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英雄会談16
しおりを挟むレナティアと名乗った少女はよっ、と短い声をあげると軽やかな動作で部屋の中へと入ってくる。
「つーかさあ、聞いてよ。ネファスとかいう粘っこい男に絡まれてさー。やっといなくなったと思ったら重装備の騎士連中が下の方でうろちょろし始めるし。なんなの? あれ」
ネファス。
その名前を聞いて、ルーティは大体の状況を予測する。
恐らくはレナティアを名乗るこの少女が何か目立つ事をやって、その結果ネファスを引き寄せたのだろう。
重装備の騎士というのは間違いなくジオル森王国の誇る重装騎士団だろうが、あそこの団長のエルリオルは、何故かネファスを慕っているらしいので協力を要請するのは容易であっただろう。
勿論、実際に動くとなれば相応の理由が必要になるが……「風の神殿騎士であるネファスが必要と感じた」というのは大きな理由となる。
そして昔のネファスはともかく、今のネファスは誠実だ。
そして、「ジオル森王国の為」を考えて行動しているのもルーティは知っている。
エルリオルに対しても「好きな人がいる」と告げているのも知っているし、エルリオルが全く諦めていないのも知っているが、それはさておき。
そんなネファスがエルリオルに借りを作ってでも監視しておくべきと考えたなら……相応の、何かがあったのだろう。
「レナティア……でしたか。貴女が弓魔だというのであれば、何かをやって彼に目をつけられたのではありませんか?」
「僕は何もしてねえよ。あんまりナメた事言ってんじゃねえぞ」
「普通の事しか言っていませんよ」
ルーティの台詞に、レナティアはハッと笑う。
「何言ってんだ。頭の両端にでっかい団子つけやがって、髪型からして笑いとりにきてんじゃねえか。何それ、そこから魔法でも出るの?」
「……」
成程、確かにルーティは頭の両側で団子のように髪をまとめているが……そんな煽り方をされたのは、人生で初だろう。
ルーティが黙り込んだのを確認すると、レナティアは剣魔へと向き直る。
「話終わった? 僕もう、この街やだよ。帰らない?」
「全然終わってねえよ」
「じゃあ終わらせようよ。ったく、杖魔の野郎はわけわかんない事言って絡んでくるしさあ」
「杖魔!? 奴までこの街に!?」
ルーティの声にレナティアは煩そうに耳を塞ごうとするが、剣魔はその手をとってレナティアを見下ろす。
「杖魔の野郎か。何言ってたんだ?」
「え? んー。なんか魔力が判別しにくいとかなんとか。なんかやったの?」
「……いや。俺は何もやってねえ。だがまあ……これのせいかもしれねえな」
そう呟くと、剣魔は懐から微かに湾曲した黒い鉄板の欠片のようなものを取り出す。
「何それ」
「んー……まあ、おう。クロードって奴の欠片だ。なんか旨そうに見えて持ってきたんだが……」
しかし、控え目に見ても鉄板だ。
とても食べられるようなものではない。
全員の微妙な視線を受けていたたまれなくなったのか、剣魔は咳払いをしてみせる。
「あー……なんてな、冗談だよ」
そう言って欠片を仕舞うと、剣魔は身を翻す。
「話、終わってないんじゃなかったの?」
「終わってねえけどよ。正直、得るものがこれ以上あるとも思えねえ」
「得るもの、ねえ。そもそも自分が何者かなんて、悩んで答えが出る問題でもないような気もするけどな」
弓魔はそう言うと、部屋の中にいる面々に視線を向ける。
「そもそもさ。そんなに気になるならこいつ等じゃなくて現魔王にステータス確認魔法で見てもらえばいいじゃん? あれって結構細かいところまで見れるんだろ?」
「……」
剣魔はその言葉を否定する理由をもたない。
それが早いというのは分かっている。
分かっているが、何かがそれを拒否しているのだ。
懐の中にある黒い欠片。
それをもう一度取り出すと、剣魔はじっと見つめる。
「こいつは、たぶん何かを知ってたんだ。俺達の蘇りの秘密も……たぶん、な」
「ふーん」
興味無さそうなレナティアは、剣魔の手の中の黒い欠片をじっと見つめる。
「だったらさ。そいつ蘇らせたらなんとかなるんじゃないの?」
「無理だろ」
「ふーん」
やはり興味無さそうに呟くレナティアは、自分をじっと見つめるルーティ達の視線に気付き舌打ちをする。
「何さ」
「アルヴァクイーンとやらは、蘇りに関する手段を持っているようですが……」
「詳しくは知らないよ。でも僕等がいるんだからそうなんだろうね」
レナティアの答えに、イチカは考えるように口元に手を持っていく。
蘇り。
そんな権能は、唯一の魔王たるヴェルムドールですら持っていない。
命の神たるフィリアならば……と思うが、どうだろうか。
そんな事をイチカが考えている間にも、剣魔は手の中に在る黒い欠片をじっと見つめる。
先ほどは誤魔化したが、本当に「旨そう」に見えたのだ。
どう見てもただの鉄板の欠片でしかない、この黒い欠片。
レナティアは感じないようだが、剣魔には何か魅力的なものであるかのように見えるのだ。
それを表す言葉は間違いなく「旨そう」であり、今この瞬間もそう見えている。
しかし、いくらなんでも金属を食えるはずが無い。
無い、のだが。
剣魔は何故か、それを「食べる」方法を知っているような気がして。
「おい、お前……それ」
ファイネルの言葉に、イチカも思考の海から抜け出しそれに気付く。
剣魔の手の中にあった、黒い欠片。
それが、剣魔の中に、黒い霧のようなものとなって吸収されていく……その瞬間を、見たからだ。
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