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真実の欠片
しおりを挟む黒い霧のようなものとなった黒い欠片はほぼ一瞬のうちに剣魔の中に吸い込まれ、剣魔の手の中には何も残ってはいない。
その異様な瞬間はこの場の全員が見ていた。
見ていたが……何が起こったのか、誰一人として理解できてはいない。
何故なら、そんな「現象」は知らないからだ。
少なくともこの中では最も様々なものを見ているはずのイチカやルーティでさえ、「その現象」と同じものは見た事が無い。
故に、思う。
一体、今のは何なのか。
その問いを一番早く口に出したのは仲間ゆえの気安さか、あるいは心配か……レナティアである。
「ル、ルーテリス。今の……何?」
「……」
「ルーテリス?」
剣魔は答えない。
先ほどまで黒い欠片のあった手の中をじっと見つめ……それでいて、その視線は遠い何処かを見ているようでもある。
身じろぎすらしないその様子にレナティアはじれたように、あるいはイラついたように乱暴に剣魔の腕を掴む。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「……触るなっ!」
腕を捕まれた剣魔はレナティアを見ると、きょとんとした顔をして……次の瞬間、驚くほどの無表情でレナティアを振り払う。
「あうっ」
振り払われたレナティアは、まるで予想していなかった剣魔の行動に不意を突かれ、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
しかし、立とうとすらせずに信じられないものを見る目で剣魔を見上げる。
そのレナティアを見下ろすと、剣魔は白く長い前髪で隠れた奥からギラついた輝きを覗かせる。
「え……ルーテリス……?」
「ルーテリス……」
レナティアの言葉を繰り返すかのように剣魔はルーテリス、と呟く。
二度、三度と何かを思い出すかのように呟いて。
「……ああ、おう。すまん。なんかこう……ちょっと混乱してな」
疲れたような口調でそう言うと、剣魔はレナティアへと手を差し伸べる。
その手をぺしりと音を立てて払うと、レナティアは自分で立ち上がる。
「似合わねーっての。混乱って何さ。いや、そもそも。さっきのは何?」
「さっきの……?」
「うん。クロードの欠片とかってのに何かやったじゃない。あれ何?」
「んー……?」
レナティアの質問に剣魔は思い出そうとするかのように頭を振り……突然、ハッと気付いたかのようにルーティの背後のファイネルを指差す。
「あ、そうだ思い出した! おいテメエ! あれで勝ったと思うなよ!」
「呼ばれてるぞ、ルーティ」
「そっちじゃねえ、お前だお前!」
急に元気を取り戻した剣魔に再度指差され、ファイネルは仕方無さそうに溜息をつく。
「なんなんだ、いきなり。お前に恨まれるような覚えは無いぞ?」
「あるだろぉが! 部下の仇だなんだとか言って魔法を散々浴びせやがって! 言っとくけどな、俺が本気を出してりゃあ巨大化した時点でお前なんて……!」
「は?」
まくしたてる剣魔に、ファイネルは疑問符を浮かべる。
剣魔とそういう事をした記憶など、ファイネルには無い。
「ファイネル、貴女剣魔と因縁があったんですか?」
「ルーテリス、君巨大化なんて出来たの?」
ルーティはファイネルに、レナティアは剣魔に問いかけて。
問われた二人は、同時に首を傾げる。
「いや……こいつと因縁は無いな」
「……出来ねえな。あれ、でもおかしいぞ。なんかそういう記憶があるっつーか思い出したっつーか」
だが、とファイネルは答える。
そういえば、と剣魔は呟く。
「黒騎士クロードとかいう馬鹿とならば、そういう戦いをした記憶はあるな」
「なんか知らねぇ紫色のガキのことが記憶にあるな。誰だこいつ。なんで俺をクロードとかいう名前で呼んでやがる?」
そして、互いの言葉に反応して弾かれたようにファイネルとルーテリスは互いを見る。
「……イクスラースのことか?」
「俺は別に黒くねえぞ」
二人は同時にルーティへと視線を向け……ルーティは困ったように眉をひそめる。
「私にはそのクロードとかいう人物のことはよく分からないのですが」
ルーティはそう答えると、イチカへと視線を向け……イチカは、じっと剣魔を見つめる。
「先ほどの吸収現象……のようなものが関連しているのでしょう。詳しい原理は私には分かりませんが、剣魔の中に黒騎士クロードの記憶が混ざりこんだと考えるのが一番説明がつくかと」
「けれど、そんなものは聞いた事が……」
「私とてありません。本来であればヴェルムドール様にご足労願うのが一番早いのですが」
記憶とは、魂とも密接な関係にある部分だ。
命の種に接続し魂に触れられるヴェルムドールであれば、それを紐解く事も可能であるだろう。
問題は、剣魔がそれに素直に従うかだ。
「ケッ、冗談じゃねえ。誰がそんな」
「いいよ」
悪態をつき始める剣魔の服の裾を、レナティアが引っ張る。
「抵抗するなら僕が殴って大人しくさせるからさ。現魔王を連れてきなよ」
「おいレナティア」
「ルーテリス」
何かを言いかけた剣魔を、レナティアの静かな声が黙らせる。
「僕達の理解を超えてるよ、これは。分かってるだろ? 何かがおかしいとか、そんなレベルじゃない」
反論する言葉が見つからずに黙り込む剣魔をそのままに、レナティアはイチカへと向き直る。
「僕からもお願いするよ。見てやってほしい」
「承りました」
イチカは一礼してそう答えると、ファイネルへと視線を向ける。
「ではファイネル、ヴェルムドール様に連絡をお願いします」
「え、私か?」
戸惑うファイネルに、イチカは「そうですよ」といつもの無表情で答えるのだった。
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