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副長を決めよう
しおりを挟む東方軍ルルガルの森担当部隊駐屯砦。
ザダーク王国の東方に存在する、この深い森の側に存在する駐屯部隊の拠点であり、現在ではルモンが隊長として管理者をしている場所でもある。
さて、この「ルモン」であるが……東方軍の中ではそれなりに有名人だ。
魔王ヴェルムドールの遠征に同行していたうちの一人であるのだから当然だが、それ以前の問題として彼の周りに女性が絶えないということもある。
たとえば、副隊長のフーリィ。
東方軍の制服を着こなし、赤色の髪をゆるい三つ編みのようにし後ろで纏めた髪型が印象的なフーリィは、つり目気味の目の印象もあってキツそうに見えるが……まあ、実際にキツい女性である。
副隊長という立場に加え、ルモンと昔から友人として個人的に親交を深めていた仲であったということもあり……まあ、色々と気安い関係である。
そして、二人目は最近やってきたルルガルという名前の魔人である。
ルルガルの森を思わせる深い緑の髪は肩よりも長く、しかし手入れが行き届いている。
穏やかな輝きを宿した緑の瞳と見るものを安心させるような笑顔を浮かべた顔が印象的で、その身体を包む純白のローブも彼女の清楚な印象に一役かっている。
外見的には非常に対照的な二人だが、その中身は実は結構似ている。
まず、前述した通りにルモンの周りに女性は絶えない。
というのもルモンはその幼さを残した顔立ちと、筋肉質な魔族が多い中で線の細い身体、そして浮かべる優しげな笑顔と……更には実際に気遣い屋で優しいとあって、ルルガルの森担当部隊ではルモンを公私問わず頼る者は多い。
そしてその比率がどちらかというと女性に偏っているのは……まあ、仕方のないことでもあるだろう。
そしてルモンが廊下をノコノコ歩いていようものなら何処からとも無く女隊員が現れあれやこれやとルモンに絡むのだが……そうした場面を発見した際の二人の反応は、本当に良く似ているのだ。
感情がストンと消えたような顔でルモンを見つめる二人の表情は実に怖かったと男隊員は語るが……当のルモンの前では全くそんな素振りを見せないのが実に恐ろしいところである。
ちなみに表面的な性格であるがフーリィは真面目、ルルガルは積極的で少々偏執的……と、実に対照的であったりする。
さて、そんなルルガルの森担当部隊駐屯砦には現在一人の女魔族が来ていた。
しかも美人と噂の……となれば二人も心中穏やかではないとなりそうなものだが、そんなことはない。
何故なら来ているのは東方将ファイネルであり、実は西方将サンクリードと恋仲なのではないかと一部で噂されているからである。
まあ、ファイネル本人が聞けば激怒しそうな噂だが……ともかく、そんなファイネルが「とある用事」で今ルルガルの森担当部隊駐屯砦の隊長室へとやってきていた。
「はあ、遠征部隊ですか」
前の隊長が使っていた内装そのままの執務室は機能的でありながらも何処か女性らしさを感じさせる色使いなのだが、不思議とルモンには合っている。
あまり広いわけではない隊長室には応接セットなどという気の利いたものはなく、より上位であるファイネルが椅子に座りルモンがその脇に立つという形になっている。
「そうだ。人類に受けのよさそうな者を副長として選べと言われている。お前なら適任だろう?」
「うーん……」
ルモンは言われて困ったような笑顔を浮かべるが、確かにルモンは適任である。
「魔族」や「魔人」と言われて人類が連想する恐ろしげな姿からは程遠い優しげで頼りなげにも見える姿と、柔らかい態度。
尚且つ、副長を任せられるような実力者であることも分かっている。
だからこそヴェルムドールから「好きに選べ」と言われて、ファイネルは真っ先に此処に来たのだ。
「僕なんかでお役にたてるかどうか。それよりも対軍戦闘なら東方軍本部のアルムさんなんかいいと思いますけど。彼女、相当強い魔法使いですし……最近吟遊詩人の真似事してるせいか人身掌握も上手みたいですよ?」
「アレはダメだ」
「え、何故」
「私が嫌だ」
顔に「いやだ」と書いてあるかのような渋面と拒否っぷりにルモンはそれ以上言う事もできずに黙り込む。
本当に適任だと思っているのだが、ファイネルがこれほど嫌がっていてはどうしようもない。
まあ、実のところルモンとしては次元の狭間に乗り込むなどというのは御免なのだ。
何しろ、自分の正体をヴェルムドールを含む一部の魔族は知っているがファイネルは「知らない」方に入る。
というのも、ファイネルは色々と態度に出るので教えないほうが上手く回るだろうという判断があったりするのだが……それ故にルモンとしても「自分の正体を知ってる連中のところへノコノコ出向くのなんか嫌だ」という話になる。
とはいえファイネルはそれを知らないのだから理由にするわけにはいかないし、かといって「他の人材」など思い浮かびはしない。
何しろ能力的にいえばアルムは本当に適任なのだ。
一見馬鹿そうに見えて頭が異常に回るし、魔法使いとしての実力もある。
特に今回のような殲滅戦にはピッタリの人材なのだ。
……となれば、なんとかファイネルにアルムを連れて行くことを納得させなければならない。
しかし、どうやって納得させようか。
悩み始めるルモンの思考を、ファイネルの「ところで」という声が中断させる。
「先程からドアの向こうに張り付いている奴と……窓の外にいる奴なんだが。アレは何をしているんだ?」
ドアの向こうにあるのはフーリィの気配。
窓の外に木を生やして覗き込んでいるのはルルガルである。
恐らくはルモンとファイネルの話が予想外に長いので気になったのだろうが……。
「気にしないでください。害は無いですから」
ルモンとしては、そう答えるしかなかったりしたのである。
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