勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役24

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「……まったく、冗談じゃないわ」

 薄暗い廊下を歩きながら、イクスラースはそう毒づいた。
 魔力の動きも感じないままに謎の転送を受け、分断。そこまではいい。
 次元の狭間という常識の通じない場所でそういうことがあるかもしれない事は、ある程度想定はできていたことだ。
 当然、ザダーク王国のメンバーは皆一人でも戦える者ばかり、なのだが。

「お約束みたいに私一人じゃなくてもいいじゃないの」

 誰が聞いているわけでもないのだが、思わずそう口に出してしまう。
 人類の連中を加えれば相当に人数が居たのに、狙ったかのように一人。
 しかもこの場所は、どう考えても街ではなく次元城の中である。
 つまり、敵の本拠地の中枢だ。そんな所に一人で放り出されるとは冗談にも程がある。
 まあ人類なんか居たところで足手纏いだから居なくても構わないのだが……。

「ギイイ」
「ゲギイアアア」
「ゲオギギアア」

 前方の暗がりから湧くように出現するアルヴァの群れに、イクスラースは溜息をつく。

「……だからって別に、貴方達みたいなのはいらないのよね」

 イクスラースは呟くと黒薔薇の剣を引き抜き、アルヴァ達へと突きつける。
 正面から連合軍の本隊が攻め込んでいるせいか、恐らくアルヴァ達の注意はほとんどそちらへと向かっている。
 城の中もある程度手薄なのだろう。
 だが……それでもやはり、アルヴァが無尽蔵という噂話をある程度肯定もできる。

「ギアアアア」
「ギギャゲガガ」
「ググググゲギ」

 後方からも、アルヴァの群れ。
 前方にも、追加のアルヴァ。
 けっして狭くは無い廊下を埋め尽くすようなアルヴァに、イクスラースは上げていた剣の切っ先を思わず下げる。
 剣で裂くには多過ぎ、かといって魔法を使えば更にアルヴァを呼んでしまうだろう。
 普段ならいざ知らず、アルヴァの本拠地でソレをやるほどイクスラースは自信過剰ではない。

「……仕方ないわね」

 かといって、諦めるなどという言葉はイクスラースにはない。
 だからこそイクスラースは、剣を床に突き刺した。
 そして、唱える。

「おいで、皆」

 その言葉と周囲の魔力の変化は同時。
 イクスラースの中の魔力を……そして周囲の魔力を混ぜ合わせて。
 イクスラースの周囲を守護するかのように、複数体のエレメントが出現する。
 一体は、ファイアエレメント。
 燃え盛る身体は敵対する全てを焼き尽くすかのよう。
 一体は、アクアエレメント。
 透き通る身体は極彩色の光を受け、美しく輝く。
 一体は、ウインドエレメント。
 他の何よりも不可視でありながら、竜巻の如く渦巻く身体はその存在を暴力的に主張する。
 一体は、アースエレメント。
 ゴーレムを想起させる岩の身体は、その内に秘めた防御力の証明だ。
 一体は、ライトエレメント。
 誰よりも輝くその身体は、同時に敵を貫く最速の槍でもある。
 一体は、ダークエレメント。
 暗く、澱んだその闇の身体は魂ある者を嬲り尽くす。

「……やっちゃいなさい」

 命令を受け、エレメント達は一斉にアルヴァ達へ向けて飛び掛る。
 まず最初に到達したのは、ライトエレメントとウインドエレメント。
 輝く腕がアルヴァの首を刎ね飛ばし、渦巻く身体がアルヴァを飲み込み粉々にミキサーする。

「ギ、ギギア!?」

 思わぬ敵の出現に慌てたアルヴァ達が反撃しようと次々に火の弾を生み出すが、その頃にはファイアエレメントとアクアエレメントが到達している。
 その身を火の壁へと変化させたファイアエレメントがアルヴァを飲み込み、その反対側では水の壁と変化したアクアエレメントが同じようにアルヴァを飲み込んでいる。
 だが、それでもアルヴァとてやられっぱなしではない。
 機転の利く幾つかの個体は翼を広げ、召喚主たるイクスラースを叩くべく迫ろうとし……そこで、待ち構えていた残りの二体のエレメントに迎撃される。
 アースエレメントは自分の身体を巨大な蛇のような姿に組み替えると自分の身体を鞭のようにしならせアルヴァを叩き落し、ダークエレメントはその身体から闇の槍を射出してアルヴァ達を叩き落す。
 制圧までは然程の時間もかからず、視界内の全てのアルヴァを殲滅し終わると同時にエレメント達は役目を終えたとでもいうかのように霧散する。
 その儚い姿にイクスラースは少しだけ悲しそうに目を細める。

 レプシドラで託された力から生まれた、エレメント達の召喚能力。
 しかし、その力は結局は彼等が言ったとおり「力」でしかない。
 会話が出来るわけでもなければ、イクスラースに何かの感情を示すわけでもない。
 レルスアレナのゴーレムと同じ、ただの道具だ。
 
 ……勿論、それでいいと分かっている。
 彼等と一緒にいたいと願うのはイクスラースのエゴであり、感傷でしかない。
 あの時の彼等ですら世界を巡る「力」にしがみついた残滓でしかなく、それはイクスラースに力を託す事で消え去った。

「割り切るべきと分かってはいるのだけど、ね」

 イクスラースは呟くと歩き出し……見つけた階段を上り、その先にある小さなドアを開ける。
 まるで何か広い部屋の裏口であるかのようなそのドアを開けた、その先。
 そこにあった光景に……イクスラースは、絶句した。
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