勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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廃ダンジョンの活用法

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 ザダーク王国西方。
 かつて勇者が上陸した地域であると同時に、「ダンジョン」が暗黒大陸一多い地域でもある。
 ダンジョン。
 いわゆる地下迷宮であり、防御や迎撃の為の拠点として造られたのが始まりとされている。
 利点としては地上型の建物と比べると大魔法で蹴散らされにくく、尚且つ最深部へと攻め込まれにくい。
 そして、侵攻ルートを予想、あるいは固定しやすいということである。
 これによりダンジョン最盛期には、様々な罠が考案され実用化されていた。
 その中でも西方はダンジョンが特に多く、数えるのも嫌になるほどの数が存在するといわれている。
 そしてその全てが、ザダーク王国建国前に主が粛清された「自称魔王」達の持ち物であり……現在は廃ダンジョンとなっている。
 ダンジョン最盛期ですら持ち主が「穴倉魔人」と陰口を叩かれたくらいである。
 現在となっては、わざわざリフォームして住もうというような物好きな魔人は居ない。
 更に言えばダンジョンとは、すでに時代遅れのものなのである。
 
 何故か。
 それは幾つかの観点から説明することが出来る。
 まずは、居住性の悪さである。
 ダンジョンとは基本的に地下に穴を掘って作ったり、天然の洞窟を利用したり……と、基本的に地面の下に存在するものだ。
 つまり……物凄く湿気がこもるのだ。
 薄暗いのは照明魔法でなんとかなる。
 湿気もどうにかできないこともない。
 しかし、魔力の消費がそれだけかかる。
 地上に住めば必要ない問題が、地下に住むというだけで発生するのだ。

 次に、維持費の問題である。
 ダンジョンというものは、想像以上に経費がかかる。
 特に旧時代のものは無駄に長い廊下に見た目だけは派手な罠、何に使うつもりだったのか無駄に多い部屋数……極め付けが魔王気取りの玉座の間である。
 悪趣味この上ないし、それでいて維持に手間と金がかかるものが多い。
 昔であればゴブリンやビスティアを安価に雇って維持が出来たが、今はそうはいかない。
 適正な給料で彼等を雇おうと思えば、相応の資金が要る。

 他にも色々とあげられるが、一番大きいのはこの二つの問題だろう。
 平たく言えば、住むメリットが見出せないということである。
 わざわざ「アイツ、今時ダンジョン住まいなんだってさー、ダサーイ」とか「ちょっと近寄らないでよ、かび臭いのが移るじゃないの」などと言われたい魔族は居ない。
 むしろ二階建ての建物のテラスで流行の茶などを飲みながら今時の一味違う魔族を気取っていたいのだ。
 それでも勘違い野郎と言われる事もあるが、「ダサいカビ魔人」よりは救いがあるというものだ。

 そういった事情もあり、廃ダンジョンとなったダンジョン達は新たな主人を迎えることなく朽ちるに任せるままになるかと思われたのだが……。

「集合住宅……?」

 その日、自分の執務室に届いた企画書を前にサンクリードはそう呟いた。
 廃ダンジョン活用の為の集合住宅化。
 そう書かれた企画書を捲ってみると、どうやら発案者はゴブリンであるらしかった。
 まあ、ゴブリンが考え付くとは思わないので魔人かビスティア辺りが絡んでいるのだろうな……と思いつつも、サンクリードは企画書に目を通していく。

 内容としては単純だが、革新的ではあった。
 一人で維持するには少々難のあるダンジョンを、集落単位の者で集合住宅として利用することにより一人あたりの維持費を抑え、社会問題化している廃ダンジョンの対策ともなる。
 また宿泊所として既存のダンジョンを活用することも視野に入れ、まずはテストケースとして二、三例の実施に補助を願いたい。試験結果が良好の時にはその経験を活かし、テストケースの協力者を宿泊所の従業員として雇用することも視野に入れたい。
 これが成功した場合、既存の廃ダンジョンがオシャレな地下街へと変化することは明白であり、ネガティブイメージの付きまとう西部のイメージアップに云々。

「……」

 パサリと書類を机に置くと、サンクリードは目元を指で揉む。
 なんだか色々書いてあるが、要は「ダンジョンを地下街として再開発するから補助金をくれ。西部の為にもなりますぜ」と、こういうことである。

「こういう事を考え付くのはビスティアかノルムだな……。責任者は誰だ?」

 書類をひっくり返してみると、「協力・共同責任者ドットハルト」と書いてあるのが分かる。
 
「どうかされましたか?」

 部屋の隅に控えていた副官シェーラが聞くと、サンクリードは書類をペラペラと捲りながら答える。

「ん、ちょっとな……。この書類のドットハルトというのは、どんな奴だ?」
「ノルムですよ。ほら、前にサンクリード様の人形の計画を持ち込んできた……」

 それを聞いてサンクリードはああ、と思い出す。
 そういえば確かに、そんな計画を持ち込んできたノルムがいたはずだ。
 確か魔族の中でも特に人気の高いサンクリードの精巧な人形を作りたいという内容だったはずだ。
 色も細かく塗り、最高品質を目指すとかなんとか書いてあっただろうか。
 
「確かアレは却下したんだったな」
「ええ、残念でした」
「ん?」

 サンクリードが顔をあげると、シェーラはふいと顔を逸らす。

「そんなことより、なるほど。アイツか……」
「私としては着眼点は悪くないと思いますが。確かに廃ダンジョンの利用については懸念事項でしたし」
「……まあな」

 廃ダンジョンを活用したいというのは、別に問題はない。
 むしろ歓迎すべき事柄ではある。
 しかし……だ。
 ダンジョンが人気が無いのは、もう一つの重要な問題がある。

「管理の問題をどうするか、だな……」

 現在のザダーク王国の都市計画では、必ず巡回計画と共に開発計画の策定が行われることになっている。
 これは治安の維持と適切なサービスの維持を行う為であり、ヴェルムドールが人類領域で見たような「ごろつき」の発生を抑える為には重要なことである。
 廃ダンジョンを地下都市として活用するということは、そこに新たな巡回経路や駐屯所を作らなければならないということでもある。
 しかし、元々防御や迎撃拠点であったダンジョンは少々辺鄙な所にある場合が多く、活用するならば其処に至る為の道の整備なども重要となる。

「……補助金がどうのという話ではなくなってくる可能性が高い、な」

 実施するならば、西方軍としての大規模計画になるだろう。
 場合によっては新たな追加予算の申請の必要性もある。
 ヴェルムドールならば二つ返事だろうが、イチカやロクナ、アルテジオといった面々を説得するのは骨が折れそうだ。
 となると、先にヴェルムドールを説得してから一緒に残りの面々を説得するのが一番早いだろう。

「……ドットハルトは確か、建築職人だったか?」
「はい。西方でもそれなりの腕だったと記憶していますが」
「西方軍で雇うと打診しろ。この計画を主導する責任者になってもらう。この計画の許可は、それが前提だ」

 サンクリードの言葉に、シェーラは頷き敬礼する。

「了解いたしました。雇用条件に制限はありますか?」
「新しい計画の責任者としての雇用という時点で充分に特別扱いだ。他に優遇するべき点など無い」
「はい」

 短く答えると、シェーラは部屋を出ようとして……サンクリードが立ち上がったのを見て、足を止める。

「どちらへ?」
「王の元へ行く」
「え? し、しかし」

 まだドットハルトが首を縦に振ると決まったわけではない。
 戸惑うシェーラを、サンクリードは正面から見据える。

「……問題はない。俺の予想通りなら、二つ返事で了承するはずだ。それに、お前が交渉に失敗するとも思えん」
「え……」
「お前のことは信頼している。そうでなければ、副官になど選ばん」

 そう言うと、サンクリードは転移していき……その場には、シェーラだけが残される。

「……信頼、ですか」

 その言葉を反芻し、シェーラは胸元に手をあてて目を瞑る。
 信頼。
 サンクリードに直接そう言ってもらえることの、どんなに嬉しいことか。
 必ず結果を出して応えなければ。
 そう決意すると、シェーラは執務室から出て行くのだった。
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