勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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その正体は2

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 肩口くらいまでの長さの、青くふわっとした髪。
 くりんとした目は更に深く青く、蒼い宝石を思わせる。
 その身体を覆う服は白いワンピースのようなもので、仕立ては良いが無難な……もっと言えば、あまり特徴のない服であった。
 ここまでの「外見の特徴」を並べると人間とそう大差はないのだが、大きさが問題だ。
 おおよそ大人の頭程の大きさの水晶玉の中に、人が入っている。
 そうとしか表現しようがないのだが、いったい「これ」は何なのか。
 奇妙なものを見るような目でヴェルムドール達が珠を見上げる中、珠の中の少女もきょろきょろと不安げに辺りを見回し……珠も不安定にふよふよと不安定に漂っている。

「……えい」
「ひゃっ!?」

 やがて、我慢が限界にきたのかニノが珠をつつき、珠が驚いたように天井近くへと飛び上がる。

「な、何するんですか!?」
「つついた」

 警戒するようにチカチカと瞬く珠を見上げながらニノが言うと、珠の中の少女は抗議の声をあげる。

「い、いきなりはやめてください! びっくりするじゃないですかっ!」
「ていうか、アンタその光ってるのは通常状態なの? 照明の魔法とは違うみたいだけど、すっげー目立つわね」
「そ、そんなこと言われましても……」

 興味深げな視線になったロクナのことも警戒しているのか、珠はそのまま天井付近でウロウロと浮遊し……その珠の中から、ヴェルムドールへ、そしてイクスラースへと視線が向けられる。

「うう……他の二人は神経質そうな顔した人といじわるそうな顔した人だし……」
「ねえ、どっちがどっちかしらね」
「知らん」

 イクスラースの呟きにヴェルムドールはそう答え、天井近くの珠へと声をかける。

「とにかく、そこでそうしていても始まらんだろう。降りてくるつもりはないか?」
「うっ……それも、そうなんですけど」

 そのまま考え込むようにしていた珠の中の少女は、しばらくの無言の後にふよふよとヴェルムドールの目の前まで降りてくる。

「……あの、そういえばご存じであればで構わないのですが、教えていただきたいことが」
「なんだ?」

 珠の中を見つめるヴェルムドールに、珠の中の少女はもじもじとした様子で、両手の人差し指をくるくると重ね合わせながら問いかける。

「私に水の魔力を注いでいただけた方は、どちらに……?」
「俺だ」
「へ?」

 同じことを二度言う気はないとばかりに黙り込むヴェルムドールに、珠の中の少女は首を捻り……ヴェルムドールの周りをふよふよと回った後、珠の内壁にぺったりと張り付くようにして、正面からじっとその顔を覗き込む。

「貴方なのですか?」
「ああ」
「し、失礼ですけど……試しにちょっと水の魔力を注いでみていただけます?」
「いいだろう」

 そう答えるとヴェルムドールは珠を掴み、珠の中の少女が「あっ」と声を上げる。

「ま、待ってください。そんな乱暴な……優しくしてくださいっ」
「善処はしよう」

 まったく実行する気のない声でそう言うと、ヴェルムドールは珠の中に水の魔力を軽く流し込む。
 すると珠の中の青い輝きが少し強くなり……僅かだが、珠の中の少女の存在感が確かに増した。

「あ……うわあ……本当だっ、目覚めるときに感じたものと同じですっ」
「そうか」

 納得したならばとヴェルムドールが手を珠から離すと、嬉しそうな顔だった少女が少し残念そうな、物足りないような表情に変わり……しかし、すぐに真面目な表情になって珠の中で佇まいを直す。
 ぴしっと不器用な整列をするようなポーズで珠の中で立った少女は、ヴェルムドールにしっかりとした姿勢で頭を下げる。

「こちらの失礼をお詫びいたします、見知らぬ方々。助けていただきましたご恩に感謝を」
「いや、構わん。たいしたことはしていない」
「いえ、ご恩は必ず返させていただきます。ですが……その前に……えっと……」

 そこで珠の中の少女はキョロキョロと辺りを見回し……ヴェルムドール達の顔を順繰りに眺め、恥ずかしそうに呟く。

「返すべき恩を積み重ねるようで非常に恐縮なのですが……出来れば、最寄りのルスぺリオの街まで連れて行ってくださると助かるのですが……」
「何……?」
「あっ、ご、ごめんなさい! そうですよね、此処が何処か知りませんけど、きっとウルレイスからは遠いですものね!? でもごめんなさい! 今の私一人じゃとてもとても……! ルスぺリオが住んでる街でいいんです。とにかく、何処か同族の……」

 手をバタバタと振りながら珠ごとふよふよと後方へ下がっていく少女をヴェルムドールが珠ごと捕まえると、少女が再び「あっ」と叫ぶ。

「だ、だからダメです! 乱暴にしないでくださいっ」
「なら逃げるな。それと今、ルスぺリオと言ったか。ということは、レザリカ大陸とかいう場所の住人か?」
「へ?」

 ヴェルムドールの問いに、少女はきょとんとした顔で返す。

「レザリカ大陸とかいう場所って。皆レザリカ大陸の住人だと思うんですが……まさか此処、何処かの孤島とかですか? そういえば皆さん、獣人にしては耳がありませんし……あ、そっか。ルスぺリオとのハーフだったりします?」

 少女の言葉に、ヴェルムドールはあの時のダグラスの台詞を思い返す。
 珠がアクリアに関係する何かなのかと問いかけたヴェルムドールに、ダグラスはこう言っていた。

 当たらずも遠からずといったところだな。何故お前の所にいるのかは知らんが……まあ、この大陸で下手な奴の所に辿り着くよりはマシな運命だろう。


「……なるほど。確かにこれは……随分と面倒なモノを拾ってしまったようだ」
「え!? な、なんで私突然面倒なモノ扱いを!?」

 叫んでヴェルムドールの周りを飛び回るルスぺリオの少女を眺めながら、ヴェルムドールは大きな溜息をついた。
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