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その正体は

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皆様、重たい話で胃ももたれた頃かと思います。
軽いお話をご用意致しました。
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 魔王城地下の薄暗い大図書館に、転移光が集まっていく。
 
「ん……帰ってきたか」

 図書館の主であるロクナが読んでいた本から顔をあげると、丁度集まった光が弾けてヴェルムドール達の姿が出現したところであった。
 
「お帰り、ヴェルっち。その他大勢の面々はご苦労さん」
「ひどい言い草だな……」

 サンクリードが思わず苦笑するが、ロクナは適当に手を振って答える。
 はたして聞いているのか怪しい態度ではあるが、ちゃんと聞いてはいる。
 聞くが記憶はしないというだけだ。

「で、成果はどうだったのかしら?」
「ああ、それな……ぐっ!」

 言いかけたヴェルムドールにニノが衝突し、そのままの勢いで抱きつく。
 なんとか踏み止まったヴェルムドールだが、自分に顔を埋めているニノの頭を軽く撫でる。

「おかえり、魔王様」
「ああ……ニノは……なんだ、またパワーが上がったような気がするんだが」
「うん。ニノは努力を怠らない系の美少女だから。昨日も今日も明日も成長するよ」
「そうか。頼りになるな」
「頼りにしていいよ」

 満足そうなニノをとりあえず離そうとして……しかし離れないニノをくっつけたまま、ヴェルムドールは首だけをロクナのほうへと向ける。

「成果はそれなりだった。精査しなければならん事もあるにはあるが、今後の方向性は見えてきたと言えるだろう」
「あら、そう。そりゃよかった。それじゃあ、まずはアルヴァクイーンの討伐に向けて全力……ってとこかしら?」
「そうなる。各国の様子はどうだ?」
「そうねえ……ここにきて情報の集まりが悪くなってきたわ。もう少し時間をくれれば大体読めてくるとは思う」

 ヴェルムドールとロクナが言い合っている間にサンクリードはすでに何処かへ行ってしまい、イチカも溜まっていた仕事を片付ける為に居なくなってしまう。
 これは別に薄情なわけではなく此処に居ても仕方がないと各々が判断し、次善の行動を考えた時に「自分を優先する」という思考方法でこうなっただけである。
 基本的にザダーク王国の政務・軍務はこれで上手く回るようになっているが、綺麗な言葉で言えば「各自が己の裁量の元に最善を尽くす」というものである。
 人類社会では腐敗の温床となりそうなやり方ではあるが、魔族社会の場合はこれが一番いい。
 ちなみにニノも自分を優先した結果としてヴェルムドールに張り付いたままなので、同じような思考方法でも行動に差異が出る実例と言えよう。

「……む」
「どうした?」
「何かある」

 ヴェルムドールに顔を押し付けていたニノが違和感に気づき、顔をあげる。
 ニノのいう「何か」がなんであるかを理解したヴェルムドールはそういえば、と思い出して懐から珠を取り出す。
 白く濁った珠は相変わらずであり、それを見てイクスラースがあら、と呟く。

「ああ、それまだ持ってたのね」
「……いたのか」
「なによ。いたら悪いのかしら」
「悪いよ」

 ニノがすかさずそう返し、ヴェルムドールが苦笑しつつ返す。

「別にそんなことはないが」
「悪いよ」

 場を無言が支配し、イクスラースがニノの横に回り込む。
 正面でないのは正面に居たのはヴェルムドールだからだが……ともかく、イクスラースはニノを半眼で睨みつける。

「なにかしら。ひょっとして私は、喧嘩売られてるのかしら」
「売ってもいいけど、ニノには勝てないよ?」
「あら、それはどうかしら。魔法戦に持ち込んだ時、貴女に対抗手段があるのかしらね?」
「勿論あるし、ニノ相手に離れられると思ってる?」

 睨み合うニノとイクスラースの頭を、溜息をつきながら立ち上がったロクナが本で順繰りに叩く。

「いい加減にしなさいな。これ以上騒いだら追い出すわよ?」
「まあ、ロクナの言うとおりだな。仲良くしろ」

 ニノとイクスラースは不満そうにしつつも、仕方なさそうに臨戦態勢を解く。
 その様子を疲れた顔でヴェルムドールは見て、手の中の珠を転がす。

「で、ヴェルっち。その珠がどうかしたのかしら?」
「いや、大したことではないんだが……これに水の魔力を注いでみろと助言を受けてな」
「ふーん? で、どうなったん?」
「試していない。ここでやるな、と言われてな」

 ヴェルムドールの言葉にロクナは首を傾げるが、首を傾げたいのはヴェルムドールも同じだ。
 ともかく、やってみなければ何も分からない。

「まあ、とにかく試してみるとしようか」
「ちょっと、爆発するんじゃないでしょうね」
「ないと思うが……どれ」

 ヴェルムドールは手の中の珠に水の魔力を少しずつ込めていく。
 すると、白く濁っていた珠の中に青い輝きが発生し始め……濁りが段々と薄くなっていくのが分かる。

「ほう、これは新しい反応だな」

 込める水の魔力を強くすると輝きも強くなり、キンッという甲高い音と共に珠が一回りも二回りも大きくなる。
 完全に濁りの消えた珠の中には青い輝きだけが残り……それも数瞬の後に四方八方へと輝きを一気に放出する。

「うおっ……」
「ひゃっ!?」
「げっ!?」
「む……」

 目の眩むような輝きに各々の叫び声が上がり、しかし光の放出は一瞬で収まる。
 ダグラスがここでやるな、と言っていたのは「これ」が迷惑だったからか……と思うも、すでに後の祭りだ。
 チカチカする視界の中、珠はヴェルムドールの手の中から飛び上がって視線の高さまで浮遊する。

「あれ……此処は……? え? あれ? あれーっ!?」

 回復する視界に映ったモノは……見たままを表現するならば「水晶球のような透明の珠の中に入った、小さな人間」であった。
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