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5.婚姻届

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とても楽しい時間だった。
目の前のやえはずっとニコニコ笑ってくれて、まるで彼女にはあんな過去がないくらいに明るくて。
だから安心していたのだが――。

タクシーに乗ってからやえの目はとろんとしてきた。頬もほんのりピンク色で少し飲みすぎたのかもしれない。

いや、やえは俺の言うことをちゃんと守って少しずつ飲んでいたし、そんな飲みすぎるような真似はしていなかった。
だが……。

「うーん、ねむい」

いつになく甘ったるい声で腕にもたれかかってくるやえは酔っ払いのそれで、実は彼女はアルコールに弱かったということが判明した。

「やえ、ついたぞ」

揺り動かせば何とか立ち上がる。ヨロヨロとタクシーを降りるがフラフラと足取りがおぼつかず、すかさず体を支えた。

「えへへー。智光さんと結婚しちゃった」

ニッコリと笑みを向けられてぐっと息をのむ。
半ば強引に結婚の話を進めてしまったことに少しばかり罪悪感があったのだが、これは喜んでくれていると解釈してもいいのだろうか。

「……結婚に後悔はないか?」

「ないですよー。私なんかと結婚してくれる智光さんは神ですね~。……でも本当に申し訳ないと思っています」

「申し訳ない? どうして?」

「だって……」

やえはトロンとした目を悲し気に曇らせる。

「私は智光さんが好きだけど、智光さんはそうじゃないでしょう? 私を助けるために慈悲で結婚してくれたんだもん。智光さんにも幸せになってもらいたい……」

酒を飲むと本性が出るとはよく言ったもので、俺はそれを利用したのだが……。あまり感情を表に出さないやえの気持ちが知りたかっただけで、軽い気持ちだったんだ。
だがまさかそんな風に思っていただなんて。
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