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第四章 第二部
15 落ち葉より軽い命
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ミーヤはそうしてしばらく考えていたが、
「私の知る限りでは、神官長がそのようなことを知る機会はなかったように思います。トーヤとは目を覚ました時に一度会っているだけですし、その後で話が進んでいく間、一度も接触をしたことはなかったと思います。交代の日の夕刻、神官長は確かに奥宮へ来られたと聞きましたが、それはすでにシャンタルがお眠りになった後でした」
「ということは、その計画を途中から知ることはなかった、それでいいですか?」
「絶対にとは言えませんが、ほぼなかったと思います。話を進める間、リルでさえどうやって遠ざけようかと苦心したぐらいですから」
「あ~そういやそう言ってたな」
アランが話を聞いた時のことと実際のリルに会ってからのことを思い出し、少しばかり笑った顔になる。
「トーヤが、リルさんと再会した後、リルさんには黙っていようかと思った自分を殴ってやりたくなるって言ってました」
「まあ」
ミーヤがその言葉を聞いてクスリと笑った。
「本当に情報通で大した人です」
「ええ、リルには本当にいつも感心させられるの」
「さすが大商会の会長を父に持つだけのことはあるな」
ディレンもそう言って笑った。
「でも、その比較的近くにいたリルさんですら知らなかった、途中からは色々と関わっていたのに。神官長の情報網がどのぐらいか分からないけど、事が起きるまでは知らなかった可能性は高そうですね」
「ええ」
「ってことは」
アランがうーんと上を向いて一つ考えて、
「事が起こった後で知った、ということかも知れない」
「え?」
「例えば、何かの理由で湖に戻って、それでトーヤたちが棺桶を引き上げてる作業を見てしまったとか」
「そんな……」
あるのだろうか。
「なんか、トーヤが銀色の柱に吹き上げられたとか言ってましたけど、それに気がついて戻った、なんてことないですか」
「でもその時はおそらく衛士や神官たちと一緒にいたと思うんです。何か異変を感じたらルギたちもみんな一緒に戻っていたのではないでしょうか」
「あ~なるほど」
「もしもそんなことがあったら隊長がなんとか引き止めてそうだな」
「私もそう思います。そもそもルギはそのために葬列の一番最後を引き受けたのだとキリエ様もおっしゃっていました」
「ってことは、何かあったとすると解散した後か」
アランはあくまで神官長が戻った可能性を考えているようだった。
実際、神官長は戻っている。そして棺を引き上げる現場ではなく、もう一度沈める場面を見ている。そしてそのことをキリエに告げた。自分は知っているのだと。
「でもそれはあくまで推測にすぎんだろう。その前提で話を進めると推論が曲がっちまわんか?」
「そうなんですよね」
そう言いながらもアランはその説を捨てたくはなさそうだ。
「でも、そう考えると、なんか色々なことが納得できそうなんすよねえ。例えば、死んだはずの先代が生きて戻ったー、奇跡だー、とかって言って、そんで、もうこんな堕落した王様にはこの国を任せてはおけない、これからはシャンタルが直々に統治なさる、とかって、自分が後ろ盾になる、とか」
「でも、それにはシャンタルのご意思が必要ですよね」
「神官長が、シャンタルが昔の人形みたいなままだって思ってたら?」
「あ……」
言われてミーヤもそのことを思い出した。
「確かに、お目覚めになる前のシャンタルのままだと思いこんでいるのなら、そんなことを考えても不思議ではないかも知れません」
「でしょ?」
「でもな」
ディレンが異議を申し立てる。
「その御本人の行き先を知ってる、今どこにいるのか知ってないとそれは不可能だぞ」
「もしかしたら」
アランの表情が金に近い茶色の髪で陰る。嫌な考えにたどり着いたようだ。
「神官長はエリス様がシャンタルだと気がついてる?」
「あ!」
ミーヤの中で謎が一つ解けた。
「それででしょうか、キリエ様が戻らぬようにとおっしゃっているのは」
アランがさらに厳しい顔になる。
「かも知れません。キリエさんは何かのことでそれを知った、神官長がエリス様の正体に気づいてしまったことを。それであいつらをここに戻さないようにして、そんでどうしようってんだ?」
アランが一瞬だけ口を閉ざし、そして続ける。
「トーヤから聞いてた話、ここに来てから実際に見てきたあの人から考えると、おそらく、自分一人だけでなんとかしようとしてるんでしょう、神官長のことを」
「キリエ様……」
ミーヤにもそうとしか思えなかった。
「何をやるつもりなんだ」
ディレンが冷静にそう聞く。
「分からないけど、どんなことでもやりそうですよね、あの人なら」
ミーヤはその通りだと思ったが、口には出せなかった。出してしまうとキリエは本当になんでもやってしまいそうに思ったからだ。
「鋼鉄の侍女頭」「シャンタル宮の独裁者」色んな呼ばれ方で恐れられているキリエではあるが、その一番恐ろしいのはそこではない、とミーヤは思っていた。
「キリエ様はシャンタルとマユリアのためなら、宮のためならご自分の命など落ち葉か何かのように簡単に捨てられると思います。そんなことだけは絶対に止めないと」
ミーヤの言葉にアランとディレンも黙って頷いた。
「私の知る限りでは、神官長がそのようなことを知る機会はなかったように思います。トーヤとは目を覚ました時に一度会っているだけですし、その後で話が進んでいく間、一度も接触をしたことはなかったと思います。交代の日の夕刻、神官長は確かに奥宮へ来られたと聞きましたが、それはすでにシャンタルがお眠りになった後でした」
「ということは、その計画を途中から知ることはなかった、それでいいですか?」
「絶対にとは言えませんが、ほぼなかったと思います。話を進める間、リルでさえどうやって遠ざけようかと苦心したぐらいですから」
「あ~そういやそう言ってたな」
アランが話を聞いた時のことと実際のリルに会ってからのことを思い出し、少しばかり笑った顔になる。
「トーヤが、リルさんと再会した後、リルさんには黙っていようかと思った自分を殴ってやりたくなるって言ってました」
「まあ」
ミーヤがその言葉を聞いてクスリと笑った。
「本当に情報通で大した人です」
「ええ、リルには本当にいつも感心させられるの」
「さすが大商会の会長を父に持つだけのことはあるな」
ディレンもそう言って笑った。
「でも、その比較的近くにいたリルさんですら知らなかった、途中からは色々と関わっていたのに。神官長の情報網がどのぐらいか分からないけど、事が起きるまでは知らなかった可能性は高そうですね」
「ええ」
「ってことは」
アランがうーんと上を向いて一つ考えて、
「事が起こった後で知った、ということかも知れない」
「え?」
「例えば、何かの理由で湖に戻って、それでトーヤたちが棺桶を引き上げてる作業を見てしまったとか」
「そんな……」
あるのだろうか。
「なんか、トーヤが銀色の柱に吹き上げられたとか言ってましたけど、それに気がついて戻った、なんてことないですか」
「でもその時はおそらく衛士や神官たちと一緒にいたと思うんです。何か異変を感じたらルギたちもみんな一緒に戻っていたのではないでしょうか」
「あ~なるほど」
「もしもそんなことがあったら隊長がなんとか引き止めてそうだな」
「私もそう思います。そもそもルギはそのために葬列の一番最後を引き受けたのだとキリエ様もおっしゃっていました」
「ってことは、何かあったとすると解散した後か」
アランはあくまで神官長が戻った可能性を考えているようだった。
実際、神官長は戻っている。そして棺を引き上げる現場ではなく、もう一度沈める場面を見ている。そしてそのことをキリエに告げた。自分は知っているのだと。
「でもそれはあくまで推測にすぎんだろう。その前提で話を進めると推論が曲がっちまわんか?」
「そうなんですよね」
そう言いながらもアランはその説を捨てたくはなさそうだ。
「でも、そう考えると、なんか色々なことが納得できそうなんすよねえ。例えば、死んだはずの先代が生きて戻ったー、奇跡だー、とかって言って、そんで、もうこんな堕落した王様にはこの国を任せてはおけない、これからはシャンタルが直々に統治なさる、とかって、自分が後ろ盾になる、とか」
「でも、それにはシャンタルのご意思が必要ですよね」
「神官長が、シャンタルが昔の人形みたいなままだって思ってたら?」
「あ……」
言われてミーヤもそのことを思い出した。
「確かに、お目覚めになる前のシャンタルのままだと思いこんでいるのなら、そんなことを考えても不思議ではないかも知れません」
「でしょ?」
「でもな」
ディレンが異議を申し立てる。
「その御本人の行き先を知ってる、今どこにいるのか知ってないとそれは不可能だぞ」
「もしかしたら」
アランの表情が金に近い茶色の髪で陰る。嫌な考えにたどり着いたようだ。
「神官長はエリス様がシャンタルだと気がついてる?」
「あ!」
ミーヤの中で謎が一つ解けた。
「それででしょうか、キリエ様が戻らぬようにとおっしゃっているのは」
アランがさらに厳しい顔になる。
「かも知れません。キリエさんは何かのことでそれを知った、神官長がエリス様の正体に気づいてしまったことを。それであいつらをここに戻さないようにして、そんでどうしようってんだ?」
アランが一瞬だけ口を閉ざし、そして続ける。
「トーヤから聞いてた話、ここに来てから実際に見てきたあの人から考えると、おそらく、自分一人だけでなんとかしようとしてるんでしょう、神官長のことを」
「キリエ様……」
ミーヤにもそうとしか思えなかった。
「何をやるつもりなんだ」
ディレンが冷静にそう聞く。
「分からないけど、どんなことでもやりそうですよね、あの人なら」
ミーヤはその通りだと思ったが、口には出せなかった。出してしまうとキリエは本当になんでもやってしまいそうに思ったからだ。
「鋼鉄の侍女頭」「シャンタル宮の独裁者」色んな呼ばれ方で恐れられているキリエではあるが、その一番恐ろしいのはそこではない、とミーヤは思っていた。
「キリエ様はシャンタルとマユリアのためなら、宮のためならご自分の命など落ち葉か何かのように簡単に捨てられると思います。そんなことだけは絶対に止めないと」
ミーヤの言葉にアランとディレンも黙って頷いた。
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