勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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副長を決めよう2

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「害はないと言われてもな……」

 ファイネルはそう言って立ち上がると、まずはドアの前まで歩いていき勢い良くドアを開ける。
 するとお茶を載せたトレイを持ったフーリィがそこに立っている。

「あっ。お茶をお持ちしましたファイネル様」
「……そうか。言い訳を用意するだけあっちよりは上手だな」

 ファイネルは小さく溜息をつくと今度は窓のほうへと歩いていき、ガラリと開けて窓の外のルルガルを睨みつける。

「で、ルルガル殿はそこで何をしている?」
「私がどこで何をしていようと自由でしょう? 私は魔王ヴェルムドール様に従うと決めた身ではあるけれど、貴女に忠誠を誓ったわけではないのですから」
「……そうかもしれないが、一応貴女は東方軍所属なのだ。忠誠はいらないが、敬意はあってしかるべきだろう」
「敬意なら払ってますわ? ええ、これ以上無いほどに」

 そう、この辺りがルルガルが「問題児」と言われる所以でもある。
 基本的に自分勝手で自分本位で、集団行動というものに徹底的に向いていないのだ。
 かつての西方魔族のように「自分が魔王だ」とか言い出す傲岸不遜さはないが……一度これと決めれば、それこそヴェルムドールの命令以外では動かないだろう頑固さはある。
 実際今も、ファイネルの言葉を「聞いているだけ」なのが明らかな興味なさげな態度だ。
 ヴェルムドールの作った制度であるからそこに所属する「上司」のファイネルの言う事を「聞いている」のであって、そうでなければ先程も我慢できずに乱入してきているかもしれない。
 こういう魔族は今回ヴェルムドールが指示した「副長」には全く合致しないな……などと考えながら、ファイネルは窓の前から半歩分どいて手招きをする。

「とにかく、そこに居られても迷惑だ。別に聞かれても問題ない話だから入ってくるといい」
「あらそう? なら遠慮なく」

 即座に太い枝が窓に向けて伸びて、その上をルルガルが優雅に歩いて部屋の中に入ってくる。
 ちなみにこんなところに木が生えているなど問題外なので、後でルルガルの森担当部隊が責任を持って植え替えをしなければならない。

「……えーっと。何処か移動します?」

 隊長室に四人もの魔人が集まってしまい、ルモンが苦笑しながらそう提案する。
 狭く感じているのだろうが、それはルモンの隣に「副隊長だから」とフーリィが立ち、その反対側でルルガルが腕を絡めているからである。

「別に構わん。それより先程の話の続きだがな。私としては、お前にこの話を受けてもらいたい」
「申し訳ないんですが……やはり僕よりアルムさんのほうが」
「何故そんなに嫌がる」
「いえ、僕より適任が居るのにその人を差し置いて晴れ舞台に出るという事実に耐えられなくて」

 睨みつけるファイネルとルモンの本当に申し訳なさそうな表情がぶつかり合い、やがてファイネルが根負けしたように視線を緩める。

「晴れ舞台といえばそうかもしれんが、失敗できない重要任務なんだ。アルムはその……色々とアレだろう」
「大丈夫ですよ。あの人、意外と空気を読みますから」
「そんなに嫌か」
「嫌です」

 人のよさそうな笑顔を浮かべてハッキリと言い放つルモンに、ファイネルは溜息をつく。

「まあ、お前がそこまで言うなら無理強いするつもりもないが……本当に適任だと思っているんだぞ?」
「評価して頂けることは嬉しいのですが……」

 気の弱そうな笑顔を浮かべながらも、ルモンの表情にはハッキリ「嫌だ」と書いてあるかのようだ。
 こういう時に無理強いしても良い結果にはならないとファイネルも分かっているだけに、「命令」だとは決して言わない。
 だから、困ったように「そうか……」とだけ呟く。

「しかし、ううむ。アルムかあ……」

 ファイネルとしては、あの姿形どころか雌雄自在のアメイヴァに頼むのは物凄く嫌ではある。
 しかし条件面だけでいえば「人類受け」という点では、今のアルムは恐ろしい程に適任でもあるのだ。
 何しろ最近では、ジオル森王国の観光客向けに吟遊詩人の真似事をしているとすら聞く。
 その外面をもってすれば、確かに適任だ。

「……なあ、本当にやる気はないか?」
「残念ですが」

 やはり申し訳なさそうな……しかしその裏に「絶対嫌だ」という断固たる意思を見せる顔で答えるルモンを見て、ファイネルは深い溜息をつく。

「そうか。いや、いいんだ。そうか、するとアルムかあ……」
「そんなに嫌なんですか?」
「ああ、嫌だ。魔力異常のタケノコを生で齧れと命令された気分だ」

 確かに変な奴だからなあ……と思いながら苦笑するルモンの裾を、ルルガルが引っ張る。

「ねえ、アルムってアイツですわよね。あのエロい干物爺……」
「あ。いえ、それは先代の時ですね。今は女の子になってますよ」
「……想像もできませんわ」
「私からすると、干物爺というのが想像できんが……」

 アルムの「昔」しか知らないルルガルと「今」しか知らないフーリィが首をかしげ、両方とも知っているルモンは「まあ、面白い人ですからね」と答える。
 実際、アルムならばその気になりさえすればファイネルのこれ以上ない力となるだろう。
 それこそ、色々なものを誤魔化しているルモンなどよりは、余程。
 だからこそルモンはいまいち乗り気ではない顔をしているファイネルに、こう提案する。

「僕も真面目にやるように説得しますから。だから、そんな嫌な顔をせずにアルムのところに行ってみませんか?」
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