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十九羽 シパパパパ!うさぎ神拳の使い手
しおりを挟む「そろそろ家に入ろうか、うさぎさ──ッ!?」
数十分経った頃。
ランタンも帰路につき、うさぎさんも満足気。
そろそろ帰ろうかと促しかけたカルナシオンは、息をのんだ。
『ッ!』
シパパパパ。
おもむろに、うたっちの状態で両前足を前に突き出したうさぎさん。
何をするのだろうと見守っていると、突然その手についた土を払うかのように高速で前足を合わせた。
人間が掌についた土をパンパンと払う姿と同様ではある。
だが、その速さたるや神速の域。
うさぎさんの世界でいう、『ボクシング』。ワン・ツーに合わせた、あの突き出した拳のような速さで幾度も前足を合わせ土を払う。
「まさか……、魔力はなくとも物理型なのか……?」
『?』
カルナシオンは、うさぎさんは何らかの拳法を修めたのではないかと危うく勘違いしそうになる。それほどまでの速さで繰り出された。
そうして払った手でうさぎさんが何をするかというと──
「っ!?」
『もーちもーち、でし』
お顔の毛づくろい、洗顔である。
そのふこふこで真っ白な毛が愛らしい手で、お顔周りをもちもちと整えるのだ。
「──」
カルナシオンの心臓は止まりかけた。
拳法をマスターしているのかと思うような、頼もしい動きからのそれに。
ギャップだ。やはり、愛らしさの一端とはギャップにあるに違いない。
カルナシオンは薄れゆく意識の中、そう思った。
「生きてますかー?」
ギルクライスは一向に家へと戻らない主の蘇生を試みるのであった。
◆
「はあ、……つらい」
「何も辛くはないですねぇ」
カルナシオンは、うさぎさんの愛らしさで胸を痛める度に『つらい』と思うようになった。確かに一号の言うように、何も辛くはないのである。辛くはないがつらいのである。
例え言葉にしたことはなくとも、誰にだって覚えのある感覚だろう。
ソファに座り、床で遊ぶうさぎさんを眺めるカルナシオン。
テリネヴはいつものようにうさぎさんのご飯係で調合中。
アルクァイトは家事係でせっせと家の中で作業中。
人のご飯はギルクライスが担当。
何も辛くはないのであるが、つらいのだ。
「たくさん動いたからな。うさぎさん、疲れただろう。水を持ってこよう──か!?」
カルナシオンはどこか恐ろしくなった。
うさぎさんのポテンシャルの高さに。
あれだけ外でカワイイを連発した後だというのに、この上まだ隠し持っていたのかと。
とんとんスイー。
先ほどトンネルを作る際、土を固めるためにしていたのだろう。
その名残で絨毯の上で前足を揃えてトントンと軽くたたき、それを伸ばすようにすいっと前へ押し出し、何度も繰り返す。
整地の作業だ。ドワーフに見込まれるのも無理はない。
『? ごしゅじん、どうしたでしか?』
「い、いや……ッ」
カルナシオンは、もしかすればとんでもない従魔を呼び出してしまったのかもしれないと密かに感じた。
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