。違いますか?」
「……ああ」
そう、その通りだ。
如何に神とはいえ、全ての事象を一瞬でどうにかすることは不可能だ。
例えばの話、それが出来るのであれば神々が「世界の魔力バランスの調整」などというものをする必要は無いし、ライドルグは極光殲陣が発動する前にエルアークに登場していたはずだ。
そしてこの空間はフィリアの支配下にある魔力で溢れており、それを奪い取るのは如何に魔神であろうと手間がかかるはずだ。
魔力の神に魔力で対抗するというのは如何にも愚かしい響きはするが、光の魔力を同じ光の魔力で相殺できるように、魔力の神を魔力で殺せないということも無い。
それは皮肉な事に、闇の神クラシェルが闇魔法で自分ごと歪神を葬ったことで証明された。
「魔神が魔力の神であったとして、それを殺せないという理屈は……ない」
「ヴェルムドール様……!?」
「まあ、それはそれだけの話だがな。お前に協力する義理もない」
イチカに大丈夫だと手を振ると、ヴェルムドールはそう言い放つ。
実際、フィリアの思い通りに事を進ませてやる義理はヴェルムドールには一切無い。
魔神とフィリアのどちらが敵かといえばフィリアであり、しかし魔神とて信用できるかといえば「信用できない」が答えになってしまう。
それは魔神という存在の愉快犯的な立場が問題であり……事実として、「何を考えているのか分からない」のが根本にある。
だからこそ、この場はヴェルムドールにとって最大のチャンスでもあった。
「……フィリア。この空間は神々の場と同じで世界には影響を及ぼさない、「神」の存在できる空間……で、相違ないな?」
「ええ。一応聞きますが、何をするつもりですか?」
「俺はしない。それに、聞かずとも想像できているんだろう?」
フィリアは答えない。
しかし、その沈黙が何よりの答えだ。
全てを解決する鍵は一つ。「魔神」本人に、この場に来て貰うしかない。
そして魔神を呼ぶには本当は……召喚などという手順はいらなかったのだ。
それは家の中の誰かを呼ぶのにわざわざ壁に穴を開けるが如き強引さであり……ただ、こう言えばいい。
「全部聞いているんだろう。俺は俺の想像の及ぶ範囲でお前を理解した。そして、これ以上「面白い」用事もそうはあるまい……出て来い、魔神。答え合わせの時間がきたぞ」
虚空に向けてヴェルムドールの言い放ったその言葉に、誰かが何かを言うその前に。
「なるほど、切り札か。確かにいつか君が言った言葉は間違っていないねヴェルムドール。僕としてはもう少し華々しい切り札としての登場を期待していたんだが」
ヴェルムドールの正面……丁度ヴェルムドールに寄りかかるように、一人の少女が姿を現していた。
肩まで伸びた黒髪、少しきつい印象のある黒い目。薄い紅色の唇は笑みの形に歪み……その身体を覆うのは、黒いドレス。
魔神と呼ばれる少女は、まるで最初から其処にいたかのような自然さで「其処」に居た。
「……!」
「ちょっと、今……何も感じなかったわよ!?」
「え、ちょ……誰!?」
サンクリード達がそれぞれの驚きの反応を見せ……二度目になるイチカと、真剣な表情で魔神を睨みつけるフィリアのみが無言だ。
ただ二人を除き、誰も魔神の出現を感じ取れなかった。
「……此処にいるのが本体ではないということか」
「魔力で身体を造ったのですね……人形などを送り込んでくるとは」
それぞれの反応を見せたヴェルムドールとフィリアに、ヴェルムドールに身体を預けていた魔神は不満そうな顔をする。
「なぁにさ。呼んだから来てやったんだろ? わけのわかんない事言ってないで、本題を言いたまえよ」
「どうして本人が来ない。此処ならばお前とて存在できるはずだろう」
前回の召喚の結果を踏まえれば最適な場所であるはずだが……やはりフィリアの用意したこの空間を警戒しているのだろうかとヴェルムドールは考える。
だとするとヴェルムドールの想像は正しかったことになるのだが……。
「だから、訳のわからない事を言うなよヴェルムドール。そもそも君の解答だって、いいとこ四十点なんだぜ? ギリギリ赤点回避ってやつだ」
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