25 / 73
滝デート
しおりを挟むラブは、ヘビと歩き出し、先ほどの土竜とキボコを思い出した。
キボコのように、ヘビとくっ付いて歩きたくて、ヘビの腕をじっと見つめた。
(べったり くっついたら、絶対に怒って振り払われる気がする……)
コレまでの、ヘビとの関わり方で、ラブも少しは学んだ。
(腕を組んでも嫌がられる気がする。手を繋ぐのも……無理っぽいよね)
足が長く、リーチが違う為に、少し早歩きをし、ヘビを追いかけながら、観察し、口を尖らせながら必死に考えた。
「ねぇ、ヘビ」
「何だ」
「手出して」
ヘビは、眉をしかめ、困惑しながらも、ラブが歩いている左手側の手を広げ差し出した。ヘビの長い指と大きな掌に、ラブは何故か胸が苦しくなった。
「えい」
ラブは、歩く歩調に合わせて、パチパチとヘビの掌を叩いた。
ヘビはいよいよ混乱し、首を何度も捻った。
「おい……コレは一体何なんだ……」
「え? 本当は手が繋ぎたいけど、ヘビが絶対に嫌だって言うから、一瞬で離してるの」
トコトコ
ぺちぺち
すっ――
おっとっと
ヘビの手が引かれ、ラブの手が空振りし、ラブがよろけた。
「何で⁉」
「……お前の思考回路が理解出来なさすぎて、恐怖すら感じた」
「ラブが、頭良いってこと?」
「いや――もはや、分類が違う何かかもしれない」
「もー、よく分からないけど、じゃあヘビが選んで良いよ、手を繋ぐのと、腕を組むのどっちが良い?」
「……良いだろう」
ヘビが、ラブを見てニヤリと笑った。
「え?」
ラブは、期待に胸膨らませ、満面の笑顔を浮かべた。
「やれるものなら、肩を組め」
煽るようなヘビの言葉に、ラブが「言ったなぁ」と飛びつくように腕を伸ばした。
「ちょっと、届かない! ずるい、背伸びして歩いちゃ駄目!」
「……」
「歩くの速い!」
じゃれて飛びつく犬と、満更でもない飼い主のようだ。
コロニーの埋まっている山は、膨大な地下水を有する。
その水をくみ上げて、コロニーで利用している。
くみ上げた水を一部、見えるように流している場所がある。幅四メートルほどのゲートから流れ出る水は、高さ六メートルほど落ちている。此処では、その人工の滝を上から眺める事が出来る。
「どどどー」
ラブは、滝に向かって叫んだ。
「落ちるぞ」
透明アクリル板の衝立に乗り出すラブの服を、ヘビが引いた。
「ラブ、きっと泳げるよ」
「昔、飛び込んで溺れた人間がいる」
「それは嫌」
ブルブルと震えて、ラブが乗り出した頭を起こしたので、ヘビの手が離れた。
「このお水は何処へ行くの?」
「濾過した後、一度外気に触れている。飲食以外の場所に提供されている。ランドリーやトイレ、畑だな」
「へー、ヘビはこのお家の事、全部頭に入っているの?」
「ああ」
「凄いねぇ」
「逆に聞きたい。お前のその頭には、何が入っているんだ」
ヘビは、滝を見下ろして、力の抜けた顔をし、大して興味も無さそうだ。
「ラブが覚えてるのは……何だろう。ラブの事を迎えに来る男さんと、愛し愛されて、助け合って生きるの。ラブは、たった一人の相手と一本の木になるの。二人は一つになって絡み合って、男は枝を伸ばして、女は新たな実を実らせます。実は、真っ赤なの。人の血が赤くするんだって」
おいしい、おいしい実がなるの。ラブはお腹に手を当てた。
「……比喩表現なのに、逆に生々しいぞ」
「え? そうなの?」
ラブは、大きく息を吸い込んだ。
「ここは、気持ちが良いね」
「……そうだな」
「水の匂い好き」
「あぁ、俺も好きだ」
ヘビは、そっと目を閉じて、水の音や匂い、肌に触れる潤った空気を楽しんだ。
(変なの。触れてないのに、今までで一番側に居る気がする)
ラブは、空腹が満たされていく気がした。
この空気を壊したくなくて、流れ落ちる水を、静かに眺め続けた。
「楽しかったね。ラブ、凄く満足した。嬉しかった」
居住区に戻る途中、ラブは黙っていた分、五月蠅いくらいにヘビに話しかけたが、ヘビは嫌な顔をしなかった。
「また一緒に行こうね」
「お前が、人並みの食事をするようになったらな」
ヘビは、ラブの目を見て微笑んだ
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
ヤンデレ男の娘の取り扱い方
下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】
「朝顔 結城」
それが僕の幼馴染の名前。
彼は彼であると同時に彼女でもある。
男でありながら女より女らしい容姿と性格。
幼馴染以上親友以上の関係だった。
しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。
主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。
同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。
しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。
――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。
現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」
本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。
こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。
天之琉華譚 唐紅のザンカ
ナクアル
キャラ文芸
由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。
道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。
しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。
その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。
超絶! 悶絶! 料理バトル!
相田 彩太
キャラ文芸
これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。
挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★
そのルールは単純にて深淵。
対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。
そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!
例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。
まともな勝負だ。
例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。
骨をどうすればいいんだ……
例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」
どんな特級厨師だよ母。
知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!
特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!
敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。
この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?
料理バトルものです。
現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。
実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。
まだまだレベル的には足りませんが……
エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。
パロディ成分多めです。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ヒカリとカゲ♡箱入り令嬢の夢見がちな日常♡
キツナ月。
キャラ文芸
世間知らずな令嬢の恋を、トイレが激近い泥棒が見守る(面白がる)ドタバタおトイレLOVEコメディ❤️
※表紙はフリー素材です※
《主な登場人物》
♡胡桃沢(くるみざわ)ヒカリ
深窓の令嬢。17歳。恋しがち。
♡カゲ
泥棒。
ヒカリの気まぐれで雇われる?
トイレが激近い(危険な時は特に)。
令嬢が章ごとに恋するスタイル👀✨
⚡️泥棒の章⚡️
恋愛対象→危険な香りの泥棒❤️
今後の物語に絡んでくる人物。
🎹ピアノ男子の章🎹
恋愛対象①
奏斗(かなと)さま…謎多き美貌のピアニスト❤️
恋愛対象②
森下奏人さま…ヒカリが通う学園の教育実習生、担当教科は音楽❤️
💡ゴージャスな学園やライバルお嬢も登場。
🏥お医者さまの章🏥
恋愛対象→医師・北白河 誠さま❤️
💡じいちゃんが健康診断を受けることになり──?
🌹お花屋さんの章🌹
恋愛対象→???
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ゴールドの来た日
青夜
キャラ文芸
人間と犬との、不思議な愛のお話です。
現在執筆中の、『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の中の話を短編として再構成いたしました。
本編ではこのような話の他、コメディ、アクション、SF、妖怪、ちょっと異世界転移などもあります。
もし、興味を持った方は、是非本編もお読み下さい。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる