勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闘国エストラト

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 すでに日が傾き始めた頃、一行はキルコネンの端にある大きな宿へと到着していた。
 錬鉄の槍亭という看板のかかった宿の端にはアースワームが停まっているが……どうやら庭でも馬舎でもなく空き地であるらしい。
 まあ、アースワームの巨体を置いておけるような場所を常備している宿などあるはずがないから、妥協点といったところだろうか。
 一行がアースワームを降りると、 アースワームの到着に驚いて出てきた宿の従業員と先行して降りていたルーティが宿の前で会話しているのが見える。

「街の端にあるにしては、随分とデカい宿じゃのう」
「街の端だからじゃないですか?」

 アルムとルモンの会話の意味が分からなかったファイネルがヴェルムドール……ここではシオンだが……を振り返ると、シオンは錬鉄の槍亭を指差してみせる。

「……ここは街の端だが、それは同時に一番新しい区画だということでもある」
「そうですね。それが何か?」
「この街の最初の姿がどんなものかは知らないが、最初は小さかったはずだ。つまり、宿の規模もそれを考慮した「それなり」のものが多くなる」

 実情に合わない大きな宿をたてても、そんなものはただの無駄なコストでしかない。
 故に、街の出来上がりの頃は宿もそれなりの小さな宿しかなかったはずだ。

「しかし、此処は闘う国であり、闘技場もあるのでしょう? 充分に客が見込めるのでは」
「その通りだ。だが、此処は大国じゃない。あくまで中小国の一つに過ぎんのだ」

 当然だが、成り上がりに必須なのは「中央に出る」ことである。
 それは万事において変わらず、闘技場においても首都の闘技場が一番権威がある。
 建国当初ともなればその傾向は更に顕著であっただろう。
 ついでにいえば、五つの闘技場全てが最初からあったわけでもないはずだ。
 シオンの指はすいと闘技場へと向けられる。

「あの闘技場と街のどちらが先に出来たかは知らないが、こうしてそれなりの規模の街に仕上がるにはそれ相応の時間がかかっただろう。客が見込めるようになったのも、それからのはずだ」

 街が栄えれば、当然宿も客が入るようになる。
 それに合わせて街の規模も大きくなるが、そうなると宿の規模を広げるのも難しくなる。
 当然、後から建った宿の方が綺麗で大きいものを作れるのは自明の理だ。
 しかしながらそれは街の端であり、小さいながらも中央に近い宿は「一番闘技場に近い、歴史ある高級宿」に切り替える方向に進む事になる。
 利便性でもこちらが上の為、闘技場目当ての客が利用するのは普通はこちらになる……というわけだ。

「となると、そういった面で勝てない街の端の宿は施設自体で勝負するしかない。まあ、そういうことだな」
「はあ……なるほど」

 分かったような顔をしているファイネルが実際に理解しているのかはさておき、ルーティとニコニコ笑顔の宿の従業員がやってくる。

「皆様、本日は錬鉄の槍亭のご利用ありがとうございます。アースワームの方は当店自慢の警備がしっかり守りますのでご安心ください」
「警備?」
「用心棒だな。高級志向の宿には居る事が多い」
「流石は高名なシオン様! その博識に恐れ入ります!」

 揉み手を始めた従業員の様子を見てピンときたシオンがルーティに視線を向けると、ルーティはさっと目を逸らす。
 どうやら交渉の最中で「冒険者シオン」の名前を出したのだろうが、効果は覿面だったようだ。

「かの英雄ルーティ様にシオン様……これ程の方々にご逗留頂けるとは光栄の極み! 最高の部屋をご用意いたしますよ!」
「……ええ、どうも」

 そうとだけ答えると、従業員は何が嬉しいのか笑みを深めて踵をかえす。

「さて、そうと決まればすぐに準備をせねば! ああ、すぐにお荷物をお運びする者を向かわせますので!」

 バタバタと駆けて行く従業員の姿を見送り、シオンはルーティをジロリと睨む。

「……英雄ルーティの名前だけで充分だったのでは?」
「この国の傾向として、魔法使いや弓使いよりも剣士や騎士が歓迎されるんですよ」
「俺は魔法使いなんだが……」

 シオンの抗議に、ルーティはヴェルムドールの持つ剣をすっと指差す。
 確かな存在感を放つ魔剣ベイルブレイドは……なるほど、「魔法使い」の装備ではない。
 冒険者シオンのことは知られていても、こんな中小国では精々「凄い冒険者」程度だ。
 魔法を使うということが知られていても、「魔法剣士だな」と思われても仕方が無い。

「で、まあ。あれは誰ですかと煩かったもので。ただの護衛だって言ってもせめてお名前を、って。貴方、そういうのに絡まれるの嫌いでしょう?」
「……まあ、確かに」
「大丈夫。ニノがどうにかバラバラにするよ」
「それはダメだ」

 シオンに真顔で止められてニノは不満そうな顔をして、アルムとルモンは我関せずとばかりに最低限の荷物をアースワームから下ろしている。
 最低限……というのは、わざわざアースワームに登って盗みを働こうという命知らずは居ないとルーティから聞かされているが故だ。
 用心棒がアースワームを守るというのも、「アースワームに不審者が近づいて挽肉にならないようにする」という意味だ。

「闘技場か……」
「言っておくが、行くなよ」

 闘技場の方向をじっと見ているファイネルに、シオンは釘を刺す。
 たった一晩。
 その間、何も起こらないことを祈るのみである。
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