勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議

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 世界会議。
 各国の代表者が全員現地入りした日にはお祭り騒ぎだったドークドーンも、今日ばかりは静かである。
 というのも警備上の問題で騎士団が各家庭や鍛冶場などにしばらくの自粛を要請したからであり、民衆がそれに応えた形である。
 まあ、「近くの鉱山でアルヴァによる問題が発生したから」と聞けば已む無しというところでもあったのだろう。
 最初から代表団を王城に泊めていてもよかったのだが、各国側としても自分達の信頼する防衛戦力を一定数置ける外交官の屋敷のほうが安心できるという事情もあった。
 そういった代表団が逗留するのは各国の外交担当者が逗留する外交官用の館であり、ザダーク王国用の館も中心部に存在していた。
 
「……さて。いよいよ今日じゃのう」
「嫌だなあ。どーしても私必要ですかねえ?」
「何を言っとるか」

 長椅子でぐでんと寝転がっているモカに、アルムが溜息をつく。
 アルムの格好はいつもとは違い薄青のあまり飾り気のないドレスのようなもので、「可愛らしさ」が前面に出ている。
 対するモカのほうは、まるでナナルスを思わせる格好である。

「大体、なんで私はそーゆー格好じゃないんですか?」
「なんでってのう。見た目が小娘な二人が同じように着飾った所でナメられて終わりじゃろう」

 外交とは威厳が重要なわけではないが、体力勝負な面もある為に外交役は男が任命されることが多い。
 その結果、「相手にナメられず威圧しすぎない」風貌や格好などが好まれる傾向が人類社会にはあるが……この結果、風貌や格好ばかり優先した外交役が選出されてしまったり、それも重要な要素と考える者は多い。
 いわば、肝心の話の内容よりも外見の方が重要だとか最低限の礼儀だとか……そういうどうでもいい事をしたり顔で語る者が多くいるということである。
 そしてそういう事を語る者に限って肝心の中身はスカスカであったりするのだが……ともかく、そうした者への一応の配慮ということで身長もそれなりにあるモカが「それっぽい」格好をしているのである。

「ほれ、起きんかい」
「うー、いいじゃないですか。本番ではやる気出しますから」
「もう行くからやる気を出さんかい」
「うー」

 仕方なさそうにモカは起き上がり、服を軽く叩いて掃う。
 すると、そのタイミングで扉が開き普段外交役を務めている魔人が顔を出す。

「アルム様、モカ様。表に馬車が到着しています」
「うむ、お主は今日は留守番だったかの?」
「はい、成功を信じております」
「ま、そう上手くいくかは知らんがの」

 小さく笑いを漏らしながらアルムとモカは入り口から外へ出る。
 警備の魔操鎧が二人の到着を確認して門を開けると、その外に立っていた緑色の鎧の騎士が兜のバイザーを上げて騎士の礼をする。

「お待たせいたしました。私は本日のザダーク王国代表団の皆様の城までの送迎と護衛を担当させていただきます緑銀騎士のエルストッドです。皆様を確実に会場まで送り届ける事をお約束させていただきます」

 輝く緑色の全身鎧の騎士。
 それはサイラス帝国の鉱山でのみ産出する貴重な金属の一つで、魔法との親和性が高い緑銀で造った鎧を纏った騎士達……緑銀騎士団の鎧である。
 魔法剣士のみで構成された緑銀騎士達は黒鉄騎士と並び国防の要とされており、これを護衛に派遣するという事は相手を尊重しているというサイラス帝国なりの歓迎の意を示す行動でもある。

「そうか、では頼むとするかの」
「はっ、ところで確認させて頂きたいのですが……ザダーク王国の代表者のアルム様というのは……」
「ああ、わしじゃの」

 答えて胸を張るアルムにエルストッドは軽く目を見張り……しかし、すぐに真顔に戻る。
 恐らくは想像以上にアルムが「少女」に見えた事に驚いたのだろうが、すぐに取り繕ったのはさすが騎士というところだろうか?

「では、こちらがモカ様でいらっしゃいますね?」
「はい。ザダーク王国代表団の副代表、モカと申します。名高き緑銀騎士団の護衛、大変心強く思います。どうぞよろしくお願いいたしますね?」

 館を出る前のだらけた様子とは逆の完璧な所作と笑顔に、エルストッドは思わず赤くなった顔を隠すかのようにバイザーを下ろす。

「そ、それではご案内致します! どうぞ馬車にお乗りください!」

 そう言ってエルストッドが馬車の扉を開けると、まずはアルム……それからモカが優雅な所作で乗り込む。
 扉が閉まり馬車が動き出すと、エルストッドも用意していた馬に乗り馬車に追随するように走り始める。
 その様子を馬車の背後に備えられた窓から見ながら、アルムはクスクスと笑う。

「完全に悩殺されておったのう。罪な女じゃ」
「まあ、そんなつもりじゃないんですけど。私、元が「心の寂しさを埋める」為の絵でしたからねー。そういう人は色々と何か感じるものがあるっぽいですよ?」
「ほー」

 ということは、あのエルストッドという騎士も色々とあるのだろうか。
 その辺りの事情は良く分からないが、モカに惚れるのはやめておいたほうがいいだろうな……などとアルムは思う。
 何しろ、「人間への愛」と同時に激しい呪いのようなものも内包している女だ。惚れたところで、ロクな結果にならないのは目に見えている。

「私の顔に何かついてます?」
「ん? 別に何もついてはおらんのう」

 そんな会話を交わしながら、二人を載せた馬車は城へと向かっていった。
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