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第四章 第一部 最後のシャンタル
16 神の役割
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ミーヤは心が苦しくなり、ギュッと胸の前で両手を握りしめていた。
トーヤの気持ちはとてもよく分かる。歴代シャンタルの想いやその後のことを知ってしまった今となっては、そのお立場で生きていらっしゃる御本人を知る立場となってしまった今となっては、確かにその方たちの犠牲の上にこの国の、世界の平穏があるのだと理解してしまったからだ。
そしてその一方、幼い日に憧れたように侍女となり、神に、主に仕える身としては、今も変わらず神は、主は絶対の存在であることにも変わりはない。
「トーヤ……」
2つの心に引き裂かれそうになりながら、思わずミーヤはトーヤに声をかけていた。
「なんだ……」
トーヤはミーヤの苦しそうな胸の内を察したのかそちらを見ることができず、横顔で返事をする。
「それでも」
ミーヤは想いをなかなか言葉にできず、ゆっくりと絞り出すように続けた。
「それでも、シャンタル女神がこの神域を守ってくださったから今がある、トーヤや他の人たちとも出会えた、私はそう思っています」
「…………」
トーヤは何か答えようと思ったが何も言葉が浮かばなかった。
ミーヤの気持ちも分かるし、言っていることも分かる。この光が、この神様が、本心から人のことを想い、慈しみ、その心からこの地に残り、見守り続けるためにそのような方法を取ったということが真実であるとも分かった。
だが、八年前の一連の出来事、ラーラ様、マユリア、シャンタル、当代の苦しむ姿、そしてルークの最後のあの表情、そしてなにより大切な人と離れ離れでいたこの八年の月日を思うと、嫌味や厳しい言葉の2つや3つ、4つ5つ、いやもっともっと言ってやっても足りないぐらいの気持ちであったのだ。それでミーヤの言葉に答えようと思いながら何も言えずにいた。
『ミーヤ、ありがとう』
トーヤの逡巡を優しく断ち切るように光がミーヤに声をかけた。
『ただ、トーヤの言うことも最もなことなのです。わたくしはそのことをよく分かっています。ですが、その上で、あの選択をしたことをわたくしは悔いてはいない、そう言えます』
その言葉にトーヤがゆっくりと顔を上げ、光を見上げた。
『あの時、神々が人の世から離れると告げた時の人の絶望を浮かべた顔を、わたくしは永遠に忘れることはありません。あの姿を見た時にわたくしは決断をしたのです。人のために人の世に残ることを。ですから後悔はありません、それがたとえ失敗であると言われても。そのように決断すること、そのことこそ神の役割であったのですから』
ゆっくりと、静かに、だがはっきりと光はそう宣言をした。
誰もが黙って光の言葉を聞いていた。それぞれの胸にそれぞれ思うことがあったとしても、その言葉は真実であると、光の波動と共にその心にと届いていた。
「そうか……」
そんな中、トーヤはその言葉に答えることが自分の役割であるというように、ぽつりとそう答えた。
「あんたの覚悟は分かったよ。俺は、覚悟を決めた人間が好きだ。いや、神様だったか」
トーヤの軽い冗談口に光が笑ったようにゆるく揺れた。
「その上で一つだけ聞きたい。人の世に残った神様は3人だよな。光の女神アルディナ、剣の女神アイリス、そしてあんた、慈悲の女神シャンタルだ。あんたはどうしてアルディナみたいに神様の世界ってのから人の世界を見守る道を取らなかったんだ。もしもそうしてたら、二十年もの間親から子どもを取り上げる、なんてことしなくて済んだんじゃねえのか」
最後の抵抗のようにトーヤがその言葉をぶつけた。
『創世記』
「え?」
『創世記から分かったのではないですか』
「何がだよ」
『神が身を分かち、最初に生まれたのは光の女神アルディナと闇の男神ドルカスです』
「うん、それは聞いた。そんで?」
『最も尊き神、それはアルディナとドルカスです』
「え?」
トーヤがちょっと意外だというように短くそう答えた。
『なぜ戸惑うのです』
「なんでって……」
トーヤも言われて少し考え、そして思いついたことを答えた。
「なんってのかな、光の神様ってのはありがたいもんだと思う。だから一番尊いと言われてもそうなのかって思うけど、闇の神様ってのは悪い神様、光の神様の敵、みたいに思っていたからな」
トーヤの素直な言葉に光がふわりと揺れる。
それは、笑うようにも泣くようにも、そしてトーヤを嗜めるようにも思えた。
『闇は光と同じく尊いもの』
光がそうとだけ言い、トーヤもまた戸惑う。
『初めに生まれし光と闇、そこより生まれた光の女神と闇の男神。それは等しく、最も尊いのです』
言い聞かせるように光が続けた。
「いやあ、でもよ……やっぱり闇ってのは悪いことするのには最適だし、そこに隠れてる魔ってのかな、そういうのの味方って気がするぜ。人がよろしくないことをするのにうってつけなのは、光のある昼間より夜の闇の中ってな」
「そうだよな」
辛坊たまらなくなったというようにベルもトーヤに同意した。
「おれは、戦場でずっと暮らしてて夜とか闇ってのはそんなに怖いと思わねえんだけど、そこに隠れてる、その、魔とか、おばけとか、そういうのはやっぱり怖い」
ベルの正直な言葉に光が声を上げて笑うようにキラキラと揺れた。
トーヤの気持ちはとてもよく分かる。歴代シャンタルの想いやその後のことを知ってしまった今となっては、そのお立場で生きていらっしゃる御本人を知る立場となってしまった今となっては、確かにその方たちの犠牲の上にこの国の、世界の平穏があるのだと理解してしまったからだ。
そしてその一方、幼い日に憧れたように侍女となり、神に、主に仕える身としては、今も変わらず神は、主は絶対の存在であることにも変わりはない。
「トーヤ……」
2つの心に引き裂かれそうになりながら、思わずミーヤはトーヤに声をかけていた。
「なんだ……」
トーヤはミーヤの苦しそうな胸の内を察したのかそちらを見ることができず、横顔で返事をする。
「それでも」
ミーヤは想いをなかなか言葉にできず、ゆっくりと絞り出すように続けた。
「それでも、シャンタル女神がこの神域を守ってくださったから今がある、トーヤや他の人たちとも出会えた、私はそう思っています」
「…………」
トーヤは何か答えようと思ったが何も言葉が浮かばなかった。
ミーヤの気持ちも分かるし、言っていることも分かる。この光が、この神様が、本心から人のことを想い、慈しみ、その心からこの地に残り、見守り続けるためにそのような方法を取ったということが真実であるとも分かった。
だが、八年前の一連の出来事、ラーラ様、マユリア、シャンタル、当代の苦しむ姿、そしてルークの最後のあの表情、そしてなにより大切な人と離れ離れでいたこの八年の月日を思うと、嫌味や厳しい言葉の2つや3つ、4つ5つ、いやもっともっと言ってやっても足りないぐらいの気持ちであったのだ。それでミーヤの言葉に答えようと思いながら何も言えずにいた。
『ミーヤ、ありがとう』
トーヤの逡巡を優しく断ち切るように光がミーヤに声をかけた。
『ただ、トーヤの言うことも最もなことなのです。わたくしはそのことをよく分かっています。ですが、その上で、あの選択をしたことをわたくしは悔いてはいない、そう言えます』
その言葉にトーヤがゆっくりと顔を上げ、光を見上げた。
『あの時、神々が人の世から離れると告げた時の人の絶望を浮かべた顔を、わたくしは永遠に忘れることはありません。あの姿を見た時にわたくしは決断をしたのです。人のために人の世に残ることを。ですから後悔はありません、それがたとえ失敗であると言われても。そのように決断すること、そのことこそ神の役割であったのですから』
ゆっくりと、静かに、だがはっきりと光はそう宣言をした。
誰もが黙って光の言葉を聞いていた。それぞれの胸にそれぞれ思うことがあったとしても、その言葉は真実であると、光の波動と共にその心にと届いていた。
「そうか……」
そんな中、トーヤはその言葉に答えることが自分の役割であるというように、ぽつりとそう答えた。
「あんたの覚悟は分かったよ。俺は、覚悟を決めた人間が好きだ。いや、神様だったか」
トーヤの軽い冗談口に光が笑ったようにゆるく揺れた。
「その上で一つだけ聞きたい。人の世に残った神様は3人だよな。光の女神アルディナ、剣の女神アイリス、そしてあんた、慈悲の女神シャンタルだ。あんたはどうしてアルディナみたいに神様の世界ってのから人の世界を見守る道を取らなかったんだ。もしもそうしてたら、二十年もの間親から子どもを取り上げる、なんてことしなくて済んだんじゃねえのか」
最後の抵抗のようにトーヤがその言葉をぶつけた。
『創世記』
「え?」
『創世記から分かったのではないですか』
「何がだよ」
『神が身を分かち、最初に生まれたのは光の女神アルディナと闇の男神ドルカスです』
「うん、それは聞いた。そんで?」
『最も尊き神、それはアルディナとドルカスです』
「え?」
トーヤがちょっと意外だというように短くそう答えた。
『なぜ戸惑うのです』
「なんでって……」
トーヤも言われて少し考え、そして思いついたことを答えた。
「なんってのかな、光の神様ってのはありがたいもんだと思う。だから一番尊いと言われてもそうなのかって思うけど、闇の神様ってのは悪い神様、光の神様の敵、みたいに思っていたからな」
トーヤの素直な言葉に光がふわりと揺れる。
それは、笑うようにも泣くようにも、そしてトーヤを嗜めるようにも思えた。
『闇は光と同じく尊いもの』
光がそうとだけ言い、トーヤもまた戸惑う。
『初めに生まれし光と闇、そこより生まれた光の女神と闇の男神。それは等しく、最も尊いのです』
言い聞かせるように光が続けた。
「いやあ、でもよ……やっぱり闇ってのは悪いことするのには最適だし、そこに隠れてる魔ってのかな、そういうのの味方って気がするぜ。人がよろしくないことをするのにうってつけなのは、光のある昼間より夜の闇の中ってな」
「そうだよな」
辛坊たまらなくなったというようにベルもトーヤに同意した。
「おれは、戦場でずっと暮らしてて夜とか闇ってのはそんなに怖いと思わねえんだけど、そこに隠れてる、その、魔とか、おばけとか、そういうのはやっぱり怖い」
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