11 / 56
第十一話 来る前から、楽しい遠足
しおりを挟む二人は園内の広い芝生のスペースで、レジャーシートを敷いてお弁当の用意を始めた。周囲には家族連れや、寧々達のようなカップルが多かった。
詠臣は、寧々がお弁当を作ってきた事に、驚き何度もお礼を言った。
実家では、四人兄弟だったので、各々一升炊きされているご飯と冷蔵庫にある大量の食材から、自由に持って行くスタイルだったらしい。野菜の形にも凝っているお弁当に、目を見張って喜んでいる。
「いただきます」
これから武道の試合でも始まるのかと思う、美しい姿勢の正座に、寧々もつられて姿勢を正した。
「どうぞ、召し上がって下さい」
(す…すごい……平さん、食べるのがはやい……見ているだけでお腹いっぱいになりそう……)
「とても美味しいです」
そういって微笑んでくれる彼に、寧々の心に申し訳けなさが募る。
(きっと、食べた気がしないよね……量は多めに作ったけど、口寂しくなっちゃう感じだよね)
寧々の心配をよそに、詠臣は満足していた。
普段から任務中に眠くならないように日中は程々の量と、体作りのために淡泊な食事を心がけていた。
(平さん……ソロソロ飽きてきちゃったかな……私と居るの嫌になってきたかな……)
「……」
寧々が暗い顔で沈黙をしていると、詠臣がぐっと唇を噛みしめた。
「寧々さん……すみません、無理に誘って」
「え?」
「私と居ても、楽しくないですよね……周囲からも言われます、お前と居ると息がつまると」
詠臣が食事を終わらせて、改めて寧々と正面から向き合った。
体は寧々の方を向いているのに、視線がよそへと流れ、気まずそうに首に手を当てている。
「そんなことありません!」
思わず大きな声が出て、前に手をつくと、少しだけ残っていた水筒が倒れて、お茶が零れた。
「あっ……」
詠臣が素早く立て直し、蓋を閉めると、零れたお茶をリュックから取り出したタオルで拭き取った。
寧々は、それを呆然と眺めながら、言葉を探した。
今の自分の気持ちを表現する何かを……。
「……すいません」
すっかり零れたお茶の始末が付いた頃、寧々から謝罪の言葉が出て、詠臣が問題ありませんと答えた。
「あの……今日は、とっても楽しかったんです」
寧々の言葉に詠臣の表情が緩む。
「本当は、私だけが楽しい遠足にして、平さんが私と過ごすのを、退屈に感じるようにしようと思ってたんです……」
寧々は気まずくて首を垂れて下を向き続けた。
「たとえばどのような……」
「目的地とか、重いお荷物とか……私だけが好みのお弁当とか……最後はお通夜みたいな車内になる予定だったんです」
耐えきれなくなった詠臣が、息を吹いた。
ピクリと反応した寧々が、彼にチラリと視線を送る。
「でも……朝から、凄く楽しくて……平さんが、そろそろ帰りたくなってきているかと思ったら……ちょっと悲しくて……」
零れたお茶を片付けて開いたスペースに、詠臣が進んだ。
二人の膝が触れそうに近い。
「私も……いえ、私はメッセージが来た時からずっと楽しかったです。あと何日かと指折り数えました。意味も無く毎日ガソリンを満タンにしました。実は、一度ここまで運転してきました。貴方から連絡が無いかと何度もスマホを確認しました。……自分からも何度かメッセージを書きましたが、送らずに消去しました」
「私も……お弁当……三回作りました。何着もお洋服着て、毎日ここのホームページをみました」
二人は真っ直ぐに見つめ合って、自然と笑みがこぼれた。
「ご迷惑でなければ、またお会いしたいです」
「……」
寧々が無言で頷くと、詠臣が目を瞑り、膝の上の手をグッと握りしめた。
(どうしよう……嬉しい。断る予定だったのに……すごく、嬉しい)
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】
衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。
でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。
実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。
マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。
セックスシーンには※、
ハレンチなシーンには☆をつけています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
【R18】メイドは心から体まであるじを癒したい♡
milk102
恋愛
メイドがあるじに体で尽くすお話です。
あるじは次期社長のサラリーマン。
AV風、毎回エッチか触り合いっこがある予定です。
恋愛小説大賞にエントリーしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる