8 / 61
7 ここらで一杯、ハーブティー②
しおりを挟む
「おお、色付いてるんだな」
「面白いよね」
失言三秒前だったわたしは何とか言葉を引っ込めて、適切な言い方を考えた。
……その間に、抽出するのに丁度いい時間になってしまって結局思いつかない。
こう……、傷付けず、それでいて確信めいた言い方……くっ。
でてこない。
茶こしをつかって、茶葉が入らないようカップに注ぐ。
ハーブはけっこう小さいのもあるからね。
網目はなるべく細かいのに限る。
カップにうまく注げば、うっすら茶色く色付いた飲み物が。
うん、いいね。
ベルベーヌ、ベルベイヌとも呼ばれるレモンバーベナは、さわやかなレモンっぽい香りがお気に入り。
この香りが鼻から通って、消化機能も高めつつ、気持ちを落ち着かせてくれるそうな。
「はい、どうぞ」
「……いい香りだな」
「でしょ? 先に、香りを堪能してね」
香草だもの、まずは香りを楽しんでから味わうのがおすすめだ。
「なんか……こう、……気分が落ち着くな」
「うんうん」
いわゆるアロマテラピーってことなんだろうな。
わたしも香りを楽しんでると、心が穏やかになる。
ただ、味は人によって好みの問題があるから。
果実や紅茶と合わせたりして、調整してあげれるけど。
わりとスッキリとした、そんなに癖のないチョイスをしたし、大丈夫……とは思う。
「……仮に」
「うん?」
互いにカップに息を吹きかけ、ハーブティーを冷ましながら目線だけを動かす。
「グランローズ様に呪いを解いてもらえたとして」
「うん」
「俺は、どうすればいいんだろうな」
「……!」
そうか。
彼は、……いや。
彼にも、分からないんだ。
彼のいた国では、力だけが彼を生かす理由だった。
だから、魔力を取り戻せるなら、それがもちろん最優先だ。
でも、今は違う。
魔力がなくても、命を助ける。
そんな魔女もいるような環境で、力を取り戻したとして、……じゃあどうするのか。
わたしみたいに大魔女の側で生活していたら、正直めんどうとは思いつつ、魔力がない者をも守ることこそ魔女の使命って教わってきたから。
そのための行動をする。
彼は、その根底がない。
魔力を取り戻したからといって、人のために闘う。
そんな義務は……、きっとない。
(自由に旅をしたらどうか……、とも言いづらい)
いくらマシとはいえ、魔法使いへの偏見は少なからずある。し、人々が対等に接する可能性があるのは、女性……魔女だ。
「うーん……。ダオは、やりたいこととか無いの?」
「俺? そうだな……。ずっと戦いに身を置いていたし……。これと言って思いつかないな」
「じゃあ、それを生かして魔物討伐専門業者とか?」
「それは考えたが……。……本当に、呪いは解けるだろうか?」
「──っ」
正直、なんとも言えない。
いかにグランローズ様とはいえ、土や植物を介さずに成長を促すことはできないし、あくまで自分の治癒能力を高めるだけだ。
つまり、元々のダオの資質が問われる。
体の機能はともかく、魔力……呪いに打ち勝つ、力、意志、想いの強さ……それらがあるのか。
「じゃあさ」
「うん?」
「仮に、……仮にだよ? 呪いが解けないってなったら……、どうする?」
「そうだなぁ……」
酷、だったかな。
そんなことを聞いてしまうのは。
「魔力だけならまだしも、生気……生きる気力を失い続ければどうなるかは分かる。……そうはならないよう、グランローズ様の元で……一生を過ごすしかないんだろうか」
「一生……」
たしかに、そうなるか……。
定期的に戻ればよさそうな気もするけど、呪いの進行具合がどんなもんかなんて……専門家じゃないし分からない。突然、呪いが一気に加速するかもしれない。
専門家ねぇ……。
「シークイン様は、けっこう北の方に居るんだっけ?」
「そうだな」
「じゃぁ、聞くのは無理そうかぁ」
専門家……かは分からないけど、シークイン様は『すべてが視える』らしい。
意味はよく分からない。
蒼水の魔女、……水の大魔女の力を受け継ぐ方たちは、皆そうらしい。
それでいて、多くを語らない。
それとも……、語ってはいけない?
魔女最大の謎といっても過言ではない。
「とりあえずさ」
一応、プレ大魔女のわたしだ。
同胞が困っていれば、それを助けるのも我が使命なり。
「グランローズ様もあの地へお戻りでないかもしれないし、体力が戻るまで……ここにいたら?」
今できる、わたしの最大限の努力。
「っ、いいのか? ……でも──」
いや、分かるよ。
年頃の男女がひとつ屋根の下……って、良くないよね?
うんうん、わたしがお父さんなら許しません。
あ、ハニティとしての家族は居ないんですけどね。
まぁ、それはいいとして。
「部屋、余ってるし。それにもし、ダオがやばい人でも、……敷地内なら負けないよ」
「へぇ? 俺、一応剣も得意だけど」
「忘れたの? ここの大地にはわたしの魔力が満ちてる……。あなた、孤軍奮闘も良いところよ?」
「あー、……つまり俺は、少しでもハニティに危害を加えたら……終わると?」
「そういうこと」
ダオの「いやそうなんだけど……、そういうことじゃない」って言葉がいまいち理解できないのは……なんでだ?
あれか、乙女の恥じらいをもてー! ってことか?
「面白いよね」
失言三秒前だったわたしは何とか言葉を引っ込めて、適切な言い方を考えた。
……その間に、抽出するのに丁度いい時間になってしまって結局思いつかない。
こう……、傷付けず、それでいて確信めいた言い方……くっ。
でてこない。
茶こしをつかって、茶葉が入らないようカップに注ぐ。
ハーブはけっこう小さいのもあるからね。
網目はなるべく細かいのに限る。
カップにうまく注げば、うっすら茶色く色付いた飲み物が。
うん、いいね。
ベルベーヌ、ベルベイヌとも呼ばれるレモンバーベナは、さわやかなレモンっぽい香りがお気に入り。
この香りが鼻から通って、消化機能も高めつつ、気持ちを落ち着かせてくれるそうな。
「はい、どうぞ」
「……いい香りだな」
「でしょ? 先に、香りを堪能してね」
香草だもの、まずは香りを楽しんでから味わうのがおすすめだ。
「なんか……こう、……気分が落ち着くな」
「うんうん」
いわゆるアロマテラピーってことなんだろうな。
わたしも香りを楽しんでると、心が穏やかになる。
ただ、味は人によって好みの問題があるから。
果実や紅茶と合わせたりして、調整してあげれるけど。
わりとスッキリとした、そんなに癖のないチョイスをしたし、大丈夫……とは思う。
「……仮に」
「うん?」
互いにカップに息を吹きかけ、ハーブティーを冷ましながら目線だけを動かす。
「グランローズ様に呪いを解いてもらえたとして」
「うん」
「俺は、どうすればいいんだろうな」
「……!」
そうか。
彼は、……いや。
彼にも、分からないんだ。
彼のいた国では、力だけが彼を生かす理由だった。
だから、魔力を取り戻せるなら、それがもちろん最優先だ。
でも、今は違う。
魔力がなくても、命を助ける。
そんな魔女もいるような環境で、力を取り戻したとして、……じゃあどうするのか。
わたしみたいに大魔女の側で生活していたら、正直めんどうとは思いつつ、魔力がない者をも守ることこそ魔女の使命って教わってきたから。
そのための行動をする。
彼は、その根底がない。
魔力を取り戻したからといって、人のために闘う。
そんな義務は……、きっとない。
(自由に旅をしたらどうか……、とも言いづらい)
いくらマシとはいえ、魔法使いへの偏見は少なからずある。し、人々が対等に接する可能性があるのは、女性……魔女だ。
「うーん……。ダオは、やりたいこととか無いの?」
「俺? そうだな……。ずっと戦いに身を置いていたし……。これと言って思いつかないな」
「じゃあ、それを生かして魔物討伐専門業者とか?」
「それは考えたが……。……本当に、呪いは解けるだろうか?」
「──っ」
正直、なんとも言えない。
いかにグランローズ様とはいえ、土や植物を介さずに成長を促すことはできないし、あくまで自分の治癒能力を高めるだけだ。
つまり、元々のダオの資質が問われる。
体の機能はともかく、魔力……呪いに打ち勝つ、力、意志、想いの強さ……それらがあるのか。
「じゃあさ」
「うん?」
「仮に、……仮にだよ? 呪いが解けないってなったら……、どうする?」
「そうだなぁ……」
酷、だったかな。
そんなことを聞いてしまうのは。
「魔力だけならまだしも、生気……生きる気力を失い続ければどうなるかは分かる。……そうはならないよう、グランローズ様の元で……一生を過ごすしかないんだろうか」
「一生……」
たしかに、そうなるか……。
定期的に戻ればよさそうな気もするけど、呪いの進行具合がどんなもんかなんて……専門家じゃないし分からない。突然、呪いが一気に加速するかもしれない。
専門家ねぇ……。
「シークイン様は、けっこう北の方に居るんだっけ?」
「そうだな」
「じゃぁ、聞くのは無理そうかぁ」
専門家……かは分からないけど、シークイン様は『すべてが視える』らしい。
意味はよく分からない。
蒼水の魔女、……水の大魔女の力を受け継ぐ方たちは、皆そうらしい。
それでいて、多くを語らない。
それとも……、語ってはいけない?
魔女最大の謎といっても過言ではない。
「とりあえずさ」
一応、プレ大魔女のわたしだ。
同胞が困っていれば、それを助けるのも我が使命なり。
「グランローズ様もあの地へお戻りでないかもしれないし、体力が戻るまで……ここにいたら?」
今できる、わたしの最大限の努力。
「っ、いいのか? ……でも──」
いや、分かるよ。
年頃の男女がひとつ屋根の下……って、良くないよね?
うんうん、わたしがお父さんなら許しません。
あ、ハニティとしての家族は居ないんですけどね。
まぁ、それはいいとして。
「部屋、余ってるし。それにもし、ダオがやばい人でも、……敷地内なら負けないよ」
「へぇ? 俺、一応剣も得意だけど」
「忘れたの? ここの大地にはわたしの魔力が満ちてる……。あなた、孤軍奮闘も良いところよ?」
「あー、……つまり俺は、少しでもハニティに危害を加えたら……終わると?」
「そういうこと」
ダオの「いやそうなんだけど……、そういうことじゃない」って言葉がいまいち理解できないのは……なんでだ?
あれか、乙女の恥じらいをもてー! ってことか?
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる