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3.大切な君
06
しおりを挟む俺は久賀産業をなめていた。
企業は大きければいい、知名度が高いほどいい、そんな固定観念を大きく覆された気がした。
こんな心染みる場所で俺も仕事をしたい。
父の意思を継ぎたい。
そう思ってしまったのだ。
「会社を継ぎたい」
そう告げたときの父の嬉しそうな顔は忘れられない。言わないだけで、本音は継いでほしかったのだ、きっと。俺は一人息子だから。
「簡単じゃないぞ」
「わかってる」
畑違いなんだ。だから一から学び一からすべてを築いていかなくてはいけない。
それでも、俺の意志は固かった。
家を継ぐと言ったらすぐに恋人にフラれた。
「ちょうどいい機会よ。私たち、別れましょう」
「ああ、わかった」
何がちょうどいい機会だ。前々からあることで揉めて少しギスギスしていたから、別れたそうにしているのは知っていた。それに、俺から大企業の肩書が無くなったのが決定打になったのだろう。
「町工場の社長の息子」なんていう肩書は、所詮大企業には敵わない、その程度のものだったのだ。
要するに、俺が今まで避けてきた期待やプレッシャーは、そんな大したものじゃなかったというわけだ。自分が一番その肩書きに溺れて意識して、そんなバカげた浅はかな考えにもようやく気づけた。
今さらかもしれないが。
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