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これは、なにEND?
しおりを挟む「…あぁ……全身が……痛いです」
目が覚めたのは、次の日の昼過ぎだった。
でも、全身の筋肉痛のような痛みで全く起き上がることができず、うつ伏せで横たわっている。
体は、眠っている間に綺麗にしてもらったようで、とてもさっぱりしている。
「……すまない、ヒナタ」
ベッドに腰掛けた兄さんが、僕の腰をさすってくれている。
「ううん、兄さんのせいではないです。自業自得です」
兄さんに媚薬を盛ったのは、僕だから。
「…次はもっと優しくする…」
上体を倒した兄さんが、僕のこめかみにキスをした。
あっ…え?次?
え?次があるの?
えっと…ちょっと、頭を整理しよう。
兄は、昨日僕らは兄弟じゃ無いと言っていた。
アスカ兄さんは、僕の事が恋愛感情的に好き。
僕は、昨日兄さんに媚薬を盛った。
兄は、僕も同じ気持ちだと思っている。
そして、僕らはセックスをした。
セックスは気持ちよかったし、嫌じゃ無かった。兄の気持ちを聞いても嬉しいと思った。
兄の事は、好きだ。凄く大切で、幸せになって欲しいと思う。
だからこそ、僕は兄の側を離れようとしたわけだし…。でも、これは兄を推しと思う傍観者的な恋心であって…兄を手に入れたかったわけでは…ない?
「……あの……僕は、まだ兄さんの事が…その…」
「…知っている。お前が、この家を出ようとしていたのも分かった」
兄が指さした方向には、家出用のパンパンのリュックサックがあった。
「あんな物だけで生きていけると思ったのか?」
「うっ…」
リュックには、新聞紙と膝掛けと、少しの食料、水。貯めた小銭が入っている。
「まさか…バイウ-の所に行くつもりだったのか?」
僕の腰をさする手が、すこし荒くなった。
「な…なんでバイウーが出てくるんですか……」
「そうじゃないなら、無謀すぎる。お前が一人で旅して辿り着いた街でまともな仕事を出来るのか?俺達のようなストリート上がりは、肉体労働か体を売るしかないぞ」
そう、そうなんだ。
紹介者の居ない流れ者を住み込みで働かせるなんて滅多にないし、運良く雇って貰えても、労働条件の悪い所で僕がずっと体を壊さずに働けるとは思わない。病気になったら捨てられる。
唯一、可能性があるのは娼館とかだけど…現代を知る僕としては……性病怖いよね。それに、水商売だって能力が必要だ。酒も飲めて、要領よくお客様の相手をして、顧客情報をちゃんと覚えて…セックスをして…。
でも、正直…僕自身、生き残れると思ってなかった。
「ヒナタ…お前…俺に見つからないところで野垂れ死にするつもりだったんだろ…」
「……そんな事…」
分からない。
この計画を決めたとき、漠然と、そうなるだろうなとは思っていた。
でも、人間って欲深いし、いざとなったら僕も、犯罪に手を染めたり、お金の為に誰かを誘ったりするかもしれない。ちゃんとした計画や考えなんて無かった。
「……なぁ、ヒナタが思う俺の幸せって何だ?」
「えっ?…えっと……僕の為に危険な仕事なんてしなくてよくなれば…兄さんは、どこか別の街で、健全な仕事について…優しい人と愛し合って…」
僕の事など忘れて、その人と毎日笑顔で暮らせれば良い。
少し胸が痛いけど、それは凄く嬉しい。
「……言ったよな…お前がいない世界に生きてもしょうが無いって……なんだよ、その絵に描いたような幸せって……ここに生まれたら危険な仕事につくのは普通だ。お前がいなくても俺はきっとこう生きた。金もあるし、住み慣れたここを離れてわざわざ別に街に逃げて、大した稼ぎもない普通の重労働をするのが幸せか?」
冷たい表情をした兄に見下ろされて、体が震えた。
確かに…裏社会の制裁から逃げ続け、使い捨てみたいな重労働に従事するのが、幸せか…それは分からない。
それが良い、普通の生活が一番健全で素晴らしいという、自分のお子様な考えに恥ずかしくなってきた。もちろん、暗殺の仕事が褒められるような仕事では無い。悪だ。
でも、兄ほどのレベルになると、一般人がターゲットな訳もなく…。いや、違う悪い奴なら暗殺していいわけじゃないし!
あぁ…なんだ…正義ってなに?正しい生き方ってなに?
しかも、僕の思う正義を兄に押しつけて決めるのもおかしいし…。
正義が幸せの条件ってっわけでもないし…。
僕は、頭を抱えた。
「…ヒナタが俺と生きてくれるなら……俺は、何だってする。お前が望むなら、喜んでここを離れる。どんな仕事でもしてやる……」
「えっ……」
兄の手が、僕の頭をそっと撫でた。
「お前といるなら…俺は何でも出来る……どこに居ても、幸せだ」
「……アスカ兄さん…僕は……兄さんに何も出来ない…」
だって恋人とか、家族だって…お互いを助け合って、支え合って生きていくものでしょう?
僕には、出来ることがない。
「ヒナタが、まだ幼かった頃、俺が生きる気なんてなかった時に。お前は、俺の為に体を壊してまで必死になってくれただろう?」
「…あっ…あの時は…」
僕、見た目子供だけど、中身大人だったし。
「そんな事より、お前の幸せって何だ?ヒナタはいつも自分を犠牲にしすぎる……俺は、ヒナタの幸せの方が大切だ」
「僕の幸せ?そんなの…兄さんが幸せならそれで…」
「……お前は…また…それか…少しは欲とか無いのか……」
「…あっ…有るよ……兄さんに言えないような事、いっぱい!」
兄さんが、はぁっとため息を吐いた。どうやら信じていないらしい。
僕は兄さん相手に、汚らわしい妄想一杯したことあるのに…。
「…それじゃあ、出て行くなんてしないよな。俺の幸せの為に…」
兄さんが、僕の体を起こして、自分の膝の上に乗せて抱きしめた。
すりすりと首筋に頬を当てられた。
ドキドキ、そわそわする。
でも、満足感や安心感に包まれ、心がほっこりもする。
つい、兄さんの背中に手を回して、抱きしめ返してしまう。
「もしも…また俺の側から離れようとするなら…」
ニコニコと、温かい気持ちになっていたら…突然兄の声が低くなった。
ぞくりとする声だ。
「……す…するなら?」
ゴクリと唾を飲んで、体を離して兄の顔を見つめた。
「………しないよな」
無表情で笑う兄さんの顔は、暗殺者の兄のスチルの顔だった。
「…ま…まさか、しないよ!此処に居る。兄さんと暮らすよ!」
「…そうか、良かった。…それとお前が俺の為に何も出来ないなんて、そんな事無い。俺は、ヒナタにキスしてほしい…抱き合いたい…頼って甘えて欲しい……それにセックスもしたい…嫌か?」
兄さんの唇が、ちゅっと僕の唇に触れて離れた。
僕は、恥ずかしくて、叫び出したい気持ちを抑えて、ブンブンと顔を振った。
「……嫌じゃ……ないです……」
僕らは、ゲームの王道ルートを外れ、あるのか分からない、兄×弟ルートのエンディングを迎えたのだろうか?
この先に待っているのは、破滅か…明るい未来か…それとも、18禁ゲームらしい…エロエロ三昧か。
とにかく、僕が死んだら兄が後を追いそうなので『いのちを大事に』コマンドで過ごしたいと思います。
END
追伸、バイウーが僕らの恋路を邪魔します。
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やる気チャーーーージです!!
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バイウーに邪魔される恋路、待ってます✨✨✨
もくれん様も、アホの子受け同盟に加入ですねwww
ありがとうございます!!
おそらく、私の作品のアホの子のトップ争いをする子ですwww
不憫勘違いという新たな扉を開きました。
いつか、振り回されるバイウーも書いてみたいです♡♡
あ~面白かったです( ゚Д゚)ゞ
これで完結なのは分かるのですが
もう少し 読みたくなっちゃう作品ですね~🎶アスカ兄さん勘違いの可愛い人でした。
ありがとうございました❗️
虎太郎様、感想ありがとうございます(*´∀`*)
まさかの勘違い不憫は、書いていてとっても楽しかったです!!
アスカ兄さんエンドで終わっていますが、バイウーエンドもきっと楽しいだろうな、と妄想が広がります♡(^♡^)
まだ、読んで頂けているのが、とっても嬉しいです(T♡T)♡
ありがとうございます!!