267 / 488
第四章 第二部
17 心付けと手紙
しおりを挟む
ハリオの隣の部屋の客、それはダルの推測通り、王宮に前国王への面会を要求し続けているバンハ公爵家のヌオリとその仲間であった。あの日以来、宣言通りにシャンタル宮へ滞在し、王宮と神殿を日に何度も訪ねている。
「あの者たちは何者でしょう」
ヌオリと同じ部屋に滞在していたセウラー伯爵家のライネンがダルたちを気にかけてそう言う。
「多分月虹兵とかいう者たちだろう。あの部屋に案内された時に近くの部屋にいると説明された」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
ヌオリたちの担当となった客室係の侍女がそう言っていたのをライネンも思い出したようだ。
「まあ、どちらにしても取るに足らぬ者たちだ。月虹隊の隊長とかいう者は漁師だそうだしな」
ヌオリは気にかける価値もなさそうにそう言って、後は黙って2人で神殿へと向かった。
ダルの隣室と、そのさらに隣の2部屋がヌオリとその仲間に提供された前の宮の客室であった。
トーヤやダル、昨夜ハリオが泊まったのと同じ造りの部屋にヌオリとライネンが2人で滞在し、その隣の2室、間の扉を開ければ4人が一緒に泊まれる造りの部屋にもう1つベッドを入れて5人が滞在している。その7人で交代して神殿と王宮を尋ねているのだ。
「また王宮衛士が嫌そうな顔するでしょうね」
「そうだな」
ライネンの言葉にヌオリがニヤリと笑った。
「それが目的だからな、交代でそうして日に何回も押しかけたら、そのうち本当のことをうっかり口にする者も出てくるだろう」
今も毎回「前王陛下がお会いしたくないとのことだ」と王宮衛士は伝えてくるが、明らかにその表情は変化している。当番の兵は交代しているので同じ者が出てくることの方が少ないのだが、申し送りの時にヌオリたちのことは伝えられているからだろう。
「そのうち、我々に近づいてくる者もあるはずだ。その者に手引きをさせて王宮へ入る。もしも噂通り本当に国王陛下が皇太子に害されているのなら、それを理由に皇太子を引きずり降ろし、その周辺の者も共犯として牢獄にぶち込んでやればいい。もしもご健在ならば我らこそ真に国王の味方とご説明申し上げ、元のように王座にお戻りいただき、忠臣としておそばに置いていただく」
ヌオリはもうすでに自分たちの勝利を確信しているかのようにそう言う。
「ですが、そのためには陛下の消息を確かめなければなりません」
「分かっている。だからこそ仲間の一部に王都で噂の元を探らせているのだ。その出処の者こそが陛下の消息を知る者だろうからな」
本人たちは事実を知らずにいるが、この推測は当たっていた。町に元王宮衛士たちを使って「現国王が父親である前国王を手にかけたらしい」とか「天が王の交代をお怒りである」などの噂を流させたのは神官長であり、その父親である前国王を軟禁されていた冬の宮から逃れさせ、匿っているのもまた神官長だ。
偶然ではあるが、ヌオリたちは解答に近い場所まで近づいていると言える。
ヌオリとライネンはそんな話をしながら一度神殿を通り過ぎ、王宮へ足を伸ばした。
王宮の入り口に付くと、当番の王宮衛士が2人を見て、さすがに公爵家と伯爵家の後継者に露骨に嫌な顔はできないものの、ややこわばらせた顔で形式通りに対応をし、
「連日同じことを告げるのも申し訳のないことだが、前国王陛下への面会を申し入れる」
「前国王陛下への面会は全て断るようにとの通達です。お引取りください」
今までと同じ応答を繰り返す。
「では、前国王陛下に手紙だけでも渡してはもらえないか」
「お手紙ですか」
当番の一人がもう一人と視線を合わせ、
「一度上に聞いて参ります」
そう言って席を外した。
一人残った王宮衛士にヌオリは親しげに話しかける。
「役目とはいえ何度もすまないな」
「いえ」
「これを」
ヌオリが懐から何かが入った絹の袋を取り出した。
「つまらない物だが気持ちばかりだ、受け取ってくれ」
「いえ、そのようなものは」
「よく分かっている。だが、君たちだとてつらいだろう」
そう言って無理やりに袋を握らせると上からギュッと両手でその手を包み込んだ。
「だがこちらも必死なのだ。もしも、街の噂のように前国王陛下のお身の上に何事かが起こっているとしたら、それはこの国が誤った道を歩くということだ。そんなことを天がお許しになるだろうか」
王宮衛士は困った顔でじっとそのまま止まったままでいる。
「もしも、もしもで構わない、君がこの国のためにできることがある、そう思ったなら、前の宮の客室を訪ねて来てほしい。我々はいつでも歓迎する。頼んだよ」
そう言ってヌオリがさっと手を離したところに、さっきのもう一人の王宮衛士が戻ってきた。
「お手紙ならばお渡ししても構わないとのことです」
「そうか、助かった」
そう言ってヌオリは濃い紺色の封蝋をした封筒を戻ってきた王宮衛士に渡した。
「できればお返事をいただきたいが、渡せるだけでも構わない。我らがどれほど前国王陛下のことを心配申し上げているのか、そのことだけでも知っていただけたら、それで構わないのだ」
そう言ってヌオリとライネンは元来た方へ戻っていった。
王宮衛士の手、それぞれに心付けと手紙を渡し終えて。
「あの者たちは何者でしょう」
ヌオリと同じ部屋に滞在していたセウラー伯爵家のライネンがダルたちを気にかけてそう言う。
「多分月虹兵とかいう者たちだろう。あの部屋に案内された時に近くの部屋にいると説明された」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
ヌオリたちの担当となった客室係の侍女がそう言っていたのをライネンも思い出したようだ。
「まあ、どちらにしても取るに足らぬ者たちだ。月虹隊の隊長とかいう者は漁師だそうだしな」
ヌオリは気にかける価値もなさそうにそう言って、後は黙って2人で神殿へと向かった。
ダルの隣室と、そのさらに隣の2部屋がヌオリとその仲間に提供された前の宮の客室であった。
トーヤやダル、昨夜ハリオが泊まったのと同じ造りの部屋にヌオリとライネンが2人で滞在し、その隣の2室、間の扉を開ければ4人が一緒に泊まれる造りの部屋にもう1つベッドを入れて5人が滞在している。その7人で交代して神殿と王宮を尋ねているのだ。
「また王宮衛士が嫌そうな顔するでしょうね」
「そうだな」
ライネンの言葉にヌオリがニヤリと笑った。
「それが目的だからな、交代でそうして日に何回も押しかけたら、そのうち本当のことをうっかり口にする者も出てくるだろう」
今も毎回「前王陛下がお会いしたくないとのことだ」と王宮衛士は伝えてくるが、明らかにその表情は変化している。当番の兵は交代しているので同じ者が出てくることの方が少ないのだが、申し送りの時にヌオリたちのことは伝えられているからだろう。
「そのうち、我々に近づいてくる者もあるはずだ。その者に手引きをさせて王宮へ入る。もしも噂通り本当に国王陛下が皇太子に害されているのなら、それを理由に皇太子を引きずり降ろし、その周辺の者も共犯として牢獄にぶち込んでやればいい。もしもご健在ならば我らこそ真に国王の味方とご説明申し上げ、元のように王座にお戻りいただき、忠臣としておそばに置いていただく」
ヌオリはもうすでに自分たちの勝利を確信しているかのようにそう言う。
「ですが、そのためには陛下の消息を確かめなければなりません」
「分かっている。だからこそ仲間の一部に王都で噂の元を探らせているのだ。その出処の者こそが陛下の消息を知る者だろうからな」
本人たちは事実を知らずにいるが、この推測は当たっていた。町に元王宮衛士たちを使って「現国王が父親である前国王を手にかけたらしい」とか「天が王の交代をお怒りである」などの噂を流させたのは神官長であり、その父親である前国王を軟禁されていた冬の宮から逃れさせ、匿っているのもまた神官長だ。
偶然ではあるが、ヌオリたちは解答に近い場所まで近づいていると言える。
ヌオリとライネンはそんな話をしながら一度神殿を通り過ぎ、王宮へ足を伸ばした。
王宮の入り口に付くと、当番の王宮衛士が2人を見て、さすがに公爵家と伯爵家の後継者に露骨に嫌な顔はできないものの、ややこわばらせた顔で形式通りに対応をし、
「連日同じことを告げるのも申し訳のないことだが、前国王陛下への面会を申し入れる」
「前国王陛下への面会は全て断るようにとの通達です。お引取りください」
今までと同じ応答を繰り返す。
「では、前国王陛下に手紙だけでも渡してはもらえないか」
「お手紙ですか」
当番の一人がもう一人と視線を合わせ、
「一度上に聞いて参ります」
そう言って席を外した。
一人残った王宮衛士にヌオリは親しげに話しかける。
「役目とはいえ何度もすまないな」
「いえ」
「これを」
ヌオリが懐から何かが入った絹の袋を取り出した。
「つまらない物だが気持ちばかりだ、受け取ってくれ」
「いえ、そのようなものは」
「よく分かっている。だが、君たちだとてつらいだろう」
そう言って無理やりに袋を握らせると上からギュッと両手でその手を包み込んだ。
「だがこちらも必死なのだ。もしも、街の噂のように前国王陛下のお身の上に何事かが起こっているとしたら、それはこの国が誤った道を歩くということだ。そんなことを天がお許しになるだろうか」
王宮衛士は困った顔でじっとそのまま止まったままでいる。
「もしも、もしもで構わない、君がこの国のためにできることがある、そう思ったなら、前の宮の客室を訪ねて来てほしい。我々はいつでも歓迎する。頼んだよ」
そう言ってヌオリがさっと手を離したところに、さっきのもう一人の王宮衛士が戻ってきた。
「お手紙ならばお渡ししても構わないとのことです」
「そうか、助かった」
そう言ってヌオリは濃い紺色の封蝋をした封筒を戻ってきた王宮衛士に渡した。
「できればお返事をいただきたいが、渡せるだけでも構わない。我らがどれほど前国王陛下のことを心配申し上げているのか、そのことだけでも知っていただけたら、それで構わないのだ」
そう言ってヌオリとライネンは元来た方へ戻っていった。
王宮衛士の手、それぞれに心付けと手紙を渡し終えて。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜
藤花スイ
ファンタジー
お転婆娘のセネカは英雄に憧れているが、授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
幼馴染のルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会に引き取られていった。
失意に沈むセネカに心ない言葉をかけてくる者もいた。
「ハズレスキルだったのに、まだ冒険者になるつもりなのか?」
だけどセネカは挫けない。自分のスキルを信じてひたすらに努力を重ねる。
布や皮は当たり前、空気や意識に至るまでなんだって縫ってゆく。
頑張っているうちにいつしか仲間が増えて、スキルの使い方も分かってきた。
セネカは創意工夫を重ねてどんどん強くなっていく。
幼馴染と冒険の旅に出る日を夢見ながらひたすらに己を鍛え上げていく。
魔物から村を守るために命を賭した両親のような英雄になることを目指してセネカは走り続ける。
「私のスキルは【縫う】。
ハズレだと言われたけれど、努力で当たりにしてきた」
これは一途にスキルを磨き、英雄となった少女の物語
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる