上 下
46 / 140
3.大切な君

06

しおりを挟む

俺は久賀産業をなめていた。
企業は大きければいい、知名度が高いほどいい、そんな固定観念を大きく覆された気がした。

こんな心染みる場所で俺も仕事をしたい。
父の意思を継ぎたい。
そう思ってしまったのだ。

「会社を継ぎたい」

そう告げたときの父の嬉しそうな顔は忘れられない。言わないだけで、本音は継いでほしかったのだ、きっと。俺は一人息子だから。

「簡単じゃないぞ」

「わかってる」

畑違いなんだ。だから一から学び一からすべてを築いていかなくてはいけない。
それでも、俺の意志は固かった。

家を継ぐと言ったらすぐに恋人にフラれた。

「ちょうどいい機会よ。私たち、別れましょう」

「ああ、わかった」

何がちょうどいい機会だ。前々からあることで揉めて少しギスギスしていたから、別れたそうにしているのは知っていた。それに、俺から大企業の肩書が無くなったのが決定打になったのだろう。

「町工場の社長の息子」なんていう肩書は、所詮大企業には敵わない、その程度のものだったのだ。

要するに、俺が今まで避けてきた期待やプレッシャーは、そんな大したものじゃなかったというわけだ。自分が一番その肩書きに溺れて意識して、そんなバカげた浅はかな考えにもようやく気づけた。
今さらかもしれないが。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

浮気夫への未練をバッサリ断ち切ってくれたのは娘でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:92

ある日、突然死刑宣告されるセナウロ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

オレ様エリートと愛のない妊活はじめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:38

不器用な皇太子は皇妃を溺愛しているが気づいて貰えない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:931pt お気に入り:111

今度はあなたと共に。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,775pt お気に入り:61

私よりも姉を好きになった婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:66

処理中です...