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振りかかった火の粉から逃げられなかった
しおりを挟む「で…今、ストーリーはどのあたりなんだろう…」
いくら大好きなゲームだったとしても、事細かに覚えて居るほど良い頭脳は持ち合わせていない。
この人生で言えば、小学校にすら通っていない。
この世界に義務教育など無く、金持ちが私立のスクールに通うか、家庭教師を雇うかだ。
しかし、この国の文字は割と単純で識字率は悪くない。
「…マフィアのボスの名刺ということは、まだ出会って間もないか、会う前かな…」
それは、いわゆるストーリーの序盤かな?
序盤って何があったっけ?
「うーん、確か…弟のヒナタの具合が悪くなって…より良い医者と施設で治療させようと考えて…仕事を増やすんだよね…そのせいで、海を牛耳っている密航船の船長の取引先を潰しちゃって、不興を買って…僕、誘拐されるんだよ」
ははは、と苦笑しながら椅子に腰掛けた。
死んだ方が良いと言われてしまう弟は、まさに飛んで火に入る夏の虫なのだ。
アスカ兄に、暫く外出するなって言われた後に、フラフラ菓子売りに出かけて誘拐されるんだ。
まさに今日、暫く外出するなと言われた。
「あれ?僕…いま別に体調悪くないけど?もっと先かな?」
もともと弱いから、常に軽い不具合はあるけど。特に問題ない。
いや…むしろ…元気出てきました。
兄さんのリアルエロBLを傍観者として生で見たいという、とてつもなく変態的な欲望が止まりません。
ただ、血と暴力のBLだから、兄さんが痛い目に遭うストーリー分岐は駄目だ。
「ということは、マフィアのボスルートは、絶対駄目だ!抗争に巻き込まれて兄さん骨折れたり、撃たれたり…ああ…絶対駄目!」
僕はブルブルと頭をふった。
大概、どのルートでも自分は死ぬってことは一旦目を瞑ろう。考えちゃ駄目だ。
「あとは、密航船船長ルート…おお!船長は、お道具によるエロお仕置き大好き攻め!兄さんは…命的には割と安全!」
そうだ、船長ルートが良いぞ。
他の攻略者も結構ドンパチとか多いし、バッドエンド多いけど、船長には兄さんが死ぬルートが無い。意外と船長が守ってくれるから。
よし、船長だ、船長ルートだ。
「ってことは…僕は、毎日ノコノコと外へ行くべき?」
僕は、玄関のドアを見やった。
此処から出る→誘拐される→少々痛い目に遭う→兄が助けに来る→船長と出会う
大事だよね。
出会い。必要だよね。
「……うぅ」
でも、いかんせん…前世平和な日本に生まれた平凡男子。
暴力とか普通に怖いですけど…。
未だに、兄が暗殺者とか信じられないのですが。
「いや…そもそも…兄さんには、もっと安全に良い男と出会って貰うのが良いのでは?それで、暗殺者なんて辞めて、平和に……って、結局、逃亡生活とか考えると、邪魔だ僕!!僕が邪魔なんだよ!」
気がついてしまった。
僕が居ないのが、幸せになれる近道だって。
「でも…今、どこかへ一人で行っても、誘拐とか犯罪に巻き込まれたと思われそうだし…はぁ…為す術無し。とにかく当面は家で大人しくしているのが正解かな?」
僕は立ち上がり、家のドアの鍵を確認しに向かった。
「鍵良し」
続いてベランダの窓の鍵を閉めようと手を伸ばした。
カーテンを捲る。
「……えっ」
ベランダに二人の男が降り立った。
「ひぃ…」
とにかく急いで鍵をかけようと手を伸ばしたら、金槌が振り上げられた。
襲い来るガラスに戦いて、手を引っ込め頭を庇って後ろへ逃げた。
ガシャン
この世界のガラスは、怪我防止の為に粉々に割れるようなものじゃない。
男達は、脅しでガラスを割ったんだ。
ニヤニヤ笑いながら窓を開けた。
「…あっ…あっ…」
ガシャガシャとガラスを踏む靴音が耳につく。
僕は、恐怖で声も出ず。
逃げることもできない。
腰が抜けてその場に座り込んだ。
膜が張ったように、外界の音が遠ざかっていく。ドクドクと騒ぐ心音が五月蠅い。
あぁ…なんて役立たず。
「一緒に来て貰うぜ」
ガタイも肉付きも良い中年の男が、僕の腕を掴んだ。
その腕を振り払う事も思い浮かばず、振り回されるように玄関へと向かった。
ここで助けを求めて叫んでも、きっと何にもならない。
日本のように助けてくれる警察なんていないんだ。
でも、このまま抵抗もせずに連れ去られて、良いのだろうか?
本当に僕の予想通り、連れて行かれるのは密航船?
「うっ…や…」
何とか勇気をだして、足を突っ張って抵抗した。
「なんだ?どうせ誰も助けちゃくれねぇ、大人しくついて来いよ」
「うわぁっ…」
グッと腕を引かれ、地面に膝を強打した。そしてそのまま引きずられる。
痛い。
玄関から出てゴツゴツしたコンクリートの上を引きずられて、心折れかけた。
「待って…痛い…痛いです…ちゃんと歩きますから、手を離して下さい」
俯いて、弱々しく声を出して懇願すると、男の手が離れた。
その瞬間、僕は火事場の馬鹿力で廊下の手すりを乗り越えた。
「てめぇ!!この野郎!!」
「待ちやがれ!!」
二階から飛び降りて、下に止まっていた車の上に着地した。
足がビーンと痺れる。けれど逃げなくちゃ!
「っ!」
ボンネットに滑り降り、そして…車内の男と目が合った。
「…うそ…」
逃げなくちゃいけないのに、僕はボンネットに座った状態で、車内の男と見つめ合った。
男は、冷めた目で僕を見ている。全くの無表情だ。
もしかして…船長じゃないか…。
まさにゲームのあの船長が実写化したビジュアル。
えっ…エサの誘拐に、わざわざボスが来るのですか?!
「大人しく一緒に来い」
船長さん…柏宇(バイウー)船長が助手席のドアを開けて出てきた。
バイウー船長は、目鼻立ちのハッキリとした顔立ちだ。力強い眉毛と、どこか狐を思い出させる笑ってない笑顔が印象的で、全体的に後ろに流しているのに、ハラハラと少し顔に掛かる前髪が男の色気ムンムンで、一癖二癖有りそうな美青年だ。
視線だけで人が殺せそうな目で僕を見ている。
「…あ……」
まずい、逃げた上に車の上がボコってへこんでいる。
これは絶体絶命だ。
しかし普段運動しないのに、走って飛んで心拍数がまずいですし、息切れもしてます…。
目の前に迫るバイウー船長と、近づいてくる男二人。
ボンネットに座り込む僕。
「ごっ…ごめんなさい!!」
僕は、なけなしの力で逃げようとしたけれど、ボンネットの上で足が滑る。
視線だけで僕を制している船長が、押し倒すように覆い被さってきた。
目の前の彼の瞳が、暗く冷え切っている。ゲームなんかよりも、もっともっと怖い。
「…お前が、ヒナタか」
「は…はい……気軽に、お前と呼んで下さい…」
恐怖で苦笑する僕の顎を、バイウーの手がぎゅっと掴んで、僕の頬は潰れ、情けないタコみたいになっている。
凄く格好いいけど、何よりも人を人として見ていない感じが怖い。
船長ルートなら安全だと思ったけど、違うんじゃ無いかな…。
「坂巻アスカの弱点は、病弱で大人しい弟だと聞いたが…情報が間違っていたみたいだな…役立たずめ……随分と元気みたいだ」
「あっ…あひが…とう…ござい…ます」
バイウーの迫力に負けて、頬を潰されたまま情けなく、ははは…と笑う。
「てめぇ!この野郎、良くも逃げやがったな!」
「……素人のガキに逃げられてどうする……役立たずが…」
やっと降りてきた男達が来ると、バイウーは僕の顔を離した。
そして、彼の胸に抱き込まれるように拘束された。
「申し訳ありません!!」
「次に失態したら……」
「はい!!肝に銘じます!」
バイウーは、手下達に冷たい視線を送り言葉少なに僕を連れて後部座席に乗り込んだ。
「…どうぞ、少し凹んでいる車だが」
僕の隣に座り、肩を抱いたバイウーが微笑んだ。
「っ!?」
ただただ、恐ろしくて、テンパった僕は車の天井に両手を当てた。
「こ…こっちから押せば…」
「……ぶっ…」
バイウーが顔を逸らして吹いた。
「頑張って直せよ」
「……は…ははは……頑張ります」
僕は、船着き場に到着するまで、ひたすら車の天井を押し続けた。
柏宇(バイウー) 密航船船長、港と海洋を仕切っている。
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