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3.大切な君

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窓にあたる微かな音に俺は顔を上げた。

「雨か……」

少し開けた窓の隙間から雨が入り込んでいる。閉めようと立ち上がり窓に手をやったとき、視界に何かを捉えて背筋がゾクリとした。

雨が降っているのに傘も差さないで、誰かがこちらを見ている。生気のないその姿はまるで幽霊。
だけど……。

「……幸山さん?」

似ている気がした。

いや、そんな馬鹿な。

そんなわけないだろうと思いつつも何かを知らせるかのように心臓が痛いほどに警鐘を鳴らす。こんな胸騒ぎがするのは初めてだ。

俺の霊感はゼロ。
どうする、確かめるか、放っておくか?

そんなことを思ったのは一瞬で。
俺はその存在を確かめるべく本能的に会社を飛び出した。

先ほど事務所から見た場所にもうそれ・・はいなくて、やはりそういう類のものだったのかもしれないと辺りを見回したその先に、橋の欄干に足をかけ今にも飛び降りようとしている彼女がいた。

「何してるんだ!」

俺の声に一瞬ピクリと肩が揺れる。

もたもたと欄干を乗り越えようとしている隙に彼女をぐっとつかみ反対側へ引き戻すように力任せに引っ張った。

余裕なんてない、必死だった。

どさりと地面に体を打ちつけながらとっさに彼女をかばう。そうして視線が交われば、それは紛れもなく幸山やえで――。
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