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8.あふれる想い

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「――え、やえ」

呼ばれていることに気づいてゆっくり目を開けると、智光さんが心配そうに私を覗き込んでいた。

「大丈夫か? もしかして熱中症にでもなったんじゃ……」

「え……?」

いつの間にか私はソファでぐったりと横たわっていて、少し眠っていたらしい。

「ほら、水分をとって」

ミネラルウォーターをグラスに注いで持ってきてくれる。ゴクンと飲み込めば、ひんやりとした感覚が体中に染み渡っていくようだ。

その様子を、智光さんはじっと眺めていた。「少しは落ち着いたか?」と私の頬を触ったり頭を撫でたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

ああ、本当に。
優しすぎて涙が出そう。

隣に座る智光さんのシャツをぎゅっとにぎりしめた。智光さんは不思議そうにこちらを見る。柔らかな視線が絡まってどうしようもなくもどかしい気持ちになった。

「わたし……智光さんのことが好きです。智光さんのこと、もっと知りたい。ちゃんと夫婦になりたい。智光さんは私のこと、……どう思っていますか?」

聞いてしまったら関係が崩れるかもしれない、もしかしたら離婚になるかもしれない。そう思うのに、どうしても聞かずにはいられなかった。

智光さんはぐっと押し黙る。
沈黙がやけに重たく心にのしかかって息が詰まりそうになった。緊張で心臓だけがバクバクと煩く鼓動する。

「……もし、智光さんが迷惑だと思うのなら言ってください。そのときは私、ちゃんと出ていきますから」

握っていたシャツから手を離す。それだけで少し智光さんから距離ができた気がして苦しくなる。

けれどその手をぐっと掴まれてびくりと肩が揺れた。

「やえ」

甘く落ち着いた声に再び顔を上げると、蕩けるくらいに柔らかな表情をした智光さんと視線が絡み合う。

「迷惑なわけない。出て行くな。好きだ。俺はずっと前から、やえのことが好きだった」

「ずっと……前から……?」

「ああ、ずっと前からだ。そうじゃなきゃ、結婚なんてしない」

「ほ、本当に?」

「本当だ」

自分が望んで聞いたことなのに、これは夢なのではないかと思った。
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