390 / 681
連載
真実の欠片7
しおりを挟む殺した。
殺した。
殺した。
殺した相手の顔など、すでに忘れた。
……いや、元から覚えていたのかどうかも怪しい。
その程度のものだったし、そこに何かを感じる事などなかった。
とにかく「頭のいい」杖魔の言う事を聞いていれば大抵は上手くいったし、自分が最強の剣であるということを示すのは気持ちが良かった。
だから、とにかく殺して回ったのだ。
「……こういう奴は、俺の部下にはいらんな」
読み取った記憶を見て、ヴェルムドールは溜息をつく。
剣魔の魂から読み取れる記憶は、とにかくノイズが多い。
恐らくは本人の記憶が不鮮明なせいだろうが、ぼやけてしまっている。
それでいて、欠損も多い。
多いのだが……そこに代わりの「何か」が挟まっているかのような安定感がある。
だが、そこに触れても何も読み取れはしない。
まるで、欠損を埋めるためだけにそこに存在しているかのような違和感がある。
そして更に、所々にクロードの記憶と思わしき部分も存在している。
例えるならば、モザイク模様のような……そんな魂の構成だ。
イチカの魂もイクスラースの魂も、マーロゥの魂も……それぞれに歪みはあったが、ここまで奇妙な魂の構成はしていなかった。
ならば、この魂の歪さはなんなのか。
恐らくは、魂からではそれは読み取れないだろうと判断したヴェルムドールは剣魔の命の種への接続を更に深くしようとし……ふと、気付く。
「……待てよ。おかしいぞ?」
命の種。
それは魂を構成する最も重要な要素にして、全ての生命の基本ともいえるものだ。
そこには魂では欠損した情報も記録されており、もっと言えばその生命の最初から最後までを記録し続ける機能がある。
たとえば「忘れていたことをふと思い出す」といった現象は命の種から魂に記録した情報が伝えられ修復のようなものが行われているからではないかとヴェルムドールは考えている。
……つまり、普通に考えて「命の種」と「魂」の情報量は同じではない。
命の種には本人すら覚えていない圧倒的な情報が収められていてしかるべきなのだ。
だが、少なくとも表層に触れた限りでは命の種にある記憶もぼやけたものが多い。
そして、それは有り得ないのだ。
たとえ本人が何も意識していなかったとしても、命の種はそれを覚えている。
だから、命の種の保有する「記憶」がぼやけているなどということは、絶対に有り得ない。
その有り得ないことが、有り得てしまっているのだ。
「何故だ。何故こんな奇妙な状態になっている……?」
たとえば。そう、たとえばの話だ。
魂が先に出来ていて、それを命の種に転写したならばこういう状態になるのではないだろうか?
だが、その「たとえば」をヴェルムドールはありえないと否定する。
命の種と魂の関係は、そんなに簡単なものではない。
最初に命の種があり、それを中心に魂が形作られる。
それは絶対の原則であり、例外など存在しない。
だが、これは何なのか。
それを知るため、ヴェルムドールは剣魔の命の種により深く接続を開始する。
「……ん?」
唐突に、白い髪の女の姿が浮かび上がる。
それは一瞬にも満たない記憶の欠片であり……しかし、ヴェルムドールはそれを手繰り寄せる。
軽くウェーブのかかった、長く白い髪。
宝石を思わせる美しい黄金の目。
妖艶さすら感じさせる肉体。
その身体を覆うドレスは黒く、どこか扇情的ですらある。
何処かの誰かに似ているようなその姿。
しかし、その「記憶」からは他に何も読み取れない。
剣魔の記憶ではあるのだろうが……どうにもはっきりとしない。
恐らく、混ざりこんだだけのクロードの記憶ということはないだろう。
命の種にあるのは、剣魔の記憶だけのはずだ。
だが……ヴェルムドールは、どうにもスッキリしない感情を抱えてしまっている。
それを言葉に表すならば、「おかしい」の一言に尽きるだろう。
そしてもう一つ言うならば……これでは、命の種から剣魔の記憶に関して完全な修正をかけるということは不可能だろう。
あまりにも不完全に過ぎるのだ。
「……何かあるはずだ」
だが、何も無い。
不自然過ぎるほどに何も無い。
たとえ剣魔が頭空っぽの世界トップクラスの阿呆だったとしても、命の種はすべてを記憶しているというのに。
「……となると、考え方を変えねばならんか」
これだけ何もない命の種を探っても、有益なものは何一つ出てこないだろう。
ならば、クロードの記憶の混ざった魂のほうを探ったほうが何かがあるかもしれない。
そう考えたヴェルムドールは、クロードのものと思わしき記憶に触れ……驚愕する。
そのクロードの記憶にあったものは……先程の女と全く同じ女であったからだ。
女の背景には、何処であるかも分からぬ建物の壁。窓の外に映る、極彩色の空。
そして、その極彩色の空間にはヴェルムドールも覚えがある。
「……アルヴァの出てくる空間と同じ。ということは……そうか、この女がアルヴァ共の親玉というわけ……か?」
今まで姿すらも分からなかったアルヴァクイーン。
ようやく掴んだその断片に、ヴェルムドールは自分でも自覚しないうちに笑みを浮かべていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。