勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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プラスアルファ7.8

ギリザリス地下神殿4

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 勇者。
 人類領域においては魔王を滅ぼし世界に平和を齎す「魔王キラー」的な位置づけとされている。
 他にも「神に認められた聖なる者」だの「絶望を祓う希望」だの色々と言われているが……ここで注目すべきなのは「絶望を祓う希望」と呼ばれている点についてである。
 何故、勇者が絶望を祓い希望をもたらすのか。
 伝説によれば勇者は見る人々の心に光を取り戻し、敵に絶望を与えるという。
 この二つの事を考察するに、相手が味方であるか敵であるかで異なる効果を与えるのが「勇者」ということであると解釈できる。
 もっと言えば「勇者」とは「味方に勇気を与える者」であり、「敵の勇気を挫く者」であるとも言えるだろう。
 時折敵にも味方にも広く知られた名将などが同様の効果をもたらすとも言われているが……勇者のソレは、あるいは「勇者」としての力の一部であるとも解釈することが出来る。
 
「なるほどな」

 イクスラースの説明に、サンクリードは他の四方将と初めて会った時の反応を思い出す。
 あの時、四方将のラクターは自分に向けて襲い掛かろうとしてきていた。
 後々聞いてみたところによると「味方だということは感覚で分かっていたが、それ以前に勇者だということを理解した瞬間に恨みが募ってぶち殺したくなった」と言っている。
 ちなみにファイネルは「少し違うが懐かしいものを感じた」と言っていた。
 実際に勇者と深く関わったこの二人の反応の差は、その「勇者」に対する敵対心の差とも言える。
 つまりは「勇者」に対して恨み骨髄だったラクターには「味方としての効果」と「敵としての効果」が同時にあり、その結果ラクターの判断力が削れサンクリードに襲いかかろうとするような結果になった……と考えることもできるのだ。

「何か納得してるみたいだけど、本題はそこじゃないわよ」
「ああ、そういえば相性の問題だったな」
「そうよ。そもそも勇者とは何か……という話の続きになるんだけれども」

 勇者は「魔王を倒すために召喚」される。
 これが人類領域での一般的な認識だ。
 このあたりは勇者リューヤの伝説が強く影響しているが、これをもう少し広く解釈すれば「何らかの危機に対抗する為」に勇者が生み出されるのだともいえる。
 これはサンクリードという「魔族の勇者」が存在できている点を考えれば当然の帰結だが、ここでもう一つの疑問点が発生する。
 それは「勇者は如何にして危機に対抗するのか」という点である。
 たとえば勇者リューヤは次元の狭間のシュクロウス、そして暗黒大陸のグラムフィアを打ち破っている。
 しかし、これは驚くべき成果でもある。
 次元の狭間も暗黒大陸も、当時は存在すら人類には知られていなかったのだ。
 そこに仲間と装備を整え、打ち破るのに充分な力をもって攻め込み打ち倒す事が出来たのは、まさに伝説として語られるに相応しい偉業だろう。
 
 ……だが、同時に異常とも言えるだろう。
 最高の仲間。
 最高の武器。
 最強の力。
 数々の情報。
 どれも、揃えようと思って揃えられるものではない。
 このうちの一つですら、一生かかっても揃えられないことだってある。
 だが、勇者リューヤは揃えた。
 何故か。
 世界が協力したから?
 それもあるだろう。
 だが、それだけでは説明がつかない。

「なら、なんだというんだ?」

 サンクリードの当然の質問に、イクスラースは指を一本たててみせる。

「恐らくだけど……勇者には、引き寄せる力がある。チャンスとか、運命とか……そういう目には見えないものを引き寄せて掴む力を与えられてるんだと思うわ。だから、普通の者には出来ないことが出来る。そう考えれば、色々と納得がいくのよ」

 たとえば偶然親切な人に出会う。
 たとえば偶然何かの得に繋がるトラブルに居合わせる。
 たとえば誰かの危機に偶然居合わせる。
 たとえば何かの陰謀の情報が何かの縁で繋がった情報網から入ってくる。
 あるいは、偶然その情報と鍵が飛び込んでくる。
 ……たとえば、越えるべき試練がその前に立ち塞がる。

 その全てを勇者リューヤは体験し、クリアしていった。
 だが……このうち一つに出会うだけでもどれ程の確率かは言うまでもない。
 もはや偶然などでは済まされない事象の連続。
 だからこそ「勇者」と呼ばれるのだと言う者もいるが、そうではないとイクスラースは思う。
 それを出来る力を「勇者」は持っている。
 それこそが「勇者」の能力なのだとイクスラースは考えているのだ。

「分かるかしら? 私の言いたいこと」

 サンクリードは黙って、腰の剣を見つめる。
 硬剣ライザノーク。
 今の話がもし事実であるとすれば……この剣との出会いも、その「勇者の能力」のせいであるということも出来る。
 しかし、それは違う。
 この剣はあくまで、マルグレッテという一人の鍛冶師の努力によって生まれたものだ。

「……言いたいことは分かる。だが、認めがたいものはあるな」
「そうね。だから言ったでしょ、私の予想だって。というか、私がこの場で言いたい結論は最初っから一つだけよ」
「ほう、それは?」

 サンクリードの興味深そうな顔を見て、イクスラースはその胸にたてていた指をトンと突きつける。

「私を面倒事に巻き込むんじゃないわよバカ勇者……って言ってるのよ。私は面倒事とか大嫌いなのに、どうも貴方発の面倒事に巻き込まれる確率が高い気がするのよね」
「そうか。だが先程のお前の予想が真実であった場合、俺にはどうしようもないな?」
「ちょっと、躊躇無く開き直ってんじゃないわよ。あ、こら! 待ちなさい!」

 スタスタと先へと歩き始めるサンクリードをイクスラースは追いかけて、その背中をバシバシと叩く。

「面倒事は早めに片付けるのが一番だからな。サクサクいくとしよう」
「それについては同意するけど。サクサクいきすぎてステータス確認魔法使うの忘れるんじゃないわよ?」
「……勿論だ」

 一瞬だけ黙り込んだサンクリードの背中をもう一度バシンと叩いて、イクスラースは深い溜息をつく。

「本当にもう……しっかりしなさいよね」

 そう呟いて。
 その言葉が終わるか否かの瞬間に、二人は同時に反応する。 
 聞こえたのは、小さな唸り声。
 二人の進む先にある階段の下から聞こえてくるソレは、そこに敵が潜んでいる事を明確に伝えてくる。
 恐らくは、階段を降りてきた二人を急襲するつもりだったのだろうが……そうと知れた以上、何の脅威でもない。
 サンクリードが階段の下へ照明魔法を投げ込むと、強烈な閃光と同時に悲鳴のようなものが聞こえてくる。

「……ちょっと! それやるならやるって言いなさいよ! 私まで眩しいじゃないの!」
「だから俺の背にくるように庇ったろう?」
「ああ、もう! そういう問題じゃないのよ! いいからさっさと行きなさい!」
「何を怒っているんだ……」

 戸惑いながらもサンクリードは階段を駆け下り、閃光に目が眩んでのた打ち回っているゴブリンを見下ろす。
 このゴブリンは目が異常に大きく、しかも赤一色の不気味な色をしている。
 サンクリードはその異常なゴブリンをしっかりと視界に収め、ステータス確認魔法を起動する。
 あまり……というよりもほとんど遣ったことの無い魔法だが、相手の情報が頭の中に流れ込んでくる久々の感覚をサンクリードは味わう。

名前:レブゥ
種族:ゴブリン(異常体)
ランク:F
職業:戦士
装備:なし
技能:
暗視E
遠視E
透視G

「……」

 気になる点はあるにはあるが、一応ゴブリンだ。
 ステータスを確認した以上、特に生かしておく必要性も感じない。
 そう判断したサンクリードは、剣を振り上げる。

「……ちょっと、何ソレ」
「ゴブリンだな。ステータスも確認した」

 階段を降りてきたイクスラースに、サンクリードはそう答える。

「ゴブリン? それが?」
「ああ。異常体とやららしい」

 振り下ろしたサンクリードの剣がゴブリンを貫き、ゴブリンは黒い粒子のようなものになって消える。
 それを見ていたイクスラースは真剣な表情で……ぽつりと呟く。

「魔力体……? いいえ、違うわね。半魔力体ってところかしら。でも、アルヴァではない……あくまでゴブリンなのよね。なら、本当に突然変異……? いえ、理屈に合わないわ」

 考え込むように呟き続けるイクスラース。
 その声に惹かれてきたか、あちらこちらから唸り声が聞こえ始める。

「喜べ、イクスラース」

 サンクリードはそれを聞いて、不敵に笑う。

「どうやら、サンプルはたくさんいるようだぞ?」

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