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第2部 第7話
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ヒイロとチカラとコウイチは開けた岩場にワープしてきた。
「ここはどこですか?まさか!ヒデオさんがやられた場所じゃないですよね?」
「違うよ。まあ、ヒデオと俺が怪物と会った山にもこういう場所があるけど。ここは国がチカラくんたちに怪物と戦ってもらうために借りた場所。ヒデオがやられた場所に行ったらまだ怪物がいるかもしれないけど、こちらから出向くより準備して待ち構えた方が良いしね。」
「よく借りられましたね?怪物と戦ったらこの場所ボロボロになるかもしれないのに。」
「怪物が出現するようになって、有事の際には国が土地を収用することも出来るようになったらしいし、たぶん強引に借りたのかもしれないよ。」
チカラはあっけらかんと言ったが、ヒイロはたとえ国のためとはいえ、自分の家の土地が収用されたことを考えて寒気がしたが、普段怪物退治という有事に参加していると、国が土地を収用することくらい何とも思わなくなるのかと怪物退治の恐ろしさも感じた。
「…それで他の子たちはどこにいるんだろ?」
「あっ!あそこじゃないかな?」
チカラが指を差した方を見ると、ヒイロたちから少し離れた所に何人かの人影が見えた。
チカラが「お~い!」と言って近づいて行くと、「あっ、遅かったじゃない。」「ああ、待ちくたびれたぜ!」とチカラの呼びかけに反応した2人が見えた。
1人はヒイロもニュースなどで見たことがある、ヒデオと同じく今年高校を卒業して怪物退治を生業としている、氷室涼介だった。
ヒムロ・リョウスケは触れているものの水分を凍らせることが出来る能力を持っていた。怪物と戦う時は怪物に触れて怪物を凍らせたりもしたが、怪物の上部の空気中に含まれている水分を凍らせて氷柱のようなものを作って攻撃もした。ちなみに空気には常に触れているとみなされるのか遮るものがなければどんなに遠くの空気中に含まれている水分でも凍らせることが出来た。ただし遠くなれば遠くなるほど凍るのは遅くなった。
もう1人はどこかで見たことがある気がする女子だった。チラッと見ただけでも分かるくらいの美人でしたが、目がつり上がっていて本当はどうか分かりませんが、性格がキツそうな印象をヒイロは受けた。
「なぁチカラ、そいつが昨日人型の怪物を倒したっていう奴か?」
「そうですよ、リョウスケさん!こいつが昨日人型の怪物を倒したソラ・ヒイロです。」
チカラが集まっている人たちに向かってヒイロの紹介をすると、刺すような視線が自分に向いているのをヒイロは感じた。
「おい、お前!」
「は、はい!」
「ヒデオと同じく人型の怪物を倒したからといって調子乗んなよ!俺が巡回していたところに現れてたら俺が倒してたんだからな!」
「そうそう、ヒイロって言ったっけ?こいつの意見に賛同するのはしゃくだけど、別にあなたじゃなくても人型の怪物を倒すことは出来たから!こいつには無理だけど、私にはね!」
ヒムロ・リョウスケとつり目の女子がヒイロに突っかかってきたが、つり目の女子の方はヒイロだけでなくリョウスケの方にも喧嘩を売っていた。
ヒイロが委縮して何も言えずにいると、リョウスケが「おい!てめぇ今なんつった?俺には人型の怪物を倒せないって言ったか?」ヒイロではなくつり目の女子に食って掛かった。
「あら、そう言ったつもりだけど理解できなかった?」
「てめぇ、ふざけんな!お前よりも俺の方が多く怪物を倒しているんだぞ!もし俺に出来なかったら、お前に出来るはずないだろ!」
「私よりも怪物を倒した数が多いのは怪物退治の活動を私よりも先に始めてたからでしょ!実力的に言えば私の方が上です~!」
リョウスケとつり目の女子はヒイロそっちのけで口喧嘩を始めた。ヒイロがどうすればいいのか分からずうろたえていると、チカラが「ヒイロちょうどいいから今のうちに集まってくれた人たちを紹介するね。」と喧嘩する2人を無視してヒイロに集まっている人たちを紹介しようとした。
「え!いいの?あれほっといて?」
「いいのいいの。いつものことだから。」
「…そうなんだ。」
「え~と、今言い争いをしている金髪で自衛隊員と同じ服を着ている人がヒムロ・リョウスケさん。触れたものの水分を凍らせる能力を持っているよ。」
「うん、リョウスケさんはニュースとかで見ているから知ってるよ。知らないのは…。」
「ああ、彼女は糸井結さん。高校3年生で、あの糸井グループの社長の娘さんだよ。」
「ええ!あの糸井グループの!…失礼かもしれないけど、言葉遣いからは社長令嬢とはとても思えないな…。」
「それ、本人には言わない方がいいよ。すごく怒るから。」
いまだにリョウスケと罵詈雑言の言い争いをしているユイを見て、ヒイロは「本当にキツイ性格をしてたんだな。」と思っていた。
「あとあそこでフードを被ってスマホをいじっているのが雨田光くん。僕たちと同じ高校2年生。」
「どうも~。」
チカラに紹介されて(スマホからは目線を全く動かさなかったが)一応挨拶をしたヒカルのこともヒイロはどこかで見たことがある気がしたが、おそらく高校ですれ違ったことでもあるのだろうと結論付けた。
「怪物退治をしている人で今日集まったのはこの3人と僕を含めて4人か。自分で言うのもなんだけど、結構精鋭ぞろいだね。ヒイロ、安心していいよ!これならいくらヒデオさんが負けた怪物相手でも負けないから!」
「え!3人?まだいるけどあの人たちは?」
ヒイロはユイの近くにいる4、5人の人たちを指差してチカラに尋ねた。
チカラは今気づいたような表情をして「そうだった!ヒイロは知らなかったんだよね。あれは人形だよ。」と答えた。
「人形?」
「そう、人形!実はイトイさんの能力は人形を意のままに操れる能力なんだ。」
イトイ・ユイの能力は人形を意のままに操れる能力だった。人形を動かすならチカラの能力でもできそうな気がするが、精密に動かすという点においてはチカラよりもユイの方が優れていた。ユイ自身が考えていっぺんに動かすのは5体が限度だが、ある程度単純な動きならロボットの動きをプログラミングするみたいにして、自動で動くようにすることが出来た。
「でも人形なんて怪物を倒すのに役立つの?」
「普通の人形じゃ無理だろうけど、あの人形たちは特別性だから。素材は耐久性があるって言われているカーボンファイバーで作られていて、手の甲や足の甲、おでこなんかには金属のプレートが埋め込まれていて、パンチやキックをしたときに攻撃力があるようになっているんだ。」
「へぇ~、それはすごい!でもそんな人形どうやって手に入れたんだろう?」
「それは糸井グループの力を使ったからだと思うよ。」
「そっか、社長令嬢だったっけ。父親の力を使ったわけね。」
「でもそのおかげで怪物の脅威から日本が守られているわけだから、そんなに悪く言えないと思うよ。」
「それもそうだな。ごめん、ちょっと嫉妬があったかも。それでウダくんの能力はどんなのなの?」
「ウダくんの能力は体から電気を出すことが出来る能力だよ。」
「それはヒムロさん並みに怪物退治に役立ちそうな能力だな。」
「確かに怪物退治には役立つけど、ヒムロさんと比べると見劣りしちゃうかな。」
「え!何で?」
「電気を放出することは出来ても遠くに飛ばすことが出来ないからだよ。ウダくんの近くに来た敵は感電させることは出来るけど、離れた敵を攻撃することは出来ないんだ。」
「そっか。ところで気になるんだけど、ヒムロさんもウダくんも誰かを攻撃するのに役立ちそうな能力だけど、どうしてそんな能力を願ったのかチカラは知ってる?」
ヒイロが質問すると、チカラはプッと吹き出した。
「どうした?俺なんかおかしなこと聞いた?」
「いや、実は2人が能力を願った理由が面白くてさ。あっ!イトイさんを入れれば3人か!」
「そんなに面白いの?どんな理由なんだ?」
「まずヒムロさんは、ジュースを冷たいまま飲みたいけど氷を入れるとジュースが薄くなっちゃうから、薄くならずにジュースを飲めるようにジュースの一部を凍らせるために触れているものの水分を凍らせる能力を願ったみたいだし、ウダくんはスマホの充電が切れた時にいつでも充電できるように体から電気を出す能力を願ったみたいだし、イトイさんは…プッ…見ての通りあの性格だから友達があまりいなくて、一人で人形遊びをすることが多くて、『人形が自分の思った通りに動けばいいなぁ。』と思って、人形を意のままに操れる能力を願ったみたいだよ。」
「へぇ~。それは…面白い理由…プッ…だな。」
チカラがあまり笑わないようにしながら説明していたので、ヒイロも笑うのをこらえていた。
「おい!お前らあんまりふざけてばかりいるなよ!」
コウイチが緊張感のない場の空気を一変させた。
「確かに、今は口喧嘩している場合じゃなかったのは認める。だけどなコウイチ、お前いつまでここにいるつもりだ?こっちは2人も守りながら怪物と戦うつもりはないんだよ!」
「こいつの意見に賛同したくはないけど、ホントその通り。あんた邪魔。」
さっきまで口喧嘩していた2人が、今度は一緒になってコウイチを攻撃し始めた。
「俺はいざとなったらヒイロくんよりも早くこの場から逃げられるから守ってもらわなくてもいいし、邪魔するつもりもないよ。むしろ4人とも怪物にやられた場合、少しでも連れて逃げられるようにしなくちゃいけないからな。」
「ヒデオに勝った怪物相手だからといって俺が負けるわけないだろ!むしろその怪物を倒して、ヒデオじゃなくて俺の方が最強だって世に知らしめてやる!」
「ヒデオさんに勝った怪物を倒すのはあんたじゃなくて私。あんたじゃ無理!」
「あん!寝言は寝て言えよ!」
「あんたこそ自分で作った氷で頭冷やして来たら?」
「だからやめろって!」
「けっ!」
「ふん!」
リョウスケとユイがまた喧嘩を始めそうな雰囲気だったが、コウイチに止められてなんとか2人とも踏みとどまった。
「え~と、そう言えばウダくんが今回の怪物退治に参加してくれるとは思わなかったよ!ウダくんっていつも無難に怪物退治をこなしているイメージがあったからさ。やっぱりウダくんもヒデオさんに勝った怪物を倒してやろうと思ったの?」
場の空気を換えようとチカラがヒカルに今回の怪物退治に参加した理由を尋ねた。
「うん、まあ倒せたらいいかなって程度の気持ちだけどね。何せあのヒデオさんが倒せなかった怪物相手だから、参加するだけでも結構な報酬金がもらえると思ったからと、ヒデオさんが倒せなかったって言えばリョウスケさんとユイさんは参加すると思ったから参加を決めたんだ。最後はこの2人のどちらかが怪物を倒してくれると思ったからさ。」
「へ、へぇ~そうなんだ。」
チカラはヒカルがいろいろと計算して今回の怪物退治に参加しているのを知って、少し残念に思った。チカラとしては「ヒデオが倒せなかった怪物を倒してやる!」というリョウスケやユイみたいな熱い理由で怪物退治に参加したのを期待していたからだった。
「ところで本当にヒデオさんに勝った怪物は来るんですかね?」
ヒカルがここにいるみんなが一番気になっていることを口にした。
「そうだな。怪物がこいつのことを狙っているとしても、真っ先に狙ってくるかは分からないよな。まずどこかで暴れて自分のことを倒しに来させようとするかもしれないよな。」
「そうそう。それにこいつのことを狙うっていうのもコウイチが言ってるだけだし、本当かどうかも分からないしね。」
ヒカルの発言を聞いて、リョウスケとユイの2人も今回のヒイロを狙ってやって来た怪物を迎え撃つという作戦に対する疑問を言い出した。
「コウイチさん、大丈夫なんですか?」
心配になったヒイロがコウイチに尋ねると、「大丈夫、心配いらないよ!」とコウイチは微笑みながら答えた。
「確かにヒイロくんのことを怪物が狙うっていうのは俺だけしか聞いていないから信じられないなら信じてくれなくてもいい。」
「へぇ~、じゃあどうすんの?怪物が来なかったら?」
「それは防衛省の怪物対策の人が動いているからたぶん大丈夫だと思う。もし怪物が別の場所で出たらすぐに俺に連絡が入るようになっているし、連絡が来たら俺が日本国内ならどこへでもすぐに連れて行くから安心してほしい。それに今から怪物を自力で探すよりも、俺の近くにいた方が怪物の所にすぐに行ける可能性が高いと思うぜ。」
「分かった、分かった。黙って待ってればいいんだろ!」
「分かってもらえてよかった。イトイとヒカルくんも納得してもらえた?」
「納得した。」
「納得しました。」
コウイチの説明にリョウスケとユイは渋々ですが3人とも納得してくれた。
「ちょっといいですか?」
やっとおとなしく怪物が出るのを待とうという空気だったのに、チカラがその空気にふさわしくない大きな声を出した。
「どうしたんだ、チカラくん?」
コウイチが真っ先に反応した。
「すみません。でもどうしても言っておきたいことがあったので。リョウスケさん!イトイさん!ヒイロにはヒイロという名前があるんですから、こいつじゃなくてちゃんと名前で呼んでください!」
チカラの発言にみんな目を丸くしていましたが、一番驚いたのはヒイロだった。
「おい、何言ってんだよ!別にいいよ、そんなこと!」
「いや良くないよ、ヒイロ!ちゃんと僕が紹介しているんだからヒイロのことを名前で呼ばないのはおかしいよ!リョウスケさん!イトイさん!分かりましたか?」
「分かった、分かった。」
「分かった。これからは名前で呼ぶ。」
「それならいいです。あっ!あと…。」
「何だよ!まだ何かあるのか!」
「はい。怪物が来た時に怪物と戦う人と怪物からヒイロを守る人を一応決めておいた方がいいかなと思って。」
「何で?怪物が来たらすぐにコウイチに遠くにワープさせればいいじゃないか?」
「それじゃダメです。ヒイロはここにいなくちゃいけないんです。ヒイロを狙って怪物が現れたとしても、ヒイロがここからいなくなったら怪物もヒイロを追ってっちゃうかもしれないじゃないですか。」
「怪物を逃がさないようにすればいいじゃないか!」
「コウイチさんの話だと怪物の内の1体はすごいスピードで移動するみたいですけど、それでも逃がさない自信はありますか?」
「分かったよ!要は怪物がここに留まるように、ヒイロを守りながら俺たちは戦わなきゃいけないってことだな!」
「そうです。」
「じゃあ、お前ら3人で守ればいいだろ!俺はヒデオに勝った怪物を倒すから!」
「何言ってんの!ヒデオさんに勝った怪物を倒すのは私!あんたはすっこんでなさい!」
「あぁ!」
「なに!」
またリョウスケとユイが一触即発の雰囲気になったが、チカラが「まあまあ2人とも落ち着いてください。」と2人をなだめた。
「あぁ!元はといえばお前が余計なこと言いだしたからだろ!」
「そうそう!」
「怪物は2体いるみたいですから、お2人には戦ってもらうつもりでした。ウダくん、キミと僕でヒイロを守ろうと思うんだけどいい?」
「う~ん、まあいいけど。」
ヒカルは少し悩みましたが、チカラの提案を了承した。
チカラはそれを理解していて、「もしかして怪物と戦ってみたかった?それならまだ可能性がないわけではないよ。もしかしたら怪物がリョウスケさんとイトイさんを無視してヒイロに向かって来るかもしれないし、2人ともやられた場合は僕たちが戦わなきゃいけないしさ。」と言って納得してもらおうとした。
「そっか。そういうこともあるか。」
ヒカルはチカラの説得に納得したようでしたが、それに納得できない人たちが2人いた。
「おい、何ろくでもないこと言ってんだ!俺が負けるわけないだろ!」
「そうそう!こいつが負けることはあっても私は負けないから!」
「あぁ!」
「なに!」
「ということでヒイロ、僕とウダくんでキミを守るから!」
チカラはもうあきらめたのか、リョウスケとユイを無視して話を進めた。
「ここはどこですか?まさか!ヒデオさんがやられた場所じゃないですよね?」
「違うよ。まあ、ヒデオと俺が怪物と会った山にもこういう場所があるけど。ここは国がチカラくんたちに怪物と戦ってもらうために借りた場所。ヒデオがやられた場所に行ったらまだ怪物がいるかもしれないけど、こちらから出向くより準備して待ち構えた方が良いしね。」
「よく借りられましたね?怪物と戦ったらこの場所ボロボロになるかもしれないのに。」
「怪物が出現するようになって、有事の際には国が土地を収用することも出来るようになったらしいし、たぶん強引に借りたのかもしれないよ。」
チカラはあっけらかんと言ったが、ヒイロはたとえ国のためとはいえ、自分の家の土地が収用されたことを考えて寒気がしたが、普段怪物退治という有事に参加していると、国が土地を収用することくらい何とも思わなくなるのかと怪物退治の恐ろしさも感じた。
「…それで他の子たちはどこにいるんだろ?」
「あっ!あそこじゃないかな?」
チカラが指を差した方を見ると、ヒイロたちから少し離れた所に何人かの人影が見えた。
チカラが「お~い!」と言って近づいて行くと、「あっ、遅かったじゃない。」「ああ、待ちくたびれたぜ!」とチカラの呼びかけに反応した2人が見えた。
1人はヒイロもニュースなどで見たことがある、ヒデオと同じく今年高校を卒業して怪物退治を生業としている、氷室涼介だった。
ヒムロ・リョウスケは触れているものの水分を凍らせることが出来る能力を持っていた。怪物と戦う時は怪物に触れて怪物を凍らせたりもしたが、怪物の上部の空気中に含まれている水分を凍らせて氷柱のようなものを作って攻撃もした。ちなみに空気には常に触れているとみなされるのか遮るものがなければどんなに遠くの空気中に含まれている水分でも凍らせることが出来た。ただし遠くなれば遠くなるほど凍るのは遅くなった。
もう1人はどこかで見たことがある気がする女子だった。チラッと見ただけでも分かるくらいの美人でしたが、目がつり上がっていて本当はどうか分かりませんが、性格がキツそうな印象をヒイロは受けた。
「なぁチカラ、そいつが昨日人型の怪物を倒したっていう奴か?」
「そうですよ、リョウスケさん!こいつが昨日人型の怪物を倒したソラ・ヒイロです。」
チカラが集まっている人たちに向かってヒイロの紹介をすると、刺すような視線が自分に向いているのをヒイロは感じた。
「おい、お前!」
「は、はい!」
「ヒデオと同じく人型の怪物を倒したからといって調子乗んなよ!俺が巡回していたところに現れてたら俺が倒してたんだからな!」
「そうそう、ヒイロって言ったっけ?こいつの意見に賛同するのはしゃくだけど、別にあなたじゃなくても人型の怪物を倒すことは出来たから!こいつには無理だけど、私にはね!」
ヒムロ・リョウスケとつり目の女子がヒイロに突っかかってきたが、つり目の女子の方はヒイロだけでなくリョウスケの方にも喧嘩を売っていた。
ヒイロが委縮して何も言えずにいると、リョウスケが「おい!てめぇ今なんつった?俺には人型の怪物を倒せないって言ったか?」ヒイロではなくつり目の女子に食って掛かった。
「あら、そう言ったつもりだけど理解できなかった?」
「てめぇ、ふざけんな!お前よりも俺の方が多く怪物を倒しているんだぞ!もし俺に出来なかったら、お前に出来るはずないだろ!」
「私よりも怪物を倒した数が多いのは怪物退治の活動を私よりも先に始めてたからでしょ!実力的に言えば私の方が上です~!」
リョウスケとつり目の女子はヒイロそっちのけで口喧嘩を始めた。ヒイロがどうすればいいのか分からずうろたえていると、チカラが「ヒイロちょうどいいから今のうちに集まってくれた人たちを紹介するね。」と喧嘩する2人を無視してヒイロに集まっている人たちを紹介しようとした。
「え!いいの?あれほっといて?」
「いいのいいの。いつものことだから。」
「…そうなんだ。」
「え~と、今言い争いをしている金髪で自衛隊員と同じ服を着ている人がヒムロ・リョウスケさん。触れたものの水分を凍らせる能力を持っているよ。」
「うん、リョウスケさんはニュースとかで見ているから知ってるよ。知らないのは…。」
「ああ、彼女は糸井結さん。高校3年生で、あの糸井グループの社長の娘さんだよ。」
「ええ!あの糸井グループの!…失礼かもしれないけど、言葉遣いからは社長令嬢とはとても思えないな…。」
「それ、本人には言わない方がいいよ。すごく怒るから。」
いまだにリョウスケと罵詈雑言の言い争いをしているユイを見て、ヒイロは「本当にキツイ性格をしてたんだな。」と思っていた。
「あとあそこでフードを被ってスマホをいじっているのが雨田光くん。僕たちと同じ高校2年生。」
「どうも~。」
チカラに紹介されて(スマホからは目線を全く動かさなかったが)一応挨拶をしたヒカルのこともヒイロはどこかで見たことがある気がしたが、おそらく高校ですれ違ったことでもあるのだろうと結論付けた。
「怪物退治をしている人で今日集まったのはこの3人と僕を含めて4人か。自分で言うのもなんだけど、結構精鋭ぞろいだね。ヒイロ、安心していいよ!これならいくらヒデオさんが負けた怪物相手でも負けないから!」
「え!3人?まだいるけどあの人たちは?」
ヒイロはユイの近くにいる4、5人の人たちを指差してチカラに尋ねた。
チカラは今気づいたような表情をして「そうだった!ヒイロは知らなかったんだよね。あれは人形だよ。」と答えた。
「人形?」
「そう、人形!実はイトイさんの能力は人形を意のままに操れる能力なんだ。」
イトイ・ユイの能力は人形を意のままに操れる能力だった。人形を動かすならチカラの能力でもできそうな気がするが、精密に動かすという点においてはチカラよりもユイの方が優れていた。ユイ自身が考えていっぺんに動かすのは5体が限度だが、ある程度単純な動きならロボットの動きをプログラミングするみたいにして、自動で動くようにすることが出来た。
「でも人形なんて怪物を倒すのに役立つの?」
「普通の人形じゃ無理だろうけど、あの人形たちは特別性だから。素材は耐久性があるって言われているカーボンファイバーで作られていて、手の甲や足の甲、おでこなんかには金属のプレートが埋め込まれていて、パンチやキックをしたときに攻撃力があるようになっているんだ。」
「へぇ~、それはすごい!でもそんな人形どうやって手に入れたんだろう?」
「それは糸井グループの力を使ったからだと思うよ。」
「そっか、社長令嬢だったっけ。父親の力を使ったわけね。」
「でもそのおかげで怪物の脅威から日本が守られているわけだから、そんなに悪く言えないと思うよ。」
「それもそうだな。ごめん、ちょっと嫉妬があったかも。それでウダくんの能力はどんなのなの?」
「ウダくんの能力は体から電気を出すことが出来る能力だよ。」
「それはヒムロさん並みに怪物退治に役立ちそうな能力だな。」
「確かに怪物退治には役立つけど、ヒムロさんと比べると見劣りしちゃうかな。」
「え!何で?」
「電気を放出することは出来ても遠くに飛ばすことが出来ないからだよ。ウダくんの近くに来た敵は感電させることは出来るけど、離れた敵を攻撃することは出来ないんだ。」
「そっか。ところで気になるんだけど、ヒムロさんもウダくんも誰かを攻撃するのに役立ちそうな能力だけど、どうしてそんな能力を願ったのかチカラは知ってる?」
ヒイロが質問すると、チカラはプッと吹き出した。
「どうした?俺なんかおかしなこと聞いた?」
「いや、実は2人が能力を願った理由が面白くてさ。あっ!イトイさんを入れれば3人か!」
「そんなに面白いの?どんな理由なんだ?」
「まずヒムロさんは、ジュースを冷たいまま飲みたいけど氷を入れるとジュースが薄くなっちゃうから、薄くならずにジュースを飲めるようにジュースの一部を凍らせるために触れているものの水分を凍らせる能力を願ったみたいだし、ウダくんはスマホの充電が切れた時にいつでも充電できるように体から電気を出す能力を願ったみたいだし、イトイさんは…プッ…見ての通りあの性格だから友達があまりいなくて、一人で人形遊びをすることが多くて、『人形が自分の思った通りに動けばいいなぁ。』と思って、人形を意のままに操れる能力を願ったみたいだよ。」
「へぇ~。それは…面白い理由…プッ…だな。」
チカラがあまり笑わないようにしながら説明していたので、ヒイロも笑うのをこらえていた。
「おい!お前らあんまりふざけてばかりいるなよ!」
コウイチが緊張感のない場の空気を一変させた。
「確かに、今は口喧嘩している場合じゃなかったのは認める。だけどなコウイチ、お前いつまでここにいるつもりだ?こっちは2人も守りながら怪物と戦うつもりはないんだよ!」
「こいつの意見に賛同したくはないけど、ホントその通り。あんた邪魔。」
さっきまで口喧嘩していた2人が、今度は一緒になってコウイチを攻撃し始めた。
「俺はいざとなったらヒイロくんよりも早くこの場から逃げられるから守ってもらわなくてもいいし、邪魔するつもりもないよ。むしろ4人とも怪物にやられた場合、少しでも連れて逃げられるようにしなくちゃいけないからな。」
「ヒデオに勝った怪物相手だからといって俺が負けるわけないだろ!むしろその怪物を倒して、ヒデオじゃなくて俺の方が最強だって世に知らしめてやる!」
「ヒデオさんに勝った怪物を倒すのはあんたじゃなくて私。あんたじゃ無理!」
「あん!寝言は寝て言えよ!」
「あんたこそ自分で作った氷で頭冷やして来たら?」
「だからやめろって!」
「けっ!」
「ふん!」
リョウスケとユイがまた喧嘩を始めそうな雰囲気だったが、コウイチに止められてなんとか2人とも踏みとどまった。
「え~と、そう言えばウダくんが今回の怪物退治に参加してくれるとは思わなかったよ!ウダくんっていつも無難に怪物退治をこなしているイメージがあったからさ。やっぱりウダくんもヒデオさんに勝った怪物を倒してやろうと思ったの?」
場の空気を換えようとチカラがヒカルに今回の怪物退治に参加した理由を尋ねた。
「うん、まあ倒せたらいいかなって程度の気持ちだけどね。何せあのヒデオさんが倒せなかった怪物相手だから、参加するだけでも結構な報酬金がもらえると思ったからと、ヒデオさんが倒せなかったって言えばリョウスケさんとユイさんは参加すると思ったから参加を決めたんだ。最後はこの2人のどちらかが怪物を倒してくれると思ったからさ。」
「へ、へぇ~そうなんだ。」
チカラはヒカルがいろいろと計算して今回の怪物退治に参加しているのを知って、少し残念に思った。チカラとしては「ヒデオが倒せなかった怪物を倒してやる!」というリョウスケやユイみたいな熱い理由で怪物退治に参加したのを期待していたからだった。
「ところで本当にヒデオさんに勝った怪物は来るんですかね?」
ヒカルがここにいるみんなが一番気になっていることを口にした。
「そうだな。怪物がこいつのことを狙っているとしても、真っ先に狙ってくるかは分からないよな。まずどこかで暴れて自分のことを倒しに来させようとするかもしれないよな。」
「そうそう。それにこいつのことを狙うっていうのもコウイチが言ってるだけだし、本当かどうかも分からないしね。」
ヒカルの発言を聞いて、リョウスケとユイの2人も今回のヒイロを狙ってやって来た怪物を迎え撃つという作戦に対する疑問を言い出した。
「コウイチさん、大丈夫なんですか?」
心配になったヒイロがコウイチに尋ねると、「大丈夫、心配いらないよ!」とコウイチは微笑みながら答えた。
「確かにヒイロくんのことを怪物が狙うっていうのは俺だけしか聞いていないから信じられないなら信じてくれなくてもいい。」
「へぇ~、じゃあどうすんの?怪物が来なかったら?」
「それは防衛省の怪物対策の人が動いているからたぶん大丈夫だと思う。もし怪物が別の場所で出たらすぐに俺に連絡が入るようになっているし、連絡が来たら俺が日本国内ならどこへでもすぐに連れて行くから安心してほしい。それに今から怪物を自力で探すよりも、俺の近くにいた方が怪物の所にすぐに行ける可能性が高いと思うぜ。」
「分かった、分かった。黙って待ってればいいんだろ!」
「分かってもらえてよかった。イトイとヒカルくんも納得してもらえた?」
「納得した。」
「納得しました。」
コウイチの説明にリョウスケとユイは渋々ですが3人とも納得してくれた。
「ちょっといいですか?」
やっとおとなしく怪物が出るのを待とうという空気だったのに、チカラがその空気にふさわしくない大きな声を出した。
「どうしたんだ、チカラくん?」
コウイチが真っ先に反応した。
「すみません。でもどうしても言っておきたいことがあったので。リョウスケさん!イトイさん!ヒイロにはヒイロという名前があるんですから、こいつじゃなくてちゃんと名前で呼んでください!」
チカラの発言にみんな目を丸くしていましたが、一番驚いたのはヒイロだった。
「おい、何言ってんだよ!別にいいよ、そんなこと!」
「いや良くないよ、ヒイロ!ちゃんと僕が紹介しているんだからヒイロのことを名前で呼ばないのはおかしいよ!リョウスケさん!イトイさん!分かりましたか?」
「分かった、分かった。」
「分かった。これからは名前で呼ぶ。」
「それならいいです。あっ!あと…。」
「何だよ!まだ何かあるのか!」
「はい。怪物が来た時に怪物と戦う人と怪物からヒイロを守る人を一応決めておいた方がいいかなと思って。」
「何で?怪物が来たらすぐにコウイチに遠くにワープさせればいいじゃないか?」
「それじゃダメです。ヒイロはここにいなくちゃいけないんです。ヒイロを狙って怪物が現れたとしても、ヒイロがここからいなくなったら怪物もヒイロを追ってっちゃうかもしれないじゃないですか。」
「怪物を逃がさないようにすればいいじゃないか!」
「コウイチさんの話だと怪物の内の1体はすごいスピードで移動するみたいですけど、それでも逃がさない自信はありますか?」
「分かったよ!要は怪物がここに留まるように、ヒイロを守りながら俺たちは戦わなきゃいけないってことだな!」
「そうです。」
「じゃあ、お前ら3人で守ればいいだろ!俺はヒデオに勝った怪物を倒すから!」
「何言ってんの!ヒデオさんに勝った怪物を倒すのは私!あんたはすっこんでなさい!」
「あぁ!」
「なに!」
またリョウスケとユイが一触即発の雰囲気になったが、チカラが「まあまあ2人とも落ち着いてください。」と2人をなだめた。
「あぁ!元はといえばお前が余計なこと言いだしたからだろ!」
「そうそう!」
「怪物は2体いるみたいですから、お2人には戦ってもらうつもりでした。ウダくん、キミと僕でヒイロを守ろうと思うんだけどいい?」
「う~ん、まあいいけど。」
ヒカルは少し悩みましたが、チカラの提案を了承した。
チカラはそれを理解していて、「もしかして怪物と戦ってみたかった?それならまだ可能性がないわけではないよ。もしかしたら怪物がリョウスケさんとイトイさんを無視してヒイロに向かって来るかもしれないし、2人ともやられた場合は僕たちが戦わなきゃいけないしさ。」と言って納得してもらおうとした。
「そっか。そういうこともあるか。」
ヒカルはチカラの説得に納得したようでしたが、それに納得できない人たちが2人いた。
「おい、何ろくでもないこと言ってんだ!俺が負けるわけないだろ!」
「そうそう!こいつが負けることはあっても私は負けないから!」
「あぁ!」
「なに!」
「ということでヒイロ、僕とウダくんでキミを守るから!」
チカラはもうあきらめたのか、リョウスケとユイを無視して話を進めた。
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それから十余年。心優しい主人に拾われ、平穏無事な飼い猫ライフを送っていた環であったが突然、本家がある異世界「天獄屋(てんごくや)」に呼び戻されることになる。
主人との別れを惜しみつつ、環はしぶしぶ実家へと里帰りをする...しかし、待ち受けていたのは今までの暮らしが極楽に思えるほどの怒涛の日々であった。
本家の勝手な指図に翻弄されるまま、まともな記憶さえたどたどしい異世界で丁稚奉公をさせられる羽目に…その上ひょんなことから錬金術師に拾われ、錬金術の手習いまですることになってしまう。
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