あの時、君の側にいられたら 【恋愛小説】

いんげん

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第十一話 来る前から、楽しい遠足

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二人は園内の広い芝生のスペースで、レジャーシートを敷いてお弁当の用意を始めた。周囲には家族連れや、寧々達のようなカップルが多かった。
 詠臣は、寧々がお弁当を作ってきた事に、驚き何度もお礼を言った。
 実家では、四人兄弟だったので、各々一升炊きされているご飯と冷蔵庫にある大量の食材から、自由に持って行くスタイルだったらしい。野菜の形にも凝っているお弁当に、目を見張って喜んでいる。

「いただきます」
 これから武道の試合でも始まるのかと思う、美しい姿勢の正座に、寧々もつられて姿勢を正した。
「どうぞ、召し上がって下さい」
(す…すごい……平さん、食べるのがはやい……見ているだけでお腹いっぱいになりそう……)
「とても美味しいです」
 そういって微笑んでくれる彼に、寧々の心に申し訳けなさが募る。
(きっと、食べた気がしないよね……量は多めに作ったけど、口寂しくなっちゃう感じだよね)
 寧々の心配をよそに、詠臣は満足していた。
 普段から任務中に眠くならないように日中は程々の量と、体作りのために淡泊な食事を心がけていた。

(平さん……ソロソロ飽きてきちゃったかな……私と居るの嫌になってきたかな……)
「……」
 寧々が暗い顔で沈黙をしていると、詠臣がぐっと唇を噛みしめた。
「寧々さん……すみません、無理に誘って」
「え?」
「私と居ても、楽しくないですよね……周囲からも言われます、お前と居ると息がつまると」
 詠臣が食事を終わらせて、改めて寧々と正面から向き合った。
 体は寧々の方を向いているのに、視線がよそへと流れ、気まずそうに首に手を当てている。
「そんなことありません!」
 思わず大きな声が出て、前に手をつくと、少しだけ残っていた水筒が倒れて、お茶が零れた。
「あっ……」
 詠臣が素早く立て直し、蓋を閉めると、零れたお茶をリュックから取り出したタオルで拭き取った。
 寧々は、それを呆然と眺めながら、言葉を探した。
 今の自分の気持ちを表現する何かを……。

「……すいません」
 すっかり零れたお茶の始末が付いた頃、寧々から謝罪の言葉が出て、詠臣が問題ありませんと答えた。
「あの……今日は、とっても楽しかったんです」
 寧々の言葉に詠臣の表情が緩む。
「本当は、私だけが楽しい遠足にして、平さんが私と過ごすのを、退屈に感じるようにしようと思ってたんです……」
 寧々は気まずくて首を垂れて下を向き続けた。
「たとえばどのような……」
「目的地とか、重いお荷物とか……私だけが好みのお弁当とか……最後はお通夜みたいな車内になる予定だったんです」
 耐えきれなくなった詠臣が、息を吹いた。
 ピクリと反応した寧々が、彼にチラリと視線を送る。
「でも……朝から、凄く楽しくて……平さんが、そろそろ帰りたくなってきているかと思ったら……ちょっと悲しくて……」
 零れたお茶を片付けて開いたスペースに、詠臣が進んだ。
 二人の膝が触れそうに近い。

「私も……いえ、私はメッセージが来た時からずっと楽しかったです。あと何日かと指折り数えました。意味も無く毎日ガソリンを満タンにしました。実は、一度ここまで運転してきました。貴方から連絡が無いかと何度もスマホを確認しました。……自分からも何度かメッセージを書きましたが、送らずに消去しました」
「私も……お弁当……三回作りました。何着もお洋服着て、毎日ここのホームページをみました」
 二人は真っ直ぐに見つめ合って、自然と笑みがこぼれた。
「ご迷惑でなければ、またお会いしたいです」
「……」
 寧々が無言で頷くと、詠臣が目を瞑り、膝の上の手をグッと握りしめた。
(どうしよう……嬉しい。断る予定だったのに……すごく、嬉しい)
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