勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議2

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 交通規制の敷かれたドークドーンの道は当然のように空いており、また王城の門での待ち時間が発生しないように迎えの馬車も少しずつ時間をずらして出されている。
 これもまたサイラス帝国側の配慮の一環であるが……アルム達を乗せたザダーク王国代表団の馬車もたいした待ち時間もなく王城の門を通過した。
 ここまでは急いでいた馬車もすでに王城の敷地内ということでその速度を大幅に落とし、今まで後ろを走っていたエルストッドの馬がアルム達の乗る馬車の横を併走し馬車の扉を叩く。

「もう少しで城の正面に到着いたします」
「はい、ご苦労様ですエルストッド様」
「い、いえ。これが任務ですから!」

 動揺した様子のエルストッドの声にモカはくすくすと笑い、アルムは恐ろしいものを見る目でモカを見る。
 どうやらすでに掌中のようだが、モカにとっては大したことではないのだろう。
 ヴェルムドールがモカを選んだ理由はこういうところにもあるのかもしれないなどと考えていると、馬車がガタンという音を立てて停止する。
 到着です、という御者の声が聞こえてくるとエルストッドが馬を停止させた音が聞こえ……少し後に、扉が叩かれる音が聞こえてくる。

「お待たせいたしました。到着です」

 エルストッドの声と共に扉が開かれ、重武装の槍持つ騎士達がずらりと並んだ入り口への道が視界に現れる。
 
「ご報告申し上げます! ザダーク王国代表団アルム様、モカ様ご到着です!」

 エルストッドの張り上げた大声に応えるかのようにラッパが吹き鳴らされ、騎士達が槍を打ち鳴らす。
 所謂国賓歓迎の儀式というものだが、所謂軍事力や統率力を見せ付ける儀式でもある。
 実際に重装騎士達が一糸乱れぬ動きをしているのは壮観だが……中央軍の魔操鎧達を見慣れているアルム達にとってはあまり目新しい光景でもない。
 僅かにほー、と小さな声を漏らしたのみで……しかし、エルストッドは気にした様子も見せない。

「では、私は此処で。中で案内役の者が待っております」
「うむ、ご苦労じゃったの」

 アルムに労われエルストッドは一礼して去り……アルムとモカはそのまま騎士達の居並ぶ中を歩いていく。
 静止したまま動かない騎士達の間を進んで入り口まで辿り付くと、中から文官らしき一人のメタリオの男が進み出てきて一礼する。

「お待ちしておりました、ザダーク王国代表団の皆様。私は皆様を議場まで案内させて頂きますフェルデランスと申します」
「アルムじゃ。こっちはモカ。よろしく頼むのじゃ」

 アルムにフェルデランスは微笑んでみせ、先導するように歩き始める。
 その後をアルムとモカもついて行き、そのついでに王城の中を見回す。
 流石に職人国家のサイラス帝国なだけあって、ザダーク王国のノルム達が手塩にかけた魔王城のものよりも大分洗練された装飾が施されている。
 このあたりは経験の差もあるだろうから、本人達に言えば「今なら勝てる。作り直させろ」とか言いそうではあるが……それはさておき。
 アルム達の視線に気付いたのか、フェルデランスは立ち止まって振り返ってみせる。

「気になっておいでですか?」
「ん、良く出来ていると思ってのう」
「そうですね。この城の装飾は王の代替わりの度に職人達の腕を磨く機会として新しい王から仕事として発注しておりまして。この辺りはもうデザインとしては二世代程前のものになりますが、今の王の即位による発注時に「此処は直すべきところがない」と言わしめた部分となっています」
「ほー」

 自慢げなフェルデランスにたいしてアルムの反応は薄く、モカがそれを覆い隠すように「まあ」と言って手を叩く。

「そうだったのですね。随分と洗練されたデザインなので新しいものなのかどうか迷ってしまいました」
「ふふふ、此処に訪れた皆様はそう仰います。それ故に、この場所を見て初心に帰るべく入城申請を行う職人も多数おります」
「そうでしょうね。そうして自分をまだ未熟と奮い立たせんとする気持ちは分かります。もっと王城の改装の機会を与えてほしいという話も多いのでは?」

 モカの話の振り方は正解だったのか、フェルデランスは満足そうに頷く。

「ええ、仰るとおりです。今の自分ならばもっと出来ると考える者も多いのでしょうね。実際、議会にそのような議案が年に何度も出されます」
「ふふ、その「機会を与える場所」はこの場所の近くだったりするのでは?」
「その通りです。やはり意識してしまうのでしょうね」
「あるいは自己満足を防ぎ自らを律しようというのかもしれませんね」

 フェルデランスとモカは微笑みあい、やがてフェルデランスは「それではそろそろ行きましょう」と促し歩き始める。
 その後姿を見ながら、アルムはぼそぼそとモカに囁く。

「……よく話を合わせられたのう」
「人によりますけど、あれは肯定して欲しい人の話の振り方ですもん。簡単ですよ?」
「そうかえ」

 なるほど、心なしかフェルデランスの足取りも軽いようにアルムには見える。
 アルム一人ではこうはいかなかっただろうから、モカは与えられた役割を充分以上にこなしていることになる。

「やれやれ……わしも気合を入れなおさんといかんのう」

 そう呟いて、アルムは議場へと向かう足に力を込めた。
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