上 下
48 / 56

第四十八話 嫌な予感

しおりを挟む
 
 
 今日は朝から飛行機が沢山飛んでいる。明日行われるSDIのフェスティバルの関係者が沢山やって来るらしい。
夜勤明けの詠臣が、不審な人物も入って来やすいので、家から出ないで下さい。と言って、寧々をベッドに連れ込んだ。

(朝から何を! と、ビックリしたけど、キスされて、愛してますと囁かれ、抱き枕にされただけだった……うーん、これはコレで、幸せです)

 逞しい腕に抱き寄せられ、大好きな人にくっ付いているだけで、多幸感が溢れる。
 昨日は何か問題があったのか、何時もよりも帰宅する時間が遅く、少し疲れている様子に寧々の心配も尽きないが、フェスティバルもあるし色々と忙しいのかなと勝手に推察した。
(フェスティバルには、芸能人とかテレビの人も来るって言ってた……詠臣さんの事は信用しているけれど、ちょっと心配……だって、詠臣さんは素敵すぎるから)
 寝入ったと思われる詠臣の腕の中を動き、見つめ合う位置まで来た。

(無理……好き。顔がニヤけちゃう。抱きつきたくなるけど、我慢。詠臣さんを起こしちゃう……あー、でも見るだけキスしたくなっちゃう)
 夫婦関係の修復が叶ってからは、詠臣の甘い言葉や行為が以前よりも増していた。
 料理中も、本を読んでいる時も、気がつくと蕩けるような笑顔で見つめられていて、ときめくやら、恥ずかしいやら、美怜の失礼な真摯なストーカーという言葉をおもいだして笑いそうになるやら忙しい。

(毎日が幸せ過ぎて怖い……琳士や匠さんとも再会できたし、言うことなさ過ぎて……何かありそうで怖い。子供の時も体は悪かったけど、毎日が楽しかったとき、お父さんとお母さんが死んでしまったし、匠さんと琳士は居なくなっちゃった。詠臣さんと結婚して幸せだなぁと思ってたら、お爺様も病気で亡くなってしまったし……落ち着いたらおじさんが来たし……次は何だろうって心が構えちゃう……)
 心配で勝手に走り出した心臓をなだめる。
(大丈夫……悪い事なんて起きない。とにかく今日は大人しくしていよう)
 静かにする為に詠臣が帰ってくる前に早起きして家事は大体終わらせた。心置きなく時間を無駄にしようと決意し、寧々は詠臣にすり寄った。
 眠っているのに、ギュッと抱きしめ直す詠臣に寧々が微笑み、目を閉じた。

「……寧々」
 詠臣が、すっかり寝入った寧々の髪を撫でている。出会った頃は肩の上くらいで切りそろえていた髪は、子供っぽく見えるという理由で、今は少しずつ伸ばされている。
 詠臣が、サラサラと流れる髪の感触を楽しんでいると、メールの着信があった。

 昨夜、前衛島で閃光があったと報告があり、出動すると密猟者が、ノトサウルスとスピノサウルスの卵を奪おうと上陸し、襲われ戦闘していた。乗ってきた船は大破して炎上し航行不能になっているようだった。
 縄張りを荒らされ、住処や卵を攻撃された海竜の活動が活発になっている。
 今日の午後からは特別な警戒態勢を取る為に、詠臣も再び招集されている。
 メールでは招集の時間が早まった事を知らされた。気持ちよさそうに眠っている寧々を起こすのが忍びない。
「……」
 詠臣の指が、寧々の肉付きの薄い頬を摘まんだ。寧々が嫌がって顔を逸らすのが、申し訳無いが可愛くて、今度は反対側に手が伸びた。
「詠臣さん」
 寧々が、少しだけ目を開いて、甘えた声で名前を呼んで微笑み、詠臣は心臓を撃ち抜かれた。
 詠臣は照れて苦笑し、手で顔を覆って寧々への愛しさをやりすごしている。
残念ながら、愛を確かめ合うような時間が無い。

「あれ? もう、起きちゃうんですか?」
 目を覚ました寧々が、今何時だろうと周囲を見回している。
「今日は、また呼び出されているんです」
 起き上がった寧々の後ろに流れてしまっているネックレスを詠臣が戻した。
「そうなんですか、大変ですね」
「バタバタしてすいません」
「詠臣さん……大丈夫ですか?」
 普段は無いような勤務形態に、何か大きな問題が起きているのでは無いかと、寧々は心配になって、遠慮がちに詠臣の腕を掴んだ。
「大丈夫ですよ。私より、寧々が気をつけて下さい。今日は、この島に部外者が沢山訪れています」
「はい。詠臣さんも気をつけて下さいね」
 詠臣は、寧々の不安そうに揺れる瞳に顔を近づけて、伏せられた瞼にキスをし、寧々の細い顎をすくい上げると、口付けた。


 詠臣が家を出て、数時間経った頃、飛び交っていた飛行機は見当たらなくなった。
 代わりに、攻撃能力もあるヘリや戦闘機が海へ向かって飛んで行き、戻ってこない。

(何が起きているんだろう……琳士も匠さんも、今日も不在っぽいし……皆大丈夫かな…)
 寧々は、何をしていても気が入らず、落ち着かなかった。

 そして、夕暮れが近づいて来た頃、警報が鳴った。この島に来てから初めての全島民の避難を促す警報だ。建物の廊下からも、外のスピーカーからも多言語で放送が入っている。
(……この島に海竜が向かってる?)
 寧々は緊張で呼吸が浅くなった。
(詠臣さんも、匠さんも琳士も……大丈夫かな……)
 心配が尽きないが、今の自分に出来るのは指示に従って避難をする事だけだと気持ちを切り替えて、避難場所とルートを確認する。火の元を確認して、必要な物だけを持って家を出た。

 軍服姿の避難誘導係に従って、徒歩で地下へと潜る道へと向かっていると、遠い雷鳴のような爆発音が聞こえた。思わず空を見渡すけれど、立っている場所が悪く何も見えなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...