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連載
真実の欠片
しおりを挟むザダーク王国、魔王城。
その中にあるヴェルムドールの執務室で、ラクターは魔王ヴェルムドールと対面していた。
相変わらずザダーク王国の最高権力者にして望めば絶対者としての権限も惜しみなく振るえるはずのヴェルムドールは、今日も今日とて書類の山に埋もれている。
こうなると、いよいよ仕事に恋しているとかいう評価も正しいのではないかなどと思えてくるが、それはさておき。
ヴェルムドールはラクターがキャナル王国で体験した一連の話を聞き終わると、ふむと頷いて椅子から立ち上がる。
そのままラクターの座っている応接用の椅子の向かい側に座ると、レモンがバッチリのタイミングで薬草茶を運んでくる。
机の上に山盛りに置かれているお土産のクッキーが茶菓子であるが、その山からヴェルムドールが何枚かを適当に摘んで渡すと、レモンは嬉しそうな顔で一礼して去っていく。
「……さて。お前が持ち帰ってきた話だが、中々に興味深いな」
「ああ、何処まで信用していいか分からんけどな」
ラクターはクッキーを一枚摘んで口に放り込むと、足りなかったのか今度は数枚を掴んで一気に頬張り始める。
対するヴェルムドールは薬草茶を軽く口に含むと、コツンと音を立てて机に置く。
「それなんだがな。基本的に嘘はついていないと考えていいだろう」
「基本的? 何か明確な懸念事項があるってことだな?」
「そうだ」
話が早くていいな、と呟きながらヴェルムドールは椅子に深く座りなおす。
「簡単に言えば、お前とルビアの認識にはズレがある。そこがお前の不審を煽り、意味の理解を複雑にさせている」
そう、二人の認識には最初からズレがある。
たとえ同じ話題を話しているように見えても前提条件が違えば、同じ話題をしていながら違う内容を話しているのと同じだ。
そして互いに「自分の認識」を基準としているが故に、それに気付くことはない。
「……どういう意味だ?」
「決定的なのは「黒幕」についてだな。お前とルビアは同じ話をしているように見えて、実は全く違う話をしていたということだな」
簡単に言えば、ルビアが話していたのは「ラクターとベルディア」に関する話である。
つまりルビアからしてみれば「黒幕」とは「ベルディアを蘇らせた相手」が黒幕であり、それを基準とした話をしている。
対するラクターは、魔王ヴェルムドールを中心とした「全ての事件」の裏に居る者こそを「黒幕」として認識している。
しかし「蘇る」という命の流れに関連した話題であったが為に「ラクターが命の神をベルディアを蘇らせた相手として認識するのも当然だろう」という思考がルビアの中に生まれたのも当然であるだろうし、それ故にルビアは違和感を認識しなかった。
ラクターとしても「当然神の関係者であればそういう認識であるだろう」という前提がある上に致命的な話のズレが出ないが故に気付かない。
互いに同じでありながら「範囲」の違う話をしていたということなのだ。
「更に言えば、ルビアの話には推測が多い」
「問題でもあるのか?」
ラクターにしてみれば推測とは状況から導き出される「最も確率の高い可能性」であるが、それは戦闘でより相手の優位に立つために先読み能力を磨いてきた魔族的思考である。
「大いにある。大体の場合「推測」とは、「発信者の願望を含んだ想像」だ。嘘ではないのかもしれんが、それを元に何かをするのは大いに問題がある」
こうであろう。
恐らくは。
と思われる。
ではないだろうか。
色々と表現はあるが、こうした言葉に共通するのは「発信者による予想」であるということだ。
勿論発信者としては色々と理屈をつけたいところはあるだろうが、結局本人ではない以上「予想」でしかない。
それは先程の魔族的思考の場合であっても共通で、それであるが故に「裏をかく」というような言葉が成り立つのだ。
ある程度の行動予測の為に「推測」をするのは仕方のない面がある。
しかし「推測」の為に「推測」を元にすれば、その正確さは極端に下がるのは疑いようも無い。
故に、「事実」以外のものは極力省くべきである。
そしてそうした場合に、ルビアから得られる情報はこのようになる。
「すなわち、ライドルグはしばらくエルアークから離れられない。そしてベルディアを蘇らせたのは命の神ではない……ということだ」
「神関連の話はいいのか?」
「魔神の降臨未遂に関しては、俺とロクナの仕業だからな。他の話については……検証すらも出来ん話だ。それこそ推測を交えた話になるだろう」
「……聞いてねえぞ、その話」
抗議の視線を送るラクターにヴェルムドールはすまんな、と言って肩をすくめる。
「いわば俺の秘密にも関わる話でな。まあ、そのうち話せる時が来たら話そう」
「そうかい」
アッサリ頷くラクターにもう一度「すまんな」とヴェルムドールは言うと、机をコツンと叩く。
「さて、話を進めるぞ。問題があるのは、この「復活」についてだ。ルビアはベルディアを「少なくとも魂に限れば別人である」という話をしたんだったな」
「ああ」
この「魂に限れば」という部分は、実はクセモノである。
そもそも魂とは命の種を中心に構成されるものであり、個人を構成する要素だ。
記憶や人格という部位もこの「魂」の構成要素なのだが、ヴェルムドールは「命の種」に接続することでその情報を幾らか書き換えることも出来る。
出来るが……たとえばそれによって「姿は同じだが性格も記憶も前の状態とは全く異なる者」が完成したとして、それを本人と呼ぶか別人と呼ぶか……となったらどうだろう。
たとえばこの場合、「魂が別人になったが本人である」というような言い方も出来るのではないだろうか。
生物が死ぬことによって「リセットされた命の種」に戻り命の流れに還る以上、「命の種の同一」を本人の証明とするのもまた疑問の余地のある話だろう。
イチカやイクスラースのような「リセットされていない命の種」や「リセットされたはずの記憶を戻した命の種」を持つ者は特殊例だが、この二人とて「魂」という観点でいえば間違いなく「別人」と言える。
さて、では「ベルディア」はどうなのか。
ラクターの話を聞く限り、「記憶」は欠けているが「人格」はラクターの知るベルディアそのものであるようだ。
しかし記憶が無ければ「魂が別人」であると言われて首を縦に振る者などいないだろう。
そして更に言えば、ベルディアは「復活」している。
人格が同じであるということはイクスラースのような「命の種からリセットした情報を復活させた」例も考えられるのだが、どうもしっくりこない。
そんなことが出来るのは「命の神」か「魔王」くらいのものだろうが、職業魔王であるイクスラースにはそのような能力は無い。
シュクロウスは出来たというのが人類領域での伝説だが、イクスラース本人は「復活している記憶の中には無い」というし、ヴェルムドールも怪しいものだと考えている。
現状ある選択肢の中から考えて、そういったことが出来そうな候補は少ない。
当然ヴェルムドールではないし、もし「命の神」が「ベルディアを蘇らせた者」ではないのだとしたら、残る選択肢は「アルヴァを統べる者」くらいだろう。
ニノの報告からでも、アルヴァには「自分を犠牲にして多数のアルヴァを造り出す」者が存在する。
その能力の理屈までは想像不可能だが、何らかの手段で「魂」に接触する手段を持っていたと考えることも出来る。
そうして考えた場合、その統率者は「それを超える能力」を持っているのは確定的だ。
……だが、と思う。
その「統率者」が命の神の手によるものなのは確実と言っていいだろう。
しかし、「復活」などという下手をすれば自分に疑惑を人類から向けられない手段を命の神が与えるだろうか?
「それについては俺は命の神じゃねえから分からんけどよ。そもそも、その復活っつー能力はポンポン他の奴に与えられるもんなのか?」
「……無理だな」
そう、それだけは出来ない。
この理由は単純なもので、言うなれば「翼を持たない者」に「翼を羽ばたかせる」能力は付与できないということである。
恐らくは「命の種に干渉する能力」は何か根本的な部分に根ざした能力なのだ。 そして更に言えば、「復活」という定義にも疑問視すべき部分はある。
ルルガル、ギリザリス、ベルディア……剣魔や杖魔もそうだろう。
どれも「復活した」魔族だが、ルルガルは本人をそのままに「復活」が行われ、ギリザリスは「まともな魔族」と言えるかも怪しい状態であった。
それはヴェルムドールの中に、巨大な違和感として存在している。
「何か見落としがある。あるいは、何かが違うんだ。それが「復活」の謎を解く鍵であるのだと……思う」
「それも発信者の願望を含んだ想像ってやつか?」
冗談交じりのラクターの台詞に、ヴェルムドールは「その通りだ」と言って苦笑してみせた。
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