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五十六 やり直しの効かない世界で
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「先日はお疲れ様でした。……お変わり、ありませんか?」
「ええ、私は特に。……ウルム様は?」
「ーー少し、気落ちしてますね。……今はそっとしてあげましょう」
今週に入ってメーアスはたまに見るが、ウルムはあまり見ていない。
シンシアやライエンの警護をしながら王城で授業を受けているのもあるが、私と会うのが気まずい。きっとそういう理由にちがいない。
「私は気にしてませんのに……」
「守ることが騎士の本分ですからね。……きっと、本人にしか分からない苦悩があると思いますよ」
これが自衛もできない民間人であったなら、たしかにそうかもしれない。
でも、私は怪我もしてないし、彼と同じこの国を守る象徴の系譜。
(遠慮しないで欲しかった……けど)
自分がこれまで交流を避けてきた弊害が、ここにも。
言いたいことを言い合って、この国を良くする。
だれが魅了を?
いつ、違和感に気付いた?
その後、経過はどう?
聞きたいことが沢山あったはず。
それほどまでの信頼関係というのは、恐らく私たちの間にない。
(もしあのままライエンとの婚姻が進んでいたら、誰にも心を開けていなかったのかもね)
それはひいては国のためにもならない。
やはりそこは、悪役令嬢。
そういった未来があったなら、『この人はこうだから』という先入観を捨て、一からはじめないといけなかっただろう。
でも、ここは現実で。
ゲームのように、リスタートなんて……出来ない。
(だったら、前を見るしかない)
「……立ち話であれですけど、ライエン様はどのようにお考えです?」
先日、なにか分かれば話すと。
メーアスはそう言った。
「そうですね……、少なくともシンシア嬢の仕業ではないようです」
「やっぱり……」
「やっぱり?」
「あ、いえ……その」
彼はライエン付きとはいえ、王族に直接仕える身だ。
……この持論は、一歩間違えれば自分の身が危ういのだが。
(……信じよう)
私を助けてくれた彼を。
この国を共に守っていくはずだった、彼を。
「ーーレイセル様が。……魔力が少ないというお話でしたが。私にはそうは、見えませんでした。むしろーー」
「やはり……」
「やはり?」
「……どうやら、私たちは重大ななにかを見過ごしてきたようですね」
ライエンたちもレイセルを疑い始めてる……?
でも、元々魔力が少ないというのは周知の事実。
レイセルも、彼らの前では上手いこと隠してきたんじゃないだろうか。
(ん? 待てよ)
彼らの前では隠してきたとして。
なぜ、私の前では隠す必要がないのか。
(……まさか、私の魔力を奪うのが目的だった……? そして、魔物のごたごたもあったし、王族の進言でその罪を魔族になすりつける。いくら次期魔皇帝とはいえ、あの場の魔族は二人だけ)
きっと、最悪のシナリオというのはこうだっただろう。
ウルムを魅了にかけたのが彼という仮説が正しければ、だが。
つまり、あの意志を持つような魔力は……闇の魔力。それも、魔族のような純粋なるもの。
だが実際、レイセルは私の魔力を奪う素振りは見せなかった。
状況としては、『こう』であると確定的なのに。
実際になにを考え、なにを思い行動しているのか読めない。
(……怖い、わ)
「この件については、ライエン殿下もそちらの方向で探りを入れています。……リュミネーヴァ嬢は、とにかく。ご自身の身の安全と、ユールティアス様のお傍にいてあげてください」
「ユール様の?」
「はい。……レイセル様の件については、ナレド公国が深く関わっているはず。であれば、彼らにとってエレデアとセラフィニの友好の証である……貴女が。いちばん危険です。そして、彼らがより大胆になるとすれば……」
「なるほど、次期魔皇帝そのものを狙う恐れもある……と」
「ええ。さすがにそこまで、馬鹿であるとは思いませんが」
「用心に越したことはない……ですわね」
「お願いします」
身の安全……か。
そういえば。
「ーーそういえば、魔道具の件はどうなってますの?」
「ええ、私は特に。……ウルム様は?」
「ーー少し、気落ちしてますね。……今はそっとしてあげましょう」
今週に入ってメーアスはたまに見るが、ウルムはあまり見ていない。
シンシアやライエンの警護をしながら王城で授業を受けているのもあるが、私と会うのが気まずい。きっとそういう理由にちがいない。
「私は気にしてませんのに……」
「守ることが騎士の本分ですからね。……きっと、本人にしか分からない苦悩があると思いますよ」
これが自衛もできない民間人であったなら、たしかにそうかもしれない。
でも、私は怪我もしてないし、彼と同じこの国を守る象徴の系譜。
(遠慮しないで欲しかった……けど)
自分がこれまで交流を避けてきた弊害が、ここにも。
言いたいことを言い合って、この国を良くする。
だれが魅了を?
いつ、違和感に気付いた?
その後、経過はどう?
聞きたいことが沢山あったはず。
それほどまでの信頼関係というのは、恐らく私たちの間にない。
(もしあのままライエンとの婚姻が進んでいたら、誰にも心を開けていなかったのかもね)
それはひいては国のためにもならない。
やはりそこは、悪役令嬢。
そういった未来があったなら、『この人はこうだから』という先入観を捨て、一からはじめないといけなかっただろう。
でも、ここは現実で。
ゲームのように、リスタートなんて……出来ない。
(だったら、前を見るしかない)
「……立ち話であれですけど、ライエン様はどのようにお考えです?」
先日、なにか分かれば話すと。
メーアスはそう言った。
「そうですね……、少なくともシンシア嬢の仕業ではないようです」
「やっぱり……」
「やっぱり?」
「あ、いえ……その」
彼はライエン付きとはいえ、王族に直接仕える身だ。
……この持論は、一歩間違えれば自分の身が危ういのだが。
(……信じよう)
私を助けてくれた彼を。
この国を共に守っていくはずだった、彼を。
「ーーレイセル様が。……魔力が少ないというお話でしたが。私にはそうは、見えませんでした。むしろーー」
「やはり……」
「やはり?」
「……どうやら、私たちは重大ななにかを見過ごしてきたようですね」
ライエンたちもレイセルを疑い始めてる……?
でも、元々魔力が少ないというのは周知の事実。
レイセルも、彼らの前では上手いこと隠してきたんじゃないだろうか。
(ん? 待てよ)
彼らの前では隠してきたとして。
なぜ、私の前では隠す必要がないのか。
(……まさか、私の魔力を奪うのが目的だった……? そして、魔物のごたごたもあったし、王族の進言でその罪を魔族になすりつける。いくら次期魔皇帝とはいえ、あの場の魔族は二人だけ)
きっと、最悪のシナリオというのはこうだっただろう。
ウルムを魅了にかけたのが彼という仮説が正しければ、だが。
つまり、あの意志を持つような魔力は……闇の魔力。それも、魔族のような純粋なるもの。
だが実際、レイセルは私の魔力を奪う素振りは見せなかった。
状況としては、『こう』であると確定的なのに。
実際になにを考え、なにを思い行動しているのか読めない。
(……怖い、わ)
「この件については、ライエン殿下もそちらの方向で探りを入れています。……リュミネーヴァ嬢は、とにかく。ご自身の身の安全と、ユールティアス様のお傍にいてあげてください」
「ユール様の?」
「はい。……レイセル様の件については、ナレド公国が深く関わっているはず。であれば、彼らにとってエレデアとセラフィニの友好の証である……貴女が。いちばん危険です。そして、彼らがより大胆になるとすれば……」
「なるほど、次期魔皇帝そのものを狙う恐れもある……と」
「ええ。さすがにそこまで、馬鹿であるとは思いませんが」
「用心に越したことはない……ですわね」
「お願いします」
身の安全……か。
そういえば。
「ーーそういえば、魔道具の件はどうなってますの?」
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