黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第三章 第ニ部 助け手の秘密

10 二羽の小鳥

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 ミーヤはアランたちの部屋へ挨拶を済ませると、ルギの執務室へ私物を取りに行った。
 大部分の荷物は衛士たちによって元の部屋へ運ばれていたが、貴重品だけは本人が受け取りに行く必要があったからだ。

 そうして受け取った貴重品箱を元の通りの部屋に運び入れ、物の配置などを確認してから、ある物を一つだけ持って、セルマと過ごした、そして今はセルマが拘束され続けている部屋へと向かった。

「ただいま戻りました」

 ミーヤがそう行って部屋へ入ると、セルマは少し驚いた顔をした。

「どうかされましたか?」
「いえ、こんなに早く戻ってくるとは思わなかったので」
「今日は担当の部屋へ挨拶に行くだけで、勤めは明日からでよいと言われたので戻ってまいりました」

 その言葉を聞いてセルマが目を丸くする。

「呆れますね」
「え?」
「私だったらとっとと自分の部屋に戻って休みますよ」
「貴重品を受け取って一度は戻りましたよ。それで、これを」

 そう言ってミーヤが大切に取り出したのは、

「青い小鳥……」
「はい、フェイの宝物です」

 今、この部屋には「アベル」が作った木彫りの青い小鳥がいる。
 初めて2羽の青い小鳥が揃った。

 ミーヤが木彫りの小鳥の横にガラスの小鳥をそっと並べて置く。

 やっと再会できたような、懐かしそうな、そんな視線を交わしているように思える。

 荒い木彫り、粗雑な造りの青い小鳥と、キラキラと輝くガラスの青い小鳥。
 まるで違うのに、なぜだろう、どこか似ている2羽の青い小鳥。

「不思議ですね」
「ええ」

 セルマがそう言い、ミーヤがそう答える。

 何が不思議なのか、2人の思いが一緒かどうかは分からない。
 だがそれは問題ではないような気がした。「不思議だ」と思った、その共通点だけあれば内容は関係がないような、そんな気がした。

「この子は元々はリルが安産のお守りとしていただいた子だということですので、明日、返そうと思います」
「そうですね」
「でも今日だけは、一緒にこの部屋に」
「ええ」

 並んだ小鳥を2人で黙って見ている。
 
 ただ時が流れている。

 不思議な関係になった2人が並んでいる。

 だがそれも今日までだ、明日からは立場が変わる。

「フェイをこの部屋に置いてやろうかと思います」
「いいえ、それはだめ」
「え?」
「この子はあなたの大事な子なのでしょう? フェイの宝物で、思い出の詰まった大事な子。そんな子をこの部屋にいつまでも置いていてはだめです。あなたの大事な場所に戻してやって」
「セルマ様……」

 消えない水音に震えるセルマを守るためにリルから借りた青い小鳥。守ってくれた青い小鳥。ガラスの小鳥がミーヤの元に戻ってきた今、リルの小鳥はリルに返してやらないといけない。そして代わりにフェイのお友達にこの部屋にいてもらおうと思っていたのだが。

「私はもう大丈夫です。だからそうしてやってください」
「…………」

 ミーヤはじっと黙ってセルマの目を見た。
 
 ゆるぎがない。
 今はすっかり落ち着いているセルマ。

「大丈夫ですか?」
「ええ」

 セルマはそう言ってやさしくニッコリと笑う。
 とても、あの険しい目で宮の者たちを睥睨へいげいしていた「取次役」と同じ人物とは思えない。

「勘違いはしないでね」

 セルマは優しい顔のまま続ける。

「この部屋を出たら私は元通りあなたの敵です。もちろんキリエ殿に対する考えも今までとは変わっていません」

 そうは言うが、言葉通りにキリエに憎しみをたぎらせているとはミーヤにはすでに思えなかった。

「正義のためなら自分の考えを曲げることもする。その気持ちは今も変わってはいません。そしてそれはキリエ殿もきっと同じはず」

 ミーヤは思い出していた。ついさっき、キリエが言っていたことを。

『マユリアが、交代までに形をつけるようにとおっしゃったので、嘘をつくことになりました』

 自分も含め、侍女たちはその身も心も命も神に捧げている。
 そのために必要なら一番の禁忌である嘘をつくこともまた正義。
 矛盾しているが、そのようなこともあり得ないことはない。
 今、そのあり得ないことが起きているからこそ、キリエも正義に殉ずるために、自分の正義を曲げているのだ。

 セルマも同じ。
 元は正義感強いセルマが、それでもその正義を曲げているのも同じ理由なのだろう。

 では、セルマをその正義に駆り立てているのは誰なのか。
 見た目だけならそれは神官長と言える。
 
(だけど……)

 ミーヤには神官長がセルマにそれほどの影響を与えられるとは思えない。
 トーヤは神官長の後ろに誰かがいると言っていた。
 その誰かがいるからこそ、セルマはここまで強固に正義に向かって突き進むのだろう。

(それは一体誰なのでしょう)

 侍女にそれほどの影響力を与えることができる者とは。

「どうしました?」
「あ、いえ」

 考え事をするミーヤにセルマが尋ねる。

「分かりました、ではこの子も、フェイのお友達もまた貴重品箱に戻しておきます」
「そうしてやってください。ガラスはもろい、落ちてケガでもしたら大変ですからね」

 「落として割ったら大変」ではなく「ケガでもしたら大変」というセルマの言葉に、ミーヤはセルマが本当は優しい人間なのだと改めて思っていた。
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