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第四章 第二部
12 逆転不可能
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ハリオたちが元王宮衛士の話を持ち帰ったその夜、アーリンにダルの部屋に泊まっていくようにと声がかけられた。
「今日はもう疲れただろう、俺の部屋でよければ一緒に泊まっていくといいよ。侍女頭のキリエ様からそういうお話があった。アーリンにご苦労さまでした、よく働いてくれましたと労ってやってほしいとのお言葉もあったし」
その言葉を聞いてアーリンはもう天にも昇る心地、舞い上がるようにしてダルの部屋の客になることとなった。
「客用のベッドを入れてもらったからゆっくり休んで」
そう言われて言葉も発せずにこくこくと首をひたすら上下するだけで、緊張しまくってダルの部屋へと一緒に下がっていった。
「さて、そんで誰かがこの部屋に話に来られるわけだな」
アランがそう言うのには理由がある。アーリンがダルの部屋に下がった後、ハリオがルギに呼ばれて別の部屋へと移動したからだ。
「遅くからの時間は承知していますが、今夜のうちにもう少し詳しく話を伺いたい。他の方の迷惑になるかも知れませんので、申し訳ないがハリオ殿は今夜は別室に移動願えますか」
そう行われて部屋を出たので、今この部屋にいるのはアランとディレンの2人だけだ。
「はてさて、どなたが来られるのやら」
と、ふざけたように言うアランにディレンが笑って見せるが、八年前の出来事を知っていてハリオとアーダはこの件を知らないと思っている者、警護隊長が去った今、もう当てはまる人物は一人しかいない。そして予想通りの人が思った通りの侍女を連れてアランとディレンが待つ部屋へとやって来た。
「相談したいことがあります」
ミーヤを伴って部屋へ来たキリエは、入って挨拶を済ませるとすぐに要件へと入った。
「アーダはダルとアーリンの世話役に就けました。これで少しゆっくり話をできるというものの、時間も遅いこと、できるだけ早くお二人の率直な意見を伺いたいのです」
そうしてキリエが2人に尋ねたのは、ルギと話していたように神官長の矛盾する行動についてであった。
「それ、俺も気になってました」
アランがもう敬語など気にせずに率直に答える。
「どう考えても今日聞いた話では今の王様の足引っ張ってますよね。すんなり新旧交代させたいなら、もう黙ってほっとけばいいだけなのに」
「そうだな」
ディレンもアランに同意する。
「それをわざわざ親殺しだの、天が怒ってるだの、せっかく座った王様の椅子からひきずり降ろそうとかかってる。何年も一緒に準備してやっと頂点に座らせたってのに、なんでだ?」
「ええ」
キリエが見た目だけはいつもと変わらぬ様子で短く答える。
「やはりその見解で間違いではないのですね」
「ええ、そう思いますよ」
「俺もそう思います」
「そうですか」
キリエが違う神域から来た2人の答えを聞いて納得する。
「ルギと、もしかすると外の世界から来た方には分かる何かがあるのかも知れない、そういう話になって伺いに来ました。トーヤなら何か違う見方をするのではないかとも」
「いやいや、ないですよ」
アランが少しばかり笑いながら答えた。
「いくらアルディナから来たって言っても、さすがにこの状態はそうですね、うちの妹風に言うといみわかんね~、ってとこですか」
「まあ」
軽くベルの真似をしながらそう言うアランに、やっとキリエも少しだけ気持ちを緩ませたようだ。
「ベルさんは本当にかわいらしい、いつも見ていて元気になれます」
キリエがそう付け加えてさらに微笑むその姿に、アランが心の中で「おおっ!」と小さく驚きの声を上げた。まさかこんな状況で、キリエからそんな言葉、そんな表情が出てくるとは思わなかったのだ。
「いや、そう言ってもらえると、なんてか、申し訳ない」
「いえ、本当に」
「ああ、嬢ちゃんは本当に不思議な子だと俺も思うぞ」
「はあ」
大の大人2人にそう言われ、ますます恐縮する。
「ですが、まあ、今はあいつのことは置いといて、もうはっきり言いますが、黒幕らしい神官長の動きの謎についてです」
アランは自分が脱線のきっかけを作っただけに、いつもよりかっちりと路線を敷き直した。
「そうでしたね」
キリエもいつもの様子に戻る。
「時間もないことですし、私の見解をではまず聞いていただきます」
「分かりました」
アランの答えにキリエが時間を置かずにすぐに言葉を続けた。
「神官長は、もしかすると2人をぶつからせて勝った方に付くつもりなのではないかと」
「その可能性もありますね」
アランもすぐに答える。
「ですが、それは両者の力が拮抗してる、勝敗がつきにくい時の話です。今回の勝負、一度は息子の勝利で終わった。それは前回の勝負に負けた息子が千載一遇の機会を逃すまい、そう考えて八年の間コツコツと積み上げ、機会を待った結果ひっくり返すことに成功したからです。不意を突かれた父親には手も足も出なかった。だから王宮のどこかに幽閉され、本当ならそのまま息子が天女をかっさらうのを地団駄踏みながら見るしかない、そういう結果が出てたんです。そのままではおそらく再逆転は不可能でした」
アランの言葉にキリエもディレンもミーヤも黙って頷くしかない。
「今日はもう疲れただろう、俺の部屋でよければ一緒に泊まっていくといいよ。侍女頭のキリエ様からそういうお話があった。アーリンにご苦労さまでした、よく働いてくれましたと労ってやってほしいとのお言葉もあったし」
その言葉を聞いてアーリンはもう天にも昇る心地、舞い上がるようにしてダルの部屋の客になることとなった。
「客用のベッドを入れてもらったからゆっくり休んで」
そう言われて言葉も発せずにこくこくと首をひたすら上下するだけで、緊張しまくってダルの部屋へと一緒に下がっていった。
「さて、そんで誰かがこの部屋に話に来られるわけだな」
アランがそう言うのには理由がある。アーリンがダルの部屋に下がった後、ハリオがルギに呼ばれて別の部屋へと移動したからだ。
「遅くからの時間は承知していますが、今夜のうちにもう少し詳しく話を伺いたい。他の方の迷惑になるかも知れませんので、申し訳ないがハリオ殿は今夜は別室に移動願えますか」
そう行われて部屋を出たので、今この部屋にいるのはアランとディレンの2人だけだ。
「はてさて、どなたが来られるのやら」
と、ふざけたように言うアランにディレンが笑って見せるが、八年前の出来事を知っていてハリオとアーダはこの件を知らないと思っている者、警護隊長が去った今、もう当てはまる人物は一人しかいない。そして予想通りの人が思った通りの侍女を連れてアランとディレンが待つ部屋へとやって来た。
「相談したいことがあります」
ミーヤを伴って部屋へ来たキリエは、入って挨拶を済ませるとすぐに要件へと入った。
「アーダはダルとアーリンの世話役に就けました。これで少しゆっくり話をできるというものの、時間も遅いこと、できるだけ早くお二人の率直な意見を伺いたいのです」
そうしてキリエが2人に尋ねたのは、ルギと話していたように神官長の矛盾する行動についてであった。
「それ、俺も気になってました」
アランがもう敬語など気にせずに率直に答える。
「どう考えても今日聞いた話では今の王様の足引っ張ってますよね。すんなり新旧交代させたいなら、もう黙ってほっとけばいいだけなのに」
「そうだな」
ディレンもアランに同意する。
「それをわざわざ親殺しだの、天が怒ってるだの、せっかく座った王様の椅子からひきずり降ろそうとかかってる。何年も一緒に準備してやっと頂点に座らせたってのに、なんでだ?」
「ええ」
キリエが見た目だけはいつもと変わらぬ様子で短く答える。
「やはりその見解で間違いではないのですね」
「ええ、そう思いますよ」
「俺もそう思います」
「そうですか」
キリエが違う神域から来た2人の答えを聞いて納得する。
「ルギと、もしかすると外の世界から来た方には分かる何かがあるのかも知れない、そういう話になって伺いに来ました。トーヤなら何か違う見方をするのではないかとも」
「いやいや、ないですよ」
アランが少しばかり笑いながら答えた。
「いくらアルディナから来たって言っても、さすがにこの状態はそうですね、うちの妹風に言うといみわかんね~、ってとこですか」
「まあ」
軽くベルの真似をしながらそう言うアランに、やっとキリエも少しだけ気持ちを緩ませたようだ。
「ベルさんは本当にかわいらしい、いつも見ていて元気になれます」
キリエがそう付け加えてさらに微笑むその姿に、アランが心の中で「おおっ!」と小さく驚きの声を上げた。まさかこんな状況で、キリエからそんな言葉、そんな表情が出てくるとは思わなかったのだ。
「いや、そう言ってもらえると、なんてか、申し訳ない」
「いえ、本当に」
「ああ、嬢ちゃんは本当に不思議な子だと俺も思うぞ」
「はあ」
大の大人2人にそう言われ、ますます恐縮する。
「ですが、まあ、今はあいつのことは置いといて、もうはっきり言いますが、黒幕らしい神官長の動きの謎についてです」
アランは自分が脱線のきっかけを作っただけに、いつもよりかっちりと路線を敷き直した。
「そうでしたね」
キリエもいつもの様子に戻る。
「時間もないことですし、私の見解をではまず聞いていただきます」
「分かりました」
アランの答えにキリエが時間を置かずにすぐに言葉を続けた。
「神官長は、もしかすると2人をぶつからせて勝った方に付くつもりなのではないかと」
「その可能性もありますね」
アランもすぐに答える。
「ですが、それは両者の力が拮抗してる、勝敗がつきにくい時の話です。今回の勝負、一度は息子の勝利で終わった。それは前回の勝負に負けた息子が千載一遇の機会を逃すまい、そう考えて八年の間コツコツと積み上げ、機会を待った結果ひっくり返すことに成功したからです。不意を突かれた父親には手も足も出なかった。だから王宮のどこかに幽閉され、本当ならそのまま息子が天女をかっさらうのを地団駄踏みながら見るしかない、そういう結果が出てたんです。そのままではおそらく再逆転は不可能でした」
アランの言葉にキリエもディレンもミーヤも黙って頷くしかない。
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